第34話 玉折
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「無駄だよ」
夏油さんが言った。
「ほとんどが即死だ。君の反転術式の正の力を当てれば呪霊は即死だけど、あの数だ。今日だけで反転術式を複数回繰り返して、君の呪力もすぐに底尽きるだろう」
「・・・・・・」
「それに、酷く震えているよ」
そう言われて、初めて自分の手が震えていることに気づいた。
「怖いのだろう。強がらなくていい。行くんじゃない」
と夏油さんは私の肩に手を置いて引き留めた。
「・・・強き者が弱きを助け、強きを挫く」
そう言って、私は夏油さんを振り返る。
鋭い視線を向けると、夏油さんは私の肩から手を離した。
「そう言ったのは、傑君でしょ?呪術は非術師を守る為にあるって、そう言ったじゃない!なのに、何故それを傷つける為に使うの?」
「・・・・・・」
「どうして変わってしまったの・・・」
「私は何も変わってないよ、和紗」
穏やかな声で、夏油さんは言った。
「ただ、私にとって弱者とは、非術師ではなく、術師となったんだ」
「・・・・・・・」
「このままでは我々術師は、皆、非術師に、非術師が垂れ流す呪いに、消耗され滅ぼされてしまう」
「・・・・・・・」
「私は術師 を守る為に、非術師 を滅ぼす」
「・・・・・・」
「そして、術師だけの世界を作るんだ」
それは、狂気の言葉と思想だった。
それなのに、幼子に御伽話を聞かせるような、静かで優しい声だった。
「君達はついてくるかい?」
と夏油さんが微笑んで、後ろを振り返る。
私はハッとして、そちらを見る。
そこには、眠っているはずの菜々子ちゃんと美々子ちゃんが立っていた。
「・・・・・・」
二人はコクリと頷くと、小走りで駆けつけて夏油さんの足元に抱きついた。
「和紗」
夏油さんは右手を私に差し出し言った。
「一緒に行こう」
扉の向こうでは、断末魔が響き渡っている。
助けを乞う声。
恐怖に怯える声。
「どこにも行けるわけない」
私は夏油さんの手を振り払った。
「こんなことをして、どこにも行けるわけない!」
そして、もう一度扉に手をかけて開けようとした時だった。
「・・・そうか」
と呟くと、夏油さんは一体の呪霊を出現させた。
球体のような形態の呪霊を。
そして、鋭い視線を向けながらジリジリと私に詰め寄る。
「・・・・・・」
私は身を強張らせる。
殺される。
怯えて目を閉じた時だった。
「和紗」
閉じていた私の目は、思わぬことにすぐに開いた。
「私を決して許さないでくれ」
夏油さんが私を抱き締める。
その声は、小さく震えていた。
「・・・傑君」
私は両手をそっと夏油さんの背中に回した。
「帰ろう。呪術高専へ・・・皆んなのところへ」
「・・・・・・」
「悟君も硝子も、待ってるから・・・」
「帰れない」
そう言うと、夏油さんは私から身体を離した。
「私はもう戻れない」
そして扉を開けて、外へ一歩踏み出した。
「傑君・・・っ」
私も後を追い外へ出ようとした時だった。
「!?」
球体の呪霊が突如包帯のように解けて、私の周囲を取り囲み始めた。
気がつけば、私は球体の呪霊の中に閉じ込められていた。
「傑君!?」
呪霊の内側を両手で叩いて叫んだ。
「出して!ここから出して!」
だけど反応はない。
「お願い、ここから出して・・・!」
やがて村人の断末魔は消えて、代わりに何かが燃焼するような熱さと匂いが立ち込めてきた。
火を村に放ったのだろうか。
「ゲホッ、ゲホッ!」
煙がこちらの内側にも繋ぎ目から入り込んで来た。
煙を吸い込んで、私はむせこむ。
そして、次第に意識が朦朧とし始めた。
ガクリと私は膝から倒れ込んだ。
「・・・行かないで・・・」
そう呟いて、私は意識を失った。
この5日後。
旧◼️◼️村の住人112名の死亡が確認される。
全て呪霊による被害かと思われたが、残穢から夏油傑の呪霊操術と断定。
夏油傑は逃亡。
呪術規定9条に基づき、呪詛師として処刑対象となる。
この日を最後に、私が傑君に会うことは二度となかった。
つづく
夏油さんが言った。
「ほとんどが即死だ。君の反転術式の正の力を当てれば呪霊は即死だけど、あの数だ。今日だけで反転術式を複数回繰り返して、君の呪力もすぐに底尽きるだろう」
「・・・・・・」
「それに、酷く震えているよ」
そう言われて、初めて自分の手が震えていることに気づいた。
「怖いのだろう。強がらなくていい。行くんじゃない」
と夏油さんは私の肩に手を置いて引き留めた。
「・・・強き者が弱きを助け、強きを挫く」
そう言って、私は夏油さんを振り返る。
鋭い視線を向けると、夏油さんは私の肩から手を離した。
「そう言ったのは、傑君でしょ?呪術は非術師を守る為にあるって、そう言ったじゃない!なのに、何故それを傷つける為に使うの?」
「・・・・・・」
「どうして変わってしまったの・・・」
「私は何も変わってないよ、和紗」
穏やかな声で、夏油さんは言った。
「ただ、私にとって弱者とは、非術師ではなく、術師となったんだ」
「・・・・・・・」
「このままでは我々術師は、皆、非術師に、非術師が垂れ流す呪いに、消耗され滅ぼされてしまう」
「・・・・・・・」
「私は
「・・・・・・」
「そして、術師だけの世界を作るんだ」
それは、狂気の言葉と思想だった。
それなのに、幼子に御伽話を聞かせるような、静かで優しい声だった。
「君達はついてくるかい?」
と夏油さんが微笑んで、後ろを振り返る。
私はハッとして、そちらを見る。
そこには、眠っているはずの菜々子ちゃんと美々子ちゃんが立っていた。
「・・・・・・」
二人はコクリと頷くと、小走りで駆けつけて夏油さんの足元に抱きついた。
「和紗」
夏油さんは右手を私に差し出し言った。
「一緒に行こう」
扉の向こうでは、断末魔が響き渡っている。
助けを乞う声。
恐怖に怯える声。
「どこにも行けるわけない」
私は夏油さんの手を振り払った。
「こんなことをして、どこにも行けるわけない!」
そして、もう一度扉に手をかけて開けようとした時だった。
「・・・そうか」
と呟くと、夏油さんは一体の呪霊を出現させた。
球体のような形態の呪霊を。
そして、鋭い視線を向けながらジリジリと私に詰め寄る。
「・・・・・・」
私は身を強張らせる。
殺される。
怯えて目を閉じた時だった。
「和紗」
閉じていた私の目は、思わぬことにすぐに開いた。
「私を決して許さないでくれ」
夏油さんが私を抱き締める。
その声は、小さく震えていた。
「・・・傑君」
私は両手をそっと夏油さんの背中に回した。
「帰ろう。呪術高専へ・・・皆んなのところへ」
「・・・・・・」
「悟君も硝子も、待ってるから・・・」
「帰れない」
そう言うと、夏油さんは私から身体を離した。
「私はもう戻れない」
そして扉を開けて、外へ一歩踏み出した。
「傑君・・・っ」
私も後を追い外へ出ようとした時だった。
「!?」
球体の呪霊が突如包帯のように解けて、私の周囲を取り囲み始めた。
気がつけば、私は球体の呪霊の中に閉じ込められていた。
「傑君!?」
呪霊の内側を両手で叩いて叫んだ。
「出して!ここから出して!」
だけど反応はない。
「お願い、ここから出して・・・!」
やがて村人の断末魔は消えて、代わりに何かが燃焼するような熱さと匂いが立ち込めてきた。
火を村に放ったのだろうか。
「ゲホッ、ゲホッ!」
煙がこちらの内側にも繋ぎ目から入り込んで来た。
煙を吸い込んで、私はむせこむ。
そして、次第に意識が朦朧とし始めた。
ガクリと私は膝から倒れ込んだ。
「・・・行かないで・・・」
そう呟いて、私は意識を失った。
この5日後。
旧◼️◼️村の住人112名の死亡が確認される。
全て呪霊による被害かと思われたが、残穢から夏油傑の呪霊操術と断定。
夏油傑は逃亡。
呪術規定9条に基づき、呪詛師として処刑対象となる。
この日を最後に、私が傑君に会うことは二度となかった。
つづく
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