第34話 玉折
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2007年9月。
■■県■■市(旧■■村)において、変死・神隠しが頻発。
その原因とおぼしき呪霊の祓除。
その任務に夏油さんが派遣されることになった。
「待って、傑君」
全速力で走って追いかけて何とか追いついた時、夏油さんは鳥居の下、高専の結果外へ出る寸前だった。
「和紗」
夏油さんは立ち止まり、驚いた顔で振り返る。
私はすっかり息が上がってしまい、両手を膝について身体を屈めて肩を上下させる。
「よかった、間に合って・・・」
「どうしたんだ。何か忘れ物でもしてたかな?」
「違うの」
まだ息が上がったまま、私は身体を真っ直ぐに戻し夏油さんの顔を見て言った。
「私も一緒に行く」
すると、夏油さんはますます驚く顔をした。
「そんな勝手に・・・」
「夜蛾先生の許可はもらってるの」
「え」
「直訴したの。遠方の任務に就く術師には回復役も一緒に行くべきだって」
それは灰原君のこともあるけれど、それ以降、ますますやつれていく夏油さんを一人にすることが不安でもあったからだ。
だけど、夏油さんは戸惑いを隠せないようだった。
「しかし・・・」
「高専には硝子が残るから大丈夫!」
「・・・・・・」
夏油さんはしばし考え込んだ後、
「泊まりになるけどいいの?」
と確認するように私に尋ねた。
なので、私は肩にかけていたボストンバッグを掲げて見せた。
「もちろん!準備万端!」
「いや、そういうことじゃなくて・・・」
「ん?」
額に手を当て俯いてしまった夏油さんだったが、すぐに復活した。
「急ごう。こうしている間にも被害が出ているかもしれない」
「うん」
私は真顔に戻って頷いた。
任務先の村落は、いくつもの鈍行列車を乗り継ぎ、更に最寄駅からタクシーに乗って一時間以上の山道を進みようやくたどり着くことが出来た。
朝に出発したというのに、到着した時にはもう日が傾き始めていた。
「■■■(ようこそ、お待ちしておりました)」
到着すると、村長らしき男の人とその奥様が私達を出迎えた。
方言のクセが強すぎて、何を言っているのか完璧には聞き取れない。
だけど、私達の到着を待っていたことは伝わってきた。
「■■■(今朝も一人が怪我を)!」
奥様がヒステリックに喚く。
夏油さんは彼女の話していることがわかったらしく、
「怪我の手当ては彼女が行います」
と私の背中をそっと押して、彼らの前に押し出した。
「そして私に村を案内してください。この村に起きていることの原因を探します」
すると、村長達は訝し気な顔をした。
助けを求めているものの、いまいち呪術師や呪霊の存在には懐疑的なようだった。
それでも縋るのはもう私達しかいないのだろう。
渋々ながらも、夏油さんの指示に従う。
「傑君」
別れ際、私は言った。
「気をつけてね」
すると夏油さんは目を細めて微笑み頷いた。
それから私達は別れて、私は奥様に案内されて診療所へ向かった。
診療所には年若い女性がいた。
頭に包帯を巻いて、「いたいいたい」と泣きわめいている。
その傍には彼女の母親らしき女性が心配そうに寄り添っている。
「ちょっと傷を見せてくださいね」
と私は彼女の頭に巻かれた包帯をゆっくりとほどいた。
傷口が目の前に現れ、私は眉をひそめた。
傷口からは「キュルキュル」と不快な声を上げて、蛆のような極小サイズの呪霊が涌いていた。
ただの怪我じゃない、呪いによって生じた傷だ。
私は彼女の頭に手を置いて、『反転術式』を施した。
『キ``ュルッキ``ュルルッ』
蛆のような呪霊を祓い、同時に傷口を治療した。
すると女性は痛みから解放されてホッとしたのか、そのまま眠りについてしまった。
「これで傷は治りました。あとはゆっくり養生してあげてください」
と私が言うと、母親は涙ながらに私に向かって言った。
「■■■(ありがとうございます)!」
この時ばかりは何を言っているのかわかった。
私はにこっと笑って応える。
しかし、
「■■■(一体何をして治したというの・・・?)」
「■■■(呪術師とかいう悪魔祓いの類だとか)」
「■■■(悪魔祓い?そんな怪しいのを信じてもいいの?)」
「■■■(私は反対したのよ。でも主人が聞かなくて・・・)」
「■■■(悪魔よりあの双子のことは・・・)」
部屋の片隅で、いつの間にか入ってきた高齢の女性と奥様がヒソヒソ声で何やら会話していた。
「・・・・?」
私が振り返ると、二人はバッと顔を逸らし「何でもないよ」と言わんばかりのとぼけた顔をしていた。
■■県■■市(旧■■村)において、変死・神隠しが頻発。
その原因とおぼしき呪霊の祓除。
その任務に夏油さんが派遣されることになった。
「待って、傑君」
全速力で走って追いかけて何とか追いついた時、夏油さんは鳥居の下、高専の結果外へ出る寸前だった。
「和紗」
夏油さんは立ち止まり、驚いた顔で振り返る。
私はすっかり息が上がってしまい、両手を膝について身体を屈めて肩を上下させる。
「よかった、間に合って・・・」
「どうしたんだ。何か忘れ物でもしてたかな?」
「違うの」
まだ息が上がったまま、私は身体を真っ直ぐに戻し夏油さんの顔を見て言った。
「私も一緒に行く」
すると、夏油さんはますます驚く顔をした。
「そんな勝手に・・・」
「夜蛾先生の許可はもらってるの」
「え」
「直訴したの。遠方の任務に就く術師には回復役も一緒に行くべきだって」
それは灰原君のこともあるけれど、それ以降、ますますやつれていく夏油さんを一人にすることが不安でもあったからだ。
だけど、夏油さんは戸惑いを隠せないようだった。
「しかし・・・」
「高専には硝子が残るから大丈夫!」
「・・・・・・」
夏油さんはしばし考え込んだ後、
「泊まりになるけどいいの?」
と確認するように私に尋ねた。
なので、私は肩にかけていたボストンバッグを掲げて見せた。
「もちろん!準備万端!」
「いや、そういうことじゃなくて・・・」
「ん?」
額に手を当て俯いてしまった夏油さんだったが、すぐに復活した。
「急ごう。こうしている間にも被害が出ているかもしれない」
「うん」
私は真顔に戻って頷いた。
任務先の村落は、いくつもの鈍行列車を乗り継ぎ、更に最寄駅からタクシーに乗って一時間以上の山道を進みようやくたどり着くことが出来た。
朝に出発したというのに、到着した時にはもう日が傾き始めていた。
「■■■(ようこそ、お待ちしておりました)」
到着すると、村長らしき男の人とその奥様が私達を出迎えた。
方言のクセが強すぎて、何を言っているのか完璧には聞き取れない。
だけど、私達の到着を待っていたことは伝わってきた。
「■■■(今朝も一人が怪我を)!」
奥様がヒステリックに喚く。
夏油さんは彼女の話していることがわかったらしく、
「怪我の手当ては彼女が行います」
と私の背中をそっと押して、彼らの前に押し出した。
「そして私に村を案内してください。この村に起きていることの原因を探します」
すると、村長達は訝し気な顔をした。
助けを求めているものの、いまいち呪術師や呪霊の存在には懐疑的なようだった。
それでも縋るのはもう私達しかいないのだろう。
渋々ながらも、夏油さんの指示に従う。
「傑君」
別れ際、私は言った。
「気をつけてね」
すると夏油さんは目を細めて微笑み頷いた。
それから私達は別れて、私は奥様に案内されて診療所へ向かった。
診療所には年若い女性がいた。
頭に包帯を巻いて、「いたいいたい」と泣きわめいている。
その傍には彼女の母親らしき女性が心配そうに寄り添っている。
「ちょっと傷を見せてくださいね」
と私は彼女の頭に巻かれた包帯をゆっくりとほどいた。
傷口が目の前に現れ、私は眉をひそめた。
傷口からは「キュルキュル」と不快な声を上げて、蛆のような極小サイズの呪霊が涌いていた。
ただの怪我じゃない、呪いによって生じた傷だ。
私は彼女の頭に手を置いて、『反転術式』を施した。
『キ``ュルッキ``ュルルッ』
蛆のような呪霊を祓い、同時に傷口を治療した。
すると女性は痛みから解放されてホッとしたのか、そのまま眠りについてしまった。
「これで傷は治りました。あとはゆっくり養生してあげてください」
と私が言うと、母親は涙ながらに私に向かって言った。
「■■■(ありがとうございます)!」
この時ばかりは何を言っているのかわかった。
私はにこっと笑って応える。
しかし、
「■■■(一体何をして治したというの・・・?)」
「■■■(呪術師とかいう悪魔祓いの類だとか)」
「■■■(悪魔祓い?そんな怪しいのを信じてもいいの?)」
「■■■(私は反対したのよ。でも主人が聞かなくて・・・)」
「■■■(悪魔よりあの双子のことは・・・)」
部屋の片隅で、いつの間にか入ってきた高齢の女性と奥様がヒソヒソ声で何やら会話していた。
「・・・・?」
私が振り返ると、二人はバッと顔を逸らし「何でもないよ」と言わんばかりのとぼけた顔をしていた。