第34話 玉折
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その後、任務を引き継いだ五条さんは出発した。
それと入れ替わるように夏油さんが帰ってきて、灰原君の死を知ったようだった。
その晩、私はずっと自分の部屋から出ずに一人で過ごした。
それは、皆んな同じだったと思う。
部屋を訪ねてくる人はいなかったし、私も誰も訪ねなかった。
ただただ、時が止まったような部屋で一人で過ごした。
悲しみは、一人で抱え込み過ぎないこと。
それが大事なことだとわかってる。
それでも、そうするしか出来ない時がある。
今が、その時だった。
それほどに、失った存在は大きかった。
それでも、時間は動き出す。
長かった残暑がようやく終わり、初秋の風が吹き始めた。
「「あ」」
寮を出て校舎に向かう途中、七海さんと出会した。
こうして顔を合わせるのは久しぶりのことだった。
あの任務の後、七海さんは療養も兼ねてしばらく実家に戻っていたのだ。
「お久しぶりです」
と、七海さんは深々と頭を下げた。
「怪我の具合は大丈夫?」
私が尋ねると、七海さんはコクリと小さく頷いた。
身体は大丈夫。でも、心はまだとても大丈夫ではない。
それが顔を一目合わせただけでわかった。
「・・・少し話しませんか」
と、七海さんが言った。
こんなことは初めてのことだった。
一般教養の授業があったけれど、迷うことはなかった。
「うん」
私は頷く。
それから、私と七海さんは寮の一階の自販機コーナーへ向かった。
ガコンッと音がして、七海さんは腰を屈めて取り出し口からコーヒー缶を取り出した。
そして、ベンチに座る私に差し出す。
「どうぞ」
「ありがとう」
私が受け取ると、少し間を空けて七海さんは隣に座った。
「・・・・・・」
話そうっていったけれど、七海さんはさっきからずっと話さない。
だけど、それでも構わないと思った。
七海さんが話す気になるまで、私はずっと待つつもりでいた。
「・・・鶴來さんは」
しばらくして、ようやく七海さんが口を開いた。
「この先、やっていけそうですか」
「この先・・・?」
「呪術師をやっていけそうですか」
「・・・・・・」
「正直、私は迷っています」
ポツリと力なく七海さんは呟いた。
そう呟いたきり、七海さんは再び沈黙した。
こんな時、何と言えばいいのだろう。
返す言葉がわからず、私も黙り込んだ。
「・・・この前の任務」
再び、七海さんが口を開いた。
「五条さんが引き継いだそうですね」
「うん・・・」
「一撃だったそうです。あの土地神を」
「・・・・・・」
「・・・もうあの人ひとりがいればいいと思いませんか?」
「・・・え」
「私達がせこせこ励むより、あの人ひとりに全て任せておけばいい。そうすれば、誰も犠牲に・・・」
半ば投げやりに七海さんはそう言った。
そして、虚な目で私を見据えている。
絶望を知った目だ。
綺麗事や気休めだけの言葉は聞きたくない、と言われているようだった。
そんな目を前にして、私は何も言えなかった。
その代わりに、
「・・・それじゃあ、七海君は辞めるの?呪術高専自体を」
と尋ね返した。
すると七海さんは目線を下げた後、
「今すぐではありません」
七海さんは言った。
「それに、灰原に言われたんです。『後を頼む』と」
「・・・・・・」
「どうすればいいか、どうしたいのかもわからない。決断するには、思考する力も今は不足しているようです。だから、貴方にこんな取り留めのない話を聞かせている。申し訳ありません」
「・・・ううん」
私はふるふると首を振った。
「今はまだ何も決めなくていい。ゆっくり休んで。それに、またいつでも何でも話して。何でも聞くから」
そう言うと、七海さんの表情が少し安堵した気がした。
「・・・ありがとうございます。少し、休みます」
そうして、七海さんは自分の部屋に帰って行った。
その帰って行く後ろ姿を見送りながら、私は思った。
呪術師は独り。
私達は独り。
支え合うなんて、幻想なのかもしれない。
だけど、誰一人も孤独にさせていいはずがない。
例え取るになさ足りないことだとしても、私はその為に出来得ることをしたい。
それと入れ替わるように夏油さんが帰ってきて、灰原君の死を知ったようだった。
その晩、私はずっと自分の部屋から出ずに一人で過ごした。
それは、皆んな同じだったと思う。
部屋を訪ねてくる人はいなかったし、私も誰も訪ねなかった。
ただただ、時が止まったような部屋で一人で過ごした。
悲しみは、一人で抱え込み過ぎないこと。
それが大事なことだとわかってる。
それでも、そうするしか出来ない時がある。
今が、その時だった。
それほどに、失った存在は大きかった。
それでも、時間は動き出す。
長かった残暑がようやく終わり、初秋の風が吹き始めた。
「「あ」」
寮を出て校舎に向かう途中、七海さんと出会した。
こうして顔を合わせるのは久しぶりのことだった。
あの任務の後、七海さんは療養も兼ねてしばらく実家に戻っていたのだ。
「お久しぶりです」
と、七海さんは深々と頭を下げた。
「怪我の具合は大丈夫?」
私が尋ねると、七海さんはコクリと小さく頷いた。
身体は大丈夫。でも、心はまだとても大丈夫ではない。
それが顔を一目合わせただけでわかった。
「・・・少し話しませんか」
と、七海さんが言った。
こんなことは初めてのことだった。
一般教養の授業があったけれど、迷うことはなかった。
「うん」
私は頷く。
それから、私と七海さんは寮の一階の自販機コーナーへ向かった。
ガコンッと音がして、七海さんは腰を屈めて取り出し口からコーヒー缶を取り出した。
そして、ベンチに座る私に差し出す。
「どうぞ」
「ありがとう」
私が受け取ると、少し間を空けて七海さんは隣に座った。
「・・・・・・」
話そうっていったけれど、七海さんはさっきからずっと話さない。
だけど、それでも構わないと思った。
七海さんが話す気になるまで、私はずっと待つつもりでいた。
「・・・鶴來さんは」
しばらくして、ようやく七海さんが口を開いた。
「この先、やっていけそうですか」
「この先・・・?」
「呪術師をやっていけそうですか」
「・・・・・・」
「正直、私は迷っています」
ポツリと力なく七海さんは呟いた。
そう呟いたきり、七海さんは再び沈黙した。
こんな時、何と言えばいいのだろう。
返す言葉がわからず、私も黙り込んだ。
「・・・この前の任務」
再び、七海さんが口を開いた。
「五条さんが引き継いだそうですね」
「うん・・・」
「一撃だったそうです。あの土地神を」
「・・・・・・」
「・・・もうあの人ひとりがいればいいと思いませんか?」
「・・・え」
「私達がせこせこ励むより、あの人ひとりに全て任せておけばいい。そうすれば、誰も犠牲に・・・」
半ば投げやりに七海さんはそう言った。
そして、虚な目で私を見据えている。
絶望を知った目だ。
綺麗事や気休めだけの言葉は聞きたくない、と言われているようだった。
そんな目を前にして、私は何も言えなかった。
その代わりに、
「・・・それじゃあ、七海君は辞めるの?呪術高専自体を」
と尋ね返した。
すると七海さんは目線を下げた後、
「今すぐではありません」
七海さんは言った。
「それに、灰原に言われたんです。『後を頼む』と」
「・・・・・・」
「どうすればいいか、どうしたいのかもわからない。決断するには、思考する力も今は不足しているようです。だから、貴方にこんな取り留めのない話を聞かせている。申し訳ありません」
「・・・ううん」
私はふるふると首を振った。
「今はまだ何も決めなくていい。ゆっくり休んで。それに、またいつでも何でも話して。何でも聞くから」
そう言うと、七海さんの表情が少し安堵した気がした。
「・・・ありがとうございます。少し、休みます」
そうして、七海さんは自分の部屋に帰って行った。
その帰って行く後ろ姿を見送りながら、私は思った。
呪術師は独り。
私達は独り。
支え合うなんて、幻想なのかもしれない。
だけど、誰一人も孤独にさせていいはずがない。
例え取るになさ足りないことだとしても、私はその為に出来得ることをしたい。