第34話 玉折
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「和紗」
手首を掴まれて、引き留められた。
肩が反射的に小さく震える。
「オマエにとって、俺はただの皆んなの中の一人?」
「・・・・・・」
「今までもずっと?これからもずっと?」
「・・・・・・」
振り向くことが出来ない。
「和紗」
すると、少し焦ったそうに五条さんは言った。
「俺は・・・」
「悟!和紗!」
突如夜蛾さんの野太い声が響いて、五条さんの言葉は途中でかき消された。
五条さんは小さく舌打ちして、掴んでいた私の腕を放した。
その一方で、私はホッとしていた。
その間に、夜蛾さんがズカズカと足早に私達の元へ歩み寄ってきた。
その表情は、いつも以上に固く厳しい。
「どうしたの〜?夜蛾せんせ。コワモテの顔がますますおっかないよ?」
と五条さんはからかうけれど、夜蛾さんはその表情を崩さない。
更に唇を固く引き結ぶ。
流石に五条さんも異変を感じて、つられるように表情を固くする。
すると、夜蛾さんは重々しく口を開いた。
「灰原が・・・」
暗い地下を進んで、霊安室の扉の前に辿り着く。
夜蛾さんが扉を開けて、私達に入る様に促す。
「・・・・・・」
五条さんは落ち着いた様子で部屋の中まで進む。
だけど、私はそれ以上進むことが出来なかった。
部屋中央にある安置台。
その上に、白い布を被せられて横たわっている。
五条さんはそれに近づいて、白い布に手をかけた。
そしてそっと布をめくり、その顔を確認する。
「・・・・・・」
しばらくの間何も言わず見つめた後、五条さんは再び布を元に戻した。
「七海は」
五条さんの問いかけに、夜蛾さんが答える。
「重傷だが命に別状はない。今、硝子が治療している」
「どうしてこんなことになったんだよ」
「・・・産土神」
声をすりつぶすように、夜蛾さんは言った。
「土地神だった。一級相当の呪霊だった。任務の等級を見誤っていた」
「・・・ふざけんなよ」
五条さんは握っていた布を強く握り直す。
「見誤ってた?ふざけんな。そんなところに学生送り込んで死なせて、それだけで済ますつもりかよ」
五条さんから禍々しい殺気が立ち昇る。
「上の連中、全員ブッ殺してやろうか」
私は息を飲み、密かに身震いした。
「悟」
夜蛾さんが諫めるように呼び掛ける。
「本気だよ」
五条さんは言った。
「だけど、そんなことをしても意味がない」
そして、自分に言い聞かすように繰り返す。
「そう、意味がないんだ」
すると、五条さんを取り巻く殺気は鎮まっていった。
私だけでなく、夜蛾さんもそれに安堵する。
「悟。この任務は・・・」
「わかってるよ」
夜蛾さんが申し訳なく口を開いたのを遮り、五条さんは言った。
「行ってやるよ」
すると夜蛾さんは心苦しそうに零した。
「すまない・・・」
それに対して反応することなく、五条さんは安置台から背中を向けた。
そして、扉付近で立ち尽くしたままの私に歩み寄る。
「大丈夫か」
「・・・・・・」
「辛いなら無理するな」
「・・・ううん」
私はゆっくり前に進み出た。
「・・・ちゃんと受け入れないと」
そして安置台に歩み寄り、布に手をかけた。
「・・・・・・」
震える手で、布を引き下ろす。
すると、大きな目をまぶたで伏せた青白く変わり果てた灰原君の顔が現れた。
「灰原君・・・」
灰原君の頬にポタポタと涙の雫が零れ落ちる。
(妹さんと、東京観光に行くって話してたじゃない)
心の中で呼びかける。
(私、沢山考えたんだよ。遊びに行くところ、買い物するところも、オシャレなカフェだって)
呼びかけは声にならないし、それに対して返って来るものもない。
「う、うぅっ・・・」
私は膝から崩れ落ちるようにしゃがみ込み、安置台に縋りつくようにして泣いた。
「・・・・・・」
私の背中に、そっと手が触れる。
慰めるように、支えるように、優しく。
だけど、私は振り返る余裕がなかった。
ひたすらに泣いて、泣いて、泣き続けた。
手首を掴まれて、引き留められた。
肩が反射的に小さく震える。
「オマエにとって、俺はただの皆んなの中の一人?」
「・・・・・・」
「今までもずっと?これからもずっと?」
「・・・・・・」
振り向くことが出来ない。
「和紗」
すると、少し焦ったそうに五条さんは言った。
「俺は・・・」
「悟!和紗!」
突如夜蛾さんの野太い声が響いて、五条さんの言葉は途中でかき消された。
五条さんは小さく舌打ちして、掴んでいた私の腕を放した。
その一方で、私はホッとしていた。
その間に、夜蛾さんがズカズカと足早に私達の元へ歩み寄ってきた。
その表情は、いつも以上に固く厳しい。
「どうしたの〜?夜蛾せんせ。コワモテの顔がますますおっかないよ?」
と五条さんはからかうけれど、夜蛾さんはその表情を崩さない。
更に唇を固く引き結ぶ。
流石に五条さんも異変を感じて、つられるように表情を固くする。
すると、夜蛾さんは重々しく口を開いた。
「灰原が・・・」
暗い地下を進んで、霊安室の扉の前に辿り着く。
夜蛾さんが扉を開けて、私達に入る様に促す。
「・・・・・・」
五条さんは落ち着いた様子で部屋の中まで進む。
だけど、私はそれ以上進むことが出来なかった。
部屋中央にある安置台。
その上に、白い布を被せられて横たわっている。
五条さんはそれに近づいて、白い布に手をかけた。
そしてそっと布をめくり、その顔を確認する。
「・・・・・・」
しばらくの間何も言わず見つめた後、五条さんは再び布を元に戻した。
「七海は」
五条さんの問いかけに、夜蛾さんが答える。
「重傷だが命に別状はない。今、硝子が治療している」
「どうしてこんなことになったんだよ」
「・・・産土神」
声をすりつぶすように、夜蛾さんは言った。
「土地神だった。一級相当の呪霊だった。任務の等級を見誤っていた」
「・・・ふざけんなよ」
五条さんは握っていた布を強く握り直す。
「見誤ってた?ふざけんな。そんなところに学生送り込んで死なせて、それだけで済ますつもりかよ」
五条さんから禍々しい殺気が立ち昇る。
「上の連中、全員ブッ殺してやろうか」
私は息を飲み、密かに身震いした。
「悟」
夜蛾さんが諫めるように呼び掛ける。
「本気だよ」
五条さんは言った。
「だけど、そんなことをしても意味がない」
そして、自分に言い聞かすように繰り返す。
「そう、意味がないんだ」
すると、五条さんを取り巻く殺気は鎮まっていった。
私だけでなく、夜蛾さんもそれに安堵する。
「悟。この任務は・・・」
「わかってるよ」
夜蛾さんが申し訳なく口を開いたのを遮り、五条さんは言った。
「行ってやるよ」
すると夜蛾さんは心苦しそうに零した。
「すまない・・・」
それに対して反応することなく、五条さんは安置台から背中を向けた。
そして、扉付近で立ち尽くしたままの私に歩み寄る。
「大丈夫か」
「・・・・・・」
「辛いなら無理するな」
「・・・ううん」
私はゆっくり前に進み出た。
「・・・ちゃんと受け入れないと」
そして安置台に歩み寄り、布に手をかけた。
「・・・・・・」
震える手で、布を引き下ろす。
すると、大きな目をまぶたで伏せた青白く変わり果てた灰原君の顔が現れた。
「灰原君・・・」
灰原君の頬にポタポタと涙の雫が零れ落ちる。
(妹さんと、東京観光に行くって話してたじゃない)
心の中で呼びかける。
(私、沢山考えたんだよ。遊びに行くところ、買い物するところも、オシャレなカフェだって)
呼びかけは声にならないし、それに対して返って来るものもない。
「う、うぅっ・・・」
私は膝から崩れ落ちるようにしゃがみ込み、安置台に縋りつくようにして泣いた。
「・・・・・・」
私の背中に、そっと手が触れる。
慰めるように、支えるように、優しく。
だけど、私は振り返る余裕がなかった。
ひたすらに泣いて、泣いて、泣き続けた。