第34話 玉折
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「はぁ~、美味かった!ごちそうさん!」
結局、どら焼きは九十九さんがほぼ全部食べてしまった。
(傑君のために作ったのに・・・)
「和紗。君、呪術師にじゃなくて和菓子職人になったら?」
「それはどうも・・・」
と引きつり笑いをしていると、
「和紗」
硝子さんがやって来た。
「探したよ。ずっとここに?」
「あ、うん」
「医務室に一緒に来てくれる?さっき負傷者が複数人運ばれてきて・・・って誰?」
と硝子さんは九十九さんに気づき訝し気に視線を送る。
九十九さんはニコニコしながら答える。
「九十九由基」
しかし名前を聞いても硝子さんはピンと来ないようで目を瞬かせる。
「さ、私のことは構わず負傷者のところへ行ってあげて」
九十九さんが言った。
「和紗、君ともう少し話したかったけど。まぁ、縁があればまた会うこともあるだろう」
「・・・・・・」
「またすぐにね」
それから私と硝子さんは医務室に向かい、運び込まれた負傷者の治療にあたった。
全ての人の治療を終えて再び寮に戻ったのは、九十九さんが去った後だった。
『要は進化を促すの。恐怖や危機感を使ってね』
自分の部屋に戻った後も、彼女が言った不穏な言葉が耳から離れない。
私は、他の誰かが同じことを話したのを聞いたことがある。
そう、その人物は。
「羂・・・」
そう言いかけたところで、トントンとノックの音が響いた。
それで意識がドアに向き、私は誰だろうと思いながらドアを開けた。
「傑君」
そこには傑君が立っていた。
「お疲れ」
傑君は笑顔を浮かべながら、レジ袋を差し出した。
「アイス買ってきた。さっきのどら焼きのお礼だよ」
「そんな。お礼だなんて」
私は肩を落としつつ言った。
「ほとんど食べたの九十九さんだし」
「それでも私に作ってくれたんだろう」
「うん・・・。傑君、最近また痩せたでしょ。いつもご飯残してるし。だから、あんことバターのギルティな組み合わせのハイカロリーなどら焼きを食べてもらおうって作ったの。なのに〜・・・」
「はは・・・」
と夏油さんは苦笑いする。
「ごめん、心配かけて。でも私は大丈夫だから」
「大丈夫じゃないよ」
私は打ち消すように言った。
「九十九さんには話してたじゃない。何が本音かわからないって。ずっと悩んでたんでしょ?苦しかったんでしょ?それなのにどうして私達に話してくれなかったの?」
「和紗・・・」
「ずっと一緒にいたのに」
すると夏油さんは俯いてしまった。
しばらくして顔を上げ、口を開いた。
「ごめん」
「・・・・・・」
「こんな醜いことを考えていることを、和紗や悟、硝子達に知られたくなかったんだ」
「・・・・・・」
「正直、今でも何が自分の本音なのかわからない」
「・・・・・・」
「・・・失望しただろう?」
「・・・・・・」
「でも『強き者が弱きを助け、強きを挫く』。その思いは変わらない。・・・そう言っても、信じられないだろうけど・・・」
「・・・失望だなんて」
私はそっと目を伏せながら言った。
「失望なんてする訳ない。する訳ないよ。それに、信じてる。だけど」
「・・・・・・」
「傑君、私に言ってくれたじゃない。私達は学友。互いに支え合って成長するんだって、弱音だって吐き出していいって、受け止めるって言ってくれたじゃない」
「・・・・・・」
「だから、傑君ももっと打ち明けて欲しい。傑君の考えてること、感じてることを、もっと・・・。私も、何だって受け止めるから」
そう言ってしまうと、胸のつかえが取れた気がした。
それは夏油さんも同じようで、フッと微笑んだ。
「・・・それじゃあ、ひとつ弱音を吐いてもいいかな」
と夏油さんが言ったので、私は目線を上げた。
「・・・何?」
「和紗が以前私に言ったこと。悟の傍にいてあげてって言ったこと」
言われて記憶を巡らせる。
そしてふと思い出した。
大阪に任務で行った時のことだ。
『これからどんなことがあっても、どこにも行かないで』
『ん?』
『夏油さんは、ずっと五条さんの傍にいてあげてね』
「それはもう、無理かもしれない」
「え・・・」
私は戸惑いながら、夏油さんを見上げた。
夏油さんは穏やかだけど、どこか諦めが入ったような表情で言った。
「悟は最強になった。一人でも。だからもう、私があいつの傍にいる必要はないよ」
結局、どら焼きは九十九さんがほぼ全部食べてしまった。
(傑君のために作ったのに・・・)
「和紗。君、呪術師にじゃなくて和菓子職人になったら?」
「それはどうも・・・」
と引きつり笑いをしていると、
「和紗」
硝子さんがやって来た。
「探したよ。ずっとここに?」
「あ、うん」
「医務室に一緒に来てくれる?さっき負傷者が複数人運ばれてきて・・・って誰?」
と硝子さんは九十九さんに気づき訝し気に視線を送る。
九十九さんはニコニコしながら答える。
「九十九由基」
しかし名前を聞いても硝子さんはピンと来ないようで目を瞬かせる。
「さ、私のことは構わず負傷者のところへ行ってあげて」
九十九さんが言った。
「和紗、君ともう少し話したかったけど。まぁ、縁があればまた会うこともあるだろう」
「・・・・・・」
「またすぐにね」
それから私と硝子さんは医務室に向かい、運び込まれた負傷者の治療にあたった。
全ての人の治療を終えて再び寮に戻ったのは、九十九さんが去った後だった。
『要は進化を促すの。恐怖や危機感を使ってね』
自分の部屋に戻った後も、彼女が言った不穏な言葉が耳から離れない。
私は、他の誰かが同じことを話したのを聞いたことがある。
そう、その人物は。
「羂・・・」
そう言いかけたところで、トントンとノックの音が響いた。
それで意識がドアに向き、私は誰だろうと思いながらドアを開けた。
「傑君」
そこには傑君が立っていた。
「お疲れ」
傑君は笑顔を浮かべながら、レジ袋を差し出した。
「アイス買ってきた。さっきのどら焼きのお礼だよ」
「そんな。お礼だなんて」
私は肩を落としつつ言った。
「ほとんど食べたの九十九さんだし」
「それでも私に作ってくれたんだろう」
「うん・・・。傑君、最近また痩せたでしょ。いつもご飯残してるし。だから、あんことバターのギルティな組み合わせのハイカロリーなどら焼きを食べてもらおうって作ったの。なのに〜・・・」
「はは・・・」
と夏油さんは苦笑いする。
「ごめん、心配かけて。でも私は大丈夫だから」
「大丈夫じゃないよ」
私は打ち消すように言った。
「九十九さんには話してたじゃない。何が本音かわからないって。ずっと悩んでたんでしょ?苦しかったんでしょ?それなのにどうして私達に話してくれなかったの?」
「和紗・・・」
「ずっと一緒にいたのに」
すると夏油さんは俯いてしまった。
しばらくして顔を上げ、口を開いた。
「ごめん」
「・・・・・・」
「こんな醜いことを考えていることを、和紗や悟、硝子達に知られたくなかったんだ」
「・・・・・・」
「正直、今でも何が自分の本音なのかわからない」
「・・・・・・」
「・・・失望しただろう?」
「・・・・・・」
「でも『強き者が弱きを助け、強きを挫く』。その思いは変わらない。・・・そう言っても、信じられないだろうけど・・・」
「・・・失望だなんて」
私はそっと目を伏せながら言った。
「失望なんてする訳ない。する訳ないよ。それに、信じてる。だけど」
「・・・・・・」
「傑君、私に言ってくれたじゃない。私達は学友。互いに支え合って成長するんだって、弱音だって吐き出していいって、受け止めるって言ってくれたじゃない」
「・・・・・・」
「だから、傑君ももっと打ち明けて欲しい。傑君の考えてること、感じてることを、もっと・・・。私も、何だって受け止めるから」
そう言ってしまうと、胸のつかえが取れた気がした。
それは夏油さんも同じようで、フッと微笑んだ。
「・・・それじゃあ、ひとつ弱音を吐いてもいいかな」
と夏油さんが言ったので、私は目線を上げた。
「・・・何?」
「和紗が以前私に言ったこと。悟の傍にいてあげてって言ったこと」
言われて記憶を巡らせる。
そしてふと思い出した。
大阪に任務で行った時のことだ。
『これからどんなことがあっても、どこにも行かないで』
『ん?』
『夏油さんは、ずっと五条さんの傍にいてあげてね』
「それはもう、無理かもしれない」
「え・・・」
私は戸惑いながら、夏油さんを見上げた。
夏油さんは穏やかだけど、どこか諦めが入ったような表情で言った。
「悟は最強になった。一人でも。だからもう、私があいつの傍にいる必要はないよ」