第34話 玉折
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初対面の人が夏油さんに何の用なんだろう。
なんにせよ出直した方がよさそうだ。
そんなことを考えていると、
「あ、鶴來さんはどっちがいいですか?」
灰原君がふと思い出したように尋ねてきた。
「明日任務で遠方に行くんです。お土産甘いのとしょっぱいのとどっちがいいですか?」
「そうなんだ。そうだなぁ、甘いの・・・いや、硝子も食べるからしょっぱい方がいいかな」
「了解です!」
「いつもお土産ありがとうね」
「いえいえ!お土産を選ぶ時も楽しいので!」
と、灰原君は気のいい笑顔を浮かべる。
私もそれにつられて微笑む。
が、すぐに真顔に戻る。
「・・・この夏は、皆大変だよね。悟君もずっと任務だし」
「そうですねぇ。やはり去年頻発した災害の影響もあるかもしれないですね。でも・・・」
灰原君は息巻きながら言葉を続けた。
「自分は自分が出来ることをするだけです!」
そのシンプルで前向きな言葉に、私はまた微笑んだ。
「・・・そうだね」
「はい!あ、でも今回の任務が終わったら、僕、一週間ほどお休みを頂く予定なんです!」
「そうなの?実家に帰るの?」
「いえ、でも妹が夏休み中なので東京に遊びに来るんです!」
「そうなんだ」
「はい、だから東京観光に連れて行ってやろうと思って。あ、それで鶴來さんに訊きたいことが。妹を観光に連れて行くのってどこが良いと思います?」
「ん~・・・、私も地方民だからそんなに詳しくないけど」
私は微笑みながら言った。
「灰原君が任務から帰るまでにリサーチしておくね」
すると灰原君は満面の笑みで言った。
「よろしくお願いします!」
それから灰原君と別れて、私は1階の自販機コーナーへ向かった。
どうせならその来客の女性と一緒にどら焼きを食べてもらおうと思ったのだ。
自販機コーナーの側を通りかかると、話し声が聞こえてきた。
「知ってる?術師からは呪霊は生まれないんだよ」
と、女性の声。
この声の主が、夏油さんを訪ねてきた客人らしい。
彼女の話によると、術師と非術師の決定的な違いは呪力の流れ。
術師の体内で呪力が巡るので漏洩がなく、呪霊が生まれないのだと言う。
(この話、どこかで・・・)
そんなことを考えていたら、
「大雑把に言ってしまうと、全人類が術師になれば呪いは生まれない」
と彼女が言った。
その言葉に、私はハッと息を飲んだ。
するとやや間があってから、
「じゃあ、非術師を皆殺しにすればいいじゃないですか」
と夏油さんが言った。
夏油さんらしからぬ言葉に、私の表情は凍りつく。
「夏油君」
女の人の呼びかける声が聞こえた。
夏油さんを窘めるのかと思いきや、
「それは“アリ”だ」
と、思いがけない言葉を返した。
「というか多分それが一番簡単 だ。非術師を間引き続け生存戦略として術師に適応してもらう」
彼女は淡々と続けた。
「要は進化を促すの。鳥達が翼を得たように。恐怖や危機感を使ってね」
それは、いつしかどこかで誰かが話していた言葉だった。
私の背筋にゾッとした感覚が奔る。
「だが残念ながら」
先程の緊張感ある口調がふと砕けて、彼女は気楽な様で言った。
「私はそこまでイカれてない」
それで私の緊張感も少し緩んだ。
「非術師は嫌いかい?夏油君」
彼女の問いかけに、私はハッと息を飲んだ。
夏油さんは答えない。
やや長い間を経て、
「分からないんです」
ようやく夏油さんは言葉を発した。
「呪術は非術師を守るためにあると考えていました。でも最近私の中で非術師の・・・価値のようなものが揺らいでいます」
その言葉を聞いて、私はショックを受けた。
それは、初めて明かされた夏油さんの苦悩だった。
私にも、硝子さんにも、そして五条さんにも、誰にも明かされなかった苦悩。
「弱者故の尊さ。弱者故の醜さ。その分別と受容ができなくなってしまっている。非術師を見下す自分。それを否定する自分」
夏油さんはまるで自分自身にも打ち明けるように話し続けた。
「術師というマラソンゲーム。その果ての映像 があまりに曖昧で、何が本音かわからない」
それを聞いて、私はその場で立ち尽くしていた。
聞いてはいけなかったことを聞いてしまったような気がして。
なんにせよ出直した方がよさそうだ。
そんなことを考えていると、
「あ、鶴來さんはどっちがいいですか?」
灰原君がふと思い出したように尋ねてきた。
「明日任務で遠方に行くんです。お土産甘いのとしょっぱいのとどっちがいいですか?」
「そうなんだ。そうだなぁ、甘いの・・・いや、硝子も食べるからしょっぱい方がいいかな」
「了解です!」
「いつもお土産ありがとうね」
「いえいえ!お土産を選ぶ時も楽しいので!」
と、灰原君は気のいい笑顔を浮かべる。
私もそれにつられて微笑む。
が、すぐに真顔に戻る。
「・・・この夏は、皆大変だよね。悟君もずっと任務だし」
「そうですねぇ。やはり去年頻発した災害の影響もあるかもしれないですね。でも・・・」
灰原君は息巻きながら言葉を続けた。
「自分は自分が出来ることをするだけです!」
そのシンプルで前向きな言葉に、私はまた微笑んだ。
「・・・そうだね」
「はい!あ、でも今回の任務が終わったら、僕、一週間ほどお休みを頂く予定なんです!」
「そうなの?実家に帰るの?」
「いえ、でも妹が夏休み中なので東京に遊びに来るんです!」
「そうなんだ」
「はい、だから東京観光に連れて行ってやろうと思って。あ、それで鶴來さんに訊きたいことが。妹を観光に連れて行くのってどこが良いと思います?」
「ん~・・・、私も地方民だからそんなに詳しくないけど」
私は微笑みながら言った。
「灰原君が任務から帰るまでにリサーチしておくね」
すると灰原君は満面の笑みで言った。
「よろしくお願いします!」
それから灰原君と別れて、私は1階の自販機コーナーへ向かった。
どうせならその来客の女性と一緒にどら焼きを食べてもらおうと思ったのだ。
自販機コーナーの側を通りかかると、話し声が聞こえてきた。
「知ってる?術師からは呪霊は生まれないんだよ」
と、女性の声。
この声の主が、夏油さんを訪ねてきた客人らしい。
彼女の話によると、術師と非術師の決定的な違いは呪力の流れ。
術師の体内で呪力が巡るので漏洩がなく、呪霊が生まれないのだと言う。
(この話、どこかで・・・)
そんなことを考えていたら、
「大雑把に言ってしまうと、全人類が術師になれば呪いは生まれない」
と彼女が言った。
その言葉に、私はハッと息を飲んだ。
するとやや間があってから、
「じゃあ、非術師を皆殺しにすればいいじゃないですか」
と夏油さんが言った。
夏油さんらしからぬ言葉に、私の表情は凍りつく。
「夏油君」
女の人の呼びかける声が聞こえた。
夏油さんを窘めるのかと思いきや、
「それは“アリ”だ」
と、思いがけない言葉を返した。
「というか多分それが一番
彼女は淡々と続けた。
「要は進化を促すの。鳥達が翼を得たように。恐怖や危機感を使ってね」
それは、いつしかどこかで誰かが話していた言葉だった。
私の背筋にゾッとした感覚が奔る。
「だが残念ながら」
先程の緊張感ある口調がふと砕けて、彼女は気楽な様で言った。
「私はそこまでイカれてない」
それで私の緊張感も少し緩んだ。
「非術師は嫌いかい?夏油君」
彼女の問いかけに、私はハッと息を飲んだ。
夏油さんは答えない。
やや長い間を経て、
「分からないんです」
ようやく夏油さんは言葉を発した。
「呪術は非術師を守るためにあると考えていました。でも最近私の中で非術師の・・・価値のようなものが揺らいでいます」
その言葉を聞いて、私はショックを受けた。
それは、初めて明かされた夏油さんの苦悩だった。
私にも、硝子さんにも、そして五条さんにも、誰にも明かされなかった苦悩。
「弱者故の尊さ。弱者故の醜さ。その分別と受容ができなくなってしまっている。非術師を見下す自分。それを否定する自分」
夏油さんはまるで自分自身にも打ち明けるように話し続けた。
「術師というマラソンゲーム。その果ての
それを聞いて、私はその場で立ち尽くしていた。
聞いてはいけなかったことを聞いてしまったような気がして。