第33話 青が散る
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あわわと打ち震えていると、
「悟~、和紗に余計なプレッシャーを与えるんじゃないよ」
夏油さんが五条さんを窘めつつ、私に言った。
「大丈夫だよ、和紗。あれだけ練習したんだ」
「う、うん」
「緊張してどうしようもない時は、私だけを見ていればいい」
「・・・・・・」
「そうすれば、余計なことを考えないで済むだろう?」
そして、目を細めて笑いかけた。
すると、私の中で緊張が不思議と緩んでいくのがわかった。
が。
「俺はオマエのことずーっと見てっからな。台詞も一語一句違ってないかしっかり聞いてっから」
「・・・・・・」
「悟」
五条さんが再びプレッシャーをかけてきた。
しかし、ついに幕は上がってしまった。
東京校の演目は『ロミオとジュリエット』。
時代は現代に置き換えて、舞台はヴェローナの都。
そこで対立する二つの名家、モンタギュー家とキャピュレット家。とある舞踏会で出会い、ロミオとジュリエットは恋に落ちる。
「ああ、ロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの?」
互いの家が犬猿の仲と知っても、ふたりの恋は燃え上がる。
そしてふたりはロレンス神父の執り成しで、ひそかに結婚の誓いを交わす。
しかし、その直後。
「来るなら来い」
「止めろ、ティボルト!マキューシオ!」
ロミオは街頭での争いに巻き込まれ、親友のマキューシオが殺される。
「どっちの家もくたばりやがれ!」
逆上したロミオはジュリエットの従兄であるティボルトを殺してしまう。そして、ヴェローナ追放の罪に処される。
「ああ、俺は運命の慰みものだ」
一方、悲しみに暮れるジュリエットは父から他の男との結婚を命じられる。
追い詰められたジュリエットは、ロレンス神父に助けを求める。
ロレンス神父はロミオと添い遂げさせるために、とある計画をジュリエットに持ちかける。
「この瓶を持って床に就き、中の薬液をすっかり飲み干すのだ。するとたちまち体じゅうの血管を冷たい眠りの体液が駆け巡る・・・この仮死状態が四十二時間続いたのち、まるで快い眠りから目覚めるようにお前は蘇るのだ」
仮死の毒を用いてジュリエットの死を偽装し、葬儀後霊廟に運びこまれる時に目を覚めし、そこへロミオが迎えに来て駆け落ちするという計画だった。
しかし、この計画はロミオに伝わらなかった。
本当にジュリエットが死んだと思い込んでしまったロミオは、猛毒を手にジュリエットの元へ駆けつける。
「ああ、いとしいジュリエット、どうしてまだこんなに美しいんだ」
身も心もズタズタに引き裂かれたロミオである夏油さんが呟く。
仮死状態で眠るジュリエットである私が横たわる棺に縋りながら。
「ああ、ここを永遠の安住の地と定め、浮世に疲れたこの体から、不幸な星のくびきをはずそう。目よ、これが見おさめだ」
そうして、ロミオは棺を覗き込みジュリエットに顔を寄せる。
「腕よ、抱き締めるのもこれが最後」
両腕を回してジュリエットを抱き締める。
「唇よ、息吹の扉よ、正当な口づけで捺印しろ、全てを買い占める死神との無期限の契約に」
そして、ロミオはジュリエットに口づけをする。
それは、口づけのフリで、ただの芝居のはずだった。
「・・・・・・」
口づけられてジュリエットは目を覚ました。
もちろん、そんなことは台本には書かれていない。
目を覚ましたのは、私自身だ。
「・・・・・・」
ロミオは唇を離して、私の顔を見つめる。
切ない眼差しで。
私は驚きの表情で見返す。
私の姿は棺に隠れているので、舞台袖に待機している他の皆や客席からは、私が目を開いていることはわからないはずだ。
私の目の前にいる、夏油さん以外は。
「愛するジュリエットのために」
そう言って夏油さんは、いや、ロミオは毒を仰いで飲み干した。
そして、私の上に折り重なって倒れる。
「・・・っ」
戸惑いで、台詞が出てこない。
だけど、あと少しなんだ。
私が最後に台無しにする訳にはいかない。
「悟~、和紗に余計なプレッシャーを与えるんじゃないよ」
夏油さんが五条さんを窘めつつ、私に言った。
「大丈夫だよ、和紗。あれだけ練習したんだ」
「う、うん」
「緊張してどうしようもない時は、私だけを見ていればいい」
「・・・・・・」
「そうすれば、余計なことを考えないで済むだろう?」
そして、目を細めて笑いかけた。
すると、私の中で緊張が不思議と緩んでいくのがわかった。
が。
「俺はオマエのことずーっと見てっからな。台詞も一語一句違ってないかしっかり聞いてっから」
「・・・・・・」
「悟」
五条さんが再びプレッシャーをかけてきた。
しかし、ついに幕は上がってしまった。
東京校の演目は『ロミオとジュリエット』。
時代は現代に置き換えて、舞台はヴェローナの都。
そこで対立する二つの名家、モンタギュー家とキャピュレット家。とある舞踏会で出会い、ロミオとジュリエットは恋に落ちる。
「ああ、ロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの?」
互いの家が犬猿の仲と知っても、ふたりの恋は燃え上がる。
そしてふたりはロレンス神父の執り成しで、ひそかに結婚の誓いを交わす。
しかし、その直後。
「来るなら来い」
「止めろ、ティボルト!マキューシオ!」
ロミオは街頭での争いに巻き込まれ、親友のマキューシオが殺される。
「どっちの家もくたばりやがれ!」
逆上したロミオはジュリエットの従兄であるティボルトを殺してしまう。そして、ヴェローナ追放の罪に処される。
「ああ、俺は運命の慰みものだ」
一方、悲しみに暮れるジュリエットは父から他の男との結婚を命じられる。
追い詰められたジュリエットは、ロレンス神父に助けを求める。
ロレンス神父はロミオと添い遂げさせるために、とある計画をジュリエットに持ちかける。
「この瓶を持って床に就き、中の薬液をすっかり飲み干すのだ。するとたちまち体じゅうの血管を冷たい眠りの体液が駆け巡る・・・この仮死状態が四十二時間続いたのち、まるで快い眠りから目覚めるようにお前は蘇るのだ」
仮死の毒を用いてジュリエットの死を偽装し、葬儀後霊廟に運びこまれる時に目を覚めし、そこへロミオが迎えに来て駆け落ちするという計画だった。
しかし、この計画はロミオに伝わらなかった。
本当にジュリエットが死んだと思い込んでしまったロミオは、猛毒を手にジュリエットの元へ駆けつける。
「ああ、いとしいジュリエット、どうしてまだこんなに美しいんだ」
身も心もズタズタに引き裂かれたロミオである夏油さんが呟く。
仮死状態で眠るジュリエットである私が横たわる棺に縋りながら。
「ああ、ここを永遠の安住の地と定め、浮世に疲れたこの体から、不幸な星のくびきをはずそう。目よ、これが見おさめだ」
そうして、ロミオは棺を覗き込みジュリエットに顔を寄せる。
「腕よ、抱き締めるのもこれが最後」
両腕を回してジュリエットを抱き締める。
「唇よ、息吹の扉よ、正当な口づけで捺印しろ、全てを買い占める死神との無期限の契約に」
そして、ロミオはジュリエットに口づけをする。
それは、口づけのフリで、ただの芝居のはずだった。
「・・・・・・」
口づけられてジュリエットは目を覚ました。
もちろん、そんなことは台本には書かれていない。
目を覚ましたのは、私自身だ。
「・・・・・・」
ロミオは唇を離して、私の顔を見つめる。
切ない眼差しで。
私は驚きの表情で見返す。
私の姿は棺に隠れているので、舞台袖に待機している他の皆や客席からは、私が目を開いていることはわからないはずだ。
私の目の前にいる、夏油さん以外は。
「愛するジュリエットのために」
そう言って夏油さんは、いや、ロミオは毒を仰いで飲み干した。
そして、私の上に折り重なって倒れる。
「・・・っ」
戸惑いで、台詞が出てこない。
だけど、あと少しなんだ。
私が最後に台無しにする訳にはいかない。