第33話 青が散る
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ドアをノックすると、髪を下ろした夏油さんが出てきた。
いつもと違う姿に私は少し驚く。
だけどそれは夏油さんも同じで、
「和紗。どうした?」
と目を瞬かせている。
なので、私は言った。
「ごめんね、急に。明日に向けて最後の練習に付き合って欲しくて。いいかな?」
すると、初めはキョトンとしていたものの、夏油さんは目を細めてフッと笑った。
「勿論。とことん付き合うよ」
「もう行ってしまうの?まだ朝じゃないわ。あなたのおびえた耳を貫いたのはナイチンゲールよ、ヒバリじゃない。毎晩あそこのザクロの木に止まって鳴くの。本当よ、ね、ナイチンゲールよ」
「ヒバリだった、朝の先触れだ、ナイチンゲールじゃない。見てごらん、妬み深い光が幾すじも東の空の雲の切れ間を縁取っている。夜空にまたたく灯火も燃え尽きて、朝日が靄に包まれた山々の頂きに爪先だっている。立ち去って生きるか、留まって死ぬか」
「あれは朝の明るさじゃない、絶対に・・・」
台詞のやり取りをしている最中に、雨の音が聞こえてきた。
中断して、私と夏油さんは同時に窓の外を見た。
雨だけでなく風も吹いていて、雨粒は窓ガラスに打ち付けて音を鳴らしている。
パチパチパチパチ・・・
私と夏油さんはしばらく黙り込んだまま、雨の風景を眺めていた。
「・・・雨の音って」
ふと、夏油さんが口を開いた。
「何かの音と似てる気がする」
「似てる?」
「うん。だけど、それが何かっていうと答えられないけど」
「・・・私は・・・」
私は目を瞑り雨音に耳を澄ましながら考える。
そして、
「・・・コロッケを揚げる音?」
と言った。
「糠田が森にモリタ屋さんってお肉屋さんがあってね、そこの店先でコロッケを揚げてるの。あの音に似てる!学校帰りに買い食いしたりしてね、すごく美味しかったんだぁ」
「・・・・・・」
「メンチカツやハッシュドポテトも美味しくて・・・。あー、話してたら食べたくなってきちゃった」
と、ウットリしながら揚げ物のことを考えていると、
「ぷっ」
夏油さんが吹き出して笑い始めた。
私はキョトンと目を丸める。
「な、何?」
「いや・・・」
「あっ!私のこと、食い意地張ってるって思ったんでしょ」
「そんなことないよ」
「絶対そうだよ」
「いや・・・ただ和紗と話してると気持ちが和むなと思って」
「・・・・・・」
「なんだか私も食べたくなってきたな、コロッケ」
「食べようよ」
私は言った。
「東京にだってそういうお店あるでしょ?今度探して食べよう」
私がそう言うと、夏油さんは微笑んだ。
「そうしよう」
・・・夏油さんは、何も言わない。
あの日のことを。
辛いとも、悲しいとも、苦しいとも。
それは、夏油さんが精神的に大人で、そして呪術師として感情を整理して割り切っているのだと思っていた。
この時に、彼の心の奥にある気持ちに気づいていたら。
その気持ちを聞いていたら。
運命の全てを変えられていたのかな。
翌日。
姉妹校交流会二日目。
この日は、演劇対決だ。
「見に来たわよーっ」
歌姫さんと冥さんが控室にやって来た。
この日の演劇は、観客として高専の卒業生や関係者が招待されているのだ。
私達出演者はすでに衣装に着替えていて、上演を待っている状態だ。
衣装といっても時代を現代に置き換えている設定なので、男子陣はティーシャツにジーンズ、私もワンピースといったカジュアルないでたちだ。
「う、歌姫さん、冥さん~っ」
私はオロオロして言った。
「どうしよう~!き、緊張して私・・・!」
「落ち着いて、和紗!手のひらに人の字を書いて飲み込むのよ!」
「もう何回もやってます!」
「観客をカボチャと思えばいいと聞くよ」
「カボチャ、カボチャ・・・」
と、緊張する私に歌姫さんと冥さんが交互にアドバイスしてくれたけれど、それでも緊張は解けない。
「んだよ、この程度のことで緊張すんなんて情けねぇヤツだな」
五条さんが言った。
「別にオマエがヘマしてもどうってことねぇよ。全っ然☆気にすんなよ」
「・・・・・・」
余計にプレッシャーなんですけど!
いつもと違う姿に私は少し驚く。
だけどそれは夏油さんも同じで、
「和紗。どうした?」
と目を瞬かせている。
なので、私は言った。
「ごめんね、急に。明日に向けて最後の練習に付き合って欲しくて。いいかな?」
すると、初めはキョトンとしていたものの、夏油さんは目を細めてフッと笑った。
「勿論。とことん付き合うよ」
「もう行ってしまうの?まだ朝じゃないわ。あなたのおびえた耳を貫いたのはナイチンゲールよ、ヒバリじゃない。毎晩あそこのザクロの木に止まって鳴くの。本当よ、ね、ナイチンゲールよ」
「ヒバリだった、朝の先触れだ、ナイチンゲールじゃない。見てごらん、妬み深い光が幾すじも東の空の雲の切れ間を縁取っている。夜空にまたたく灯火も燃え尽きて、朝日が靄に包まれた山々の頂きに爪先だっている。立ち去って生きるか、留まって死ぬか」
「あれは朝の明るさじゃない、絶対に・・・」
台詞のやり取りをしている最中に、雨の音が聞こえてきた。
中断して、私と夏油さんは同時に窓の外を見た。
雨だけでなく風も吹いていて、雨粒は窓ガラスに打ち付けて音を鳴らしている。
パチパチパチパチ・・・
私と夏油さんはしばらく黙り込んだまま、雨の風景を眺めていた。
「・・・雨の音って」
ふと、夏油さんが口を開いた。
「何かの音と似てる気がする」
「似てる?」
「うん。だけど、それが何かっていうと答えられないけど」
「・・・私は・・・」
私は目を瞑り雨音に耳を澄ましながら考える。
そして、
「・・・コロッケを揚げる音?」
と言った。
「糠田が森にモリタ屋さんってお肉屋さんがあってね、そこの店先でコロッケを揚げてるの。あの音に似てる!学校帰りに買い食いしたりしてね、すごく美味しかったんだぁ」
「・・・・・・」
「メンチカツやハッシュドポテトも美味しくて・・・。あー、話してたら食べたくなってきちゃった」
と、ウットリしながら揚げ物のことを考えていると、
「ぷっ」
夏油さんが吹き出して笑い始めた。
私はキョトンと目を丸める。
「な、何?」
「いや・・・」
「あっ!私のこと、食い意地張ってるって思ったんでしょ」
「そんなことないよ」
「絶対そうだよ」
「いや・・・ただ和紗と話してると気持ちが和むなと思って」
「・・・・・・」
「なんだか私も食べたくなってきたな、コロッケ」
「食べようよ」
私は言った。
「東京にだってそういうお店あるでしょ?今度探して食べよう」
私がそう言うと、夏油さんは微笑んだ。
「そうしよう」
・・・夏油さんは、何も言わない。
あの日のことを。
辛いとも、悲しいとも、苦しいとも。
それは、夏油さんが精神的に大人で、そして呪術師として感情を整理して割り切っているのだと思っていた。
この時に、彼の心の奥にある気持ちに気づいていたら。
その気持ちを聞いていたら。
運命の全てを変えられていたのかな。
翌日。
姉妹校交流会二日目。
この日は、演劇対決だ。
「見に来たわよーっ」
歌姫さんと冥さんが控室にやって来た。
この日の演劇は、観客として高専の卒業生や関係者が招待されているのだ。
私達出演者はすでに衣装に着替えていて、上演を待っている状態だ。
衣装といっても時代を現代に置き換えている設定なので、男子陣はティーシャツにジーンズ、私もワンピースといったカジュアルないでたちだ。
「う、歌姫さん、冥さん~っ」
私はオロオロして言った。
「どうしよう~!き、緊張して私・・・!」
「落ち着いて、和紗!手のひらに人の字を書いて飲み込むのよ!」
「もう何回もやってます!」
「観客をカボチャと思えばいいと聞くよ」
「カボチャ、カボチャ・・・」
と、緊張する私に歌姫さんと冥さんが交互にアドバイスしてくれたけれど、それでも緊張は解けない。
「んだよ、この程度のことで緊張すんなんて情けねぇヤツだな」
五条さんが言った。
「別にオマエがヘマしてもどうってことねぇよ。全っ然☆気にすんなよ」
「・・・・・・」
余計にプレッシャーなんですけど!