第32話 懐玉ー弐ー
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同化翌日の日付で表向きには転校することにして、理子ちゃんの学校にそう告げていた。
きっと、クラスメイトは驚いてそしてひどく悲しんでいることだろう。
この場所のことは、誰も知らない。
クラスメイトの誰もここを訪れることはないのだろう。
そして、いつか彼女たちは忘れてしまうのだろう。
理子ちゃんのことを。
「・・・・・・」
黙祷を終えて目を開くと、遠雷が聞こえてきた。
見てみると、向かいの山から黒い雨雲が近づいて来るのが見えた。
「行こうぜ」
五条さんが立ちあがり踵を返す。
それに夏油さんも続き、二人はここから離れていく。
私も立ち去ろうとして、
「・・・・・・」
立ち止まり、もう一度振り返る。
その途端、
「・・・・・・っ」
涙が溢れて零れだした。
これで、一区切りしたはずなのに。
だけど、こんな寂しい風景を目にしたらいよいよ堪えることが出来なかった。
黒井さんとも遠く離れて。
友達にも知られることもなくて。
「・・・・・・」
ふたりに気づかれまいと、両手で代わる代わる涙を拭う。
すると、背後に気配を感じた。
「和紗」
そして、そのまま後ろから抱き締められた。
「・・・ごめん」
私を抱き締めて、そう言ったのは夏油さんだった。
「和紗の気持ちを聞いてやれなくて。ずっと、こらえていたんだね」
「・・・・・・」
私を小さく首を横に振った。
だけど、夏油さんはそれを受け流して続けた。
「辛いときは辛いって零したっていいんだ」
「・・・でも」
「最初に会った時に、君のお爺さんに話しただろう。私達は学友。だから私達が和紗を支えると」
「・・・・・・」
「いいんだ。私達には弱音を打ち明けても」
「・・・・・・」
「どんなことだって受け止めるから」
その言葉に、私は張り詰めていたものが途切れていくのを感じた。
「・・・ど・・して」
「・・・うん?」
「どうして、こんな寂しいところじゃなきゃいけないの!?」
私は涙を零しながら言った。
感情が昂って、声も感情的になってしまう。
「どうして、黒井さんや友達の近くじゃないの?どうして、こんな・・・なかったことみたいに・・・!」
「・・・・・・」
「どうして・・・どうして・・・」
私の言葉に、夏油さんは何も答えなかった。
私の言葉にただひとつひとつ相槌を打って、抱き締めるだけだった。
「・・・・・・」
少し離れた場所で、五条さんは立ち止まり私達の様子を見ていた。
しばらくすると視線を逸らし、そのまま何も言わず立ち去って行った。
「・・・ごめんね」
私は言った。
「辛いのは、悟君や傑君の方なのに・・・」
「大丈夫」
夏油さんは言った。
「私は大丈夫」
雨はついに降りだして、雨粒が草木に弾けて音を立てる。
パチパチ、パチパチと。
「・・・・・・」
その時、夏油さんが私を抱き締める手に微かに力が籠った。
だけど、私はそのことに気づかずにいた。
「・・・大丈夫」
夏油さんはもう一度言った。
「どんなことだって受け止めるよ」
・・・そう告げるべきだったのは、夏油さんが私にじゃなくて、私が夏油さんに対してだったんだ。
張り詰めているものが今にも途切れそうになっているのは、彼の方だったのに。
でも、それに気づいたとして、私に何が出来たんだろう。
9月。
京都姉妹校交流会の1日目を迎えた。
「久しぶりやなぁ、悟君」
京都校の面々を引き連れて、直哉さんが意気揚々とやって来た。
それを私達東京校の面々が出迎える。
「・・・直哉ぁ」
五条さんが直哉さんの顔をしげしげ見ながら言った。
すると直哉さんは生き生きとしながら尋ね返す。
「何?どうしたん?」
「オマエ、その髪染めてんの?」
「え、今更?前会った時もこの髪色やったやん」
「そうだっけ?」
「そうやで。悟君はとぼけたとこあんなぁ。で、どう?イケとるやろ?」
「いや、変だなって」
「悟君~~~」
そうして肩を落とす直哉さんに歩み寄り、
「二日間よろしく」
と、夏油さんが声をかけた。
直哉さんは夏油さんを一瞥すると、
「夏油君か。なんや雰囲気変わったな」
と言った。
思いも寄らぬ事を言われて、夏油さんは目を瞬かせた。
「そうかい?」
「微妙にな。でも、俺は今の雰囲気の方が好きやで」
「・・・・・・」
「お、君も久しぶりやなぁ」
と、直哉さんは私の姿を見つけるとズイズイと近づいてきた。
「ずっと会いたかったんやで~。こないだは仲良うなるにも時間が足りんかったもんなぁ」
私は内心いやだなぁと思いながら、会釈をする。
「本日は、よろしくお願いします・・・」
「うん、よろしゅう」
そうニヤつきながら、直哉さんは右手を差し出した。
「握手♡」
「(げ・・・)」
戸惑っていたら、ズイッと五条さんと夏油さんが私の前に入り込んで立ち塞がった。
そして五条さんが直哉さんの右手を握り、
「うん、ヨロシク」
「いててて!?」
ブンブンと乱暴に上下に振った。
手が離れて、直哉さんは困惑した表情を浮かべる。
「何なんや、一体・・・」
私も同じく「?」と首を傾げる。
だけど、二人はやる気になっているらしい。
「それでは只今より姉妹校交流会の開会を宣言する!」
青空の下、夜蛾さんの声が響く。
呪術高専の日常が戻ってきた。
この時は、誰もがそう思っていた。
つづく
きっと、クラスメイトは驚いてそしてひどく悲しんでいることだろう。
この場所のことは、誰も知らない。
クラスメイトの誰もここを訪れることはないのだろう。
そして、いつか彼女たちは忘れてしまうのだろう。
理子ちゃんのことを。
「・・・・・・」
黙祷を終えて目を開くと、遠雷が聞こえてきた。
見てみると、向かいの山から黒い雨雲が近づいて来るのが見えた。
「行こうぜ」
五条さんが立ちあがり踵を返す。
それに夏油さんも続き、二人はここから離れていく。
私も立ち去ろうとして、
「・・・・・・」
立ち止まり、もう一度振り返る。
その途端、
「・・・・・・っ」
涙が溢れて零れだした。
これで、一区切りしたはずなのに。
だけど、こんな寂しい風景を目にしたらいよいよ堪えることが出来なかった。
黒井さんとも遠く離れて。
友達にも知られることもなくて。
「・・・・・・」
ふたりに気づかれまいと、両手で代わる代わる涙を拭う。
すると、背後に気配を感じた。
「和紗」
そして、そのまま後ろから抱き締められた。
「・・・ごめん」
私を抱き締めて、そう言ったのは夏油さんだった。
「和紗の気持ちを聞いてやれなくて。ずっと、こらえていたんだね」
「・・・・・・」
私を小さく首を横に振った。
だけど、夏油さんはそれを受け流して続けた。
「辛いときは辛いって零したっていいんだ」
「・・・でも」
「最初に会った時に、君のお爺さんに話しただろう。私達は学友。だから私達が和紗を支えると」
「・・・・・・」
「いいんだ。私達には弱音を打ち明けても」
「・・・・・・」
「どんなことだって受け止めるから」
その言葉に、私は張り詰めていたものが途切れていくのを感じた。
「・・・ど・・して」
「・・・うん?」
「どうして、こんな寂しいところじゃなきゃいけないの!?」
私は涙を零しながら言った。
感情が昂って、声も感情的になってしまう。
「どうして、黒井さんや友達の近くじゃないの?どうして、こんな・・・なかったことみたいに・・・!」
「・・・・・・」
「どうして・・・どうして・・・」
私の言葉に、夏油さんは何も答えなかった。
私の言葉にただひとつひとつ相槌を打って、抱き締めるだけだった。
「・・・・・・」
少し離れた場所で、五条さんは立ち止まり私達の様子を見ていた。
しばらくすると視線を逸らし、そのまま何も言わず立ち去って行った。
「・・・ごめんね」
私は言った。
「辛いのは、悟君や傑君の方なのに・・・」
「大丈夫」
夏油さんは言った。
「私は大丈夫」
雨はついに降りだして、雨粒が草木に弾けて音を立てる。
パチパチ、パチパチと。
「・・・・・・」
その時、夏油さんが私を抱き締める手に微かに力が籠った。
だけど、私はそのことに気づかずにいた。
「・・・大丈夫」
夏油さんはもう一度言った。
「どんなことだって受け止めるよ」
・・・そう告げるべきだったのは、夏油さんが私にじゃなくて、私が夏油さんに対してだったんだ。
張り詰めているものが今にも途切れそうになっているのは、彼の方だったのに。
でも、それに気づいたとして、私に何が出来たんだろう。
9月。
京都姉妹校交流会の1日目を迎えた。
「久しぶりやなぁ、悟君」
京都校の面々を引き連れて、直哉さんが意気揚々とやって来た。
それを私達東京校の面々が出迎える。
「・・・直哉ぁ」
五条さんが直哉さんの顔をしげしげ見ながら言った。
すると直哉さんは生き生きとしながら尋ね返す。
「何?どうしたん?」
「オマエ、その髪染めてんの?」
「え、今更?前会った時もこの髪色やったやん」
「そうだっけ?」
「そうやで。悟君はとぼけたとこあんなぁ。で、どう?イケとるやろ?」
「いや、変だなって」
「悟君~~~」
そうして肩を落とす直哉さんに歩み寄り、
「二日間よろしく」
と、夏油さんが声をかけた。
直哉さんは夏油さんを一瞥すると、
「夏油君か。なんや雰囲気変わったな」
と言った。
思いも寄らぬ事を言われて、夏油さんは目を瞬かせた。
「そうかい?」
「微妙にな。でも、俺は今の雰囲気の方が好きやで」
「・・・・・・」
「お、君も久しぶりやなぁ」
と、直哉さんは私の姿を見つけるとズイズイと近づいてきた。
「ずっと会いたかったんやで~。こないだは仲良うなるにも時間が足りんかったもんなぁ」
私は内心いやだなぁと思いながら、会釈をする。
「本日は、よろしくお願いします・・・」
「うん、よろしゅう」
そうニヤつきながら、直哉さんは右手を差し出した。
「握手♡」
「(げ・・・)」
戸惑っていたら、ズイッと五条さんと夏油さんが私の前に入り込んで立ち塞がった。
そして五条さんが直哉さんの右手を握り、
「うん、ヨロシク」
「いててて!?」
ブンブンと乱暴に上下に振った。
手が離れて、直哉さんは困惑した表情を浮かべる。
「何なんや、一体・・・」
私も同じく「?」と首を傾げる。
だけど、二人はやる気になっているらしい。
「それでは只今より姉妹校交流会の開会を宣言する!」
青空の下、夜蛾さんの声が響く。
呪術高専の日常が戻ってきた。
この時は、誰もがそう思っていた。
つづく
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