第32話 懐玉ー弐ー
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「ずっとここに?」
と、夏油さんは私の向かいに座った。
尋ねられて、私はコクリと頷いた。
「驚いた、和紗が授業をサボるなんて。体調でも悪い?」
「・・・大丈夫。お腹がいっぱいになったら眠くなって。ついつい居眠りしちゃった」
「悟は?アイツも授業サボったんだ。てっきり一緒にいるんだと思ってたんだけど」
「悟君ならチャイムが鳴る前に食堂を出たけど・・・授業出なかったの?」
「うん。アイツがサボるのも実は珍しいんだけどね」
「・・・どこ行っちゃったんだろう」
「ま、そのうち戻って来るだろう」
そう言いながら、夏油さんは椅子の背もたれに大きくもたれて、そのまま脱力したように天井を仰いだ。
「っていうか、私も次の授業サボろうかな」
「えー・・・。そんなのダメだよ」
「自分はサボっておいてズルいなぁ」
「うっ」
「ハハ、冗談冗談。さ、教室戻ろう」
「・・・うん」
そうして、私と夏油さんは一緒に教室へ向かった。
「もうすぐ交流会だね」
その道すがら、夏油さんが言った。
「演劇の練習、中断してたからそろそろ本腰入れないと」
「そうだね。私、台詞忘れちゃったかも」
「これからまた覚えたらいいよ」
本当は、交流会のことなんて考える余白など私にはなかった。
だけど。
『終わった任務のことは引きずるな。切り替えろ』
『オマエ呪術師向いてないよ』
今度こそはと、グッと溢れそうになる感情を飲み込んで、もう大丈夫なフリをした。
夏油さんに心配かけたくなかったから。
・・・ううん、夏油さんにまで見切りをつけられたくなかったから。
それに、私は知っている。
どんな悲しい事や辛い事があっても、日常という現実は屈強で、こちらのことにはお構いなしで追いやって来るのだ。
割り切るまでは出来ないけれど、日常は続けなけらばならない。
悲しみは、忘れられないまま。
その5日後、五条さんと夏油さんと私に新たな任務が下った。
いや、続きと言うべきか。
理子ちゃんの遺骨を墓に納骨せよという任務だった。
最初、遺骨は天内家の親戚に引き渡したのだが、理子ちゃんが『星漿体』であるが故に天内一家と親戚は疎遠となっていて、親戚は納骨を高専に依頼したという訳だ。
理子ちゃんの両親が眠るお墓は、信州地方のとある集落にあるという。
任務が下された後、早速私達は出発した。
(この任務をちゃんと遂げて、この気持ちにも区切りをつけよう)
と、私はひとり胸に決めていた。
お墓は山の中腹にあって、車では行けないところにあるという。
最寄りの集落まではタクシーに乗って行き、そこからは徒歩で向かうことになった。
思った以上に険しい山道で、おまけに前日に雨が降ったのかぬかるんでいる。
ローファー靴で来てしまったことを私達は後悔した。
「悟」
山道を進みながら、夏油さんが言った。
「無限を使わないのか?」
そういえば。
見てみると、五条さんの足元も泥まみれになってしまっている。
「こんなことで使ってられるかよ」
と言って、五条さんは黙々と登っていく。
そうして1時間ほどで、墓に辿り着いた。
「わぁ・・・」
墓の前の風景は開けていて、集落とその周囲の田園風景を見下ろすことが出来る。
その風景を眺めながら、私はふと過ぎった疑問を口にした。
「・・・理子ちゃんは元々はここで生まれ育ったの?」
「いいや」
夏油さんが言った。
「この里が『星漿体』のルーツがあるところらしい。彼女の両親が亡くなった時には親戚と疎遠になっていたそうだから、天元様がこの場所を指定したそうだ」
「それって、ほとんど縁も所縁もないってこと」
「・・・そうなるね」
それでは、ここを参りに来る人は一体どれほどなのだろうか。
戸惑う私を差し置いて、五条さんは遺骨を納めるべく墓石を動かし始めた。
それに続いて、私と夏油さんも作業を始めた。
周りを掃除して、花を供えて、線香を奉る。
そうして、私達は手を合わせてしばしの間黙祷した。
と、夏油さんは私の向かいに座った。
尋ねられて、私はコクリと頷いた。
「驚いた、和紗が授業をサボるなんて。体調でも悪い?」
「・・・大丈夫。お腹がいっぱいになったら眠くなって。ついつい居眠りしちゃった」
「悟は?アイツも授業サボったんだ。てっきり一緒にいるんだと思ってたんだけど」
「悟君ならチャイムが鳴る前に食堂を出たけど・・・授業出なかったの?」
「うん。アイツがサボるのも実は珍しいんだけどね」
「・・・どこ行っちゃったんだろう」
「ま、そのうち戻って来るだろう」
そう言いながら、夏油さんは椅子の背もたれに大きくもたれて、そのまま脱力したように天井を仰いだ。
「っていうか、私も次の授業サボろうかな」
「えー・・・。そんなのダメだよ」
「自分はサボっておいてズルいなぁ」
「うっ」
「ハハ、冗談冗談。さ、教室戻ろう」
「・・・うん」
そうして、私と夏油さんは一緒に教室へ向かった。
「もうすぐ交流会だね」
その道すがら、夏油さんが言った。
「演劇の練習、中断してたからそろそろ本腰入れないと」
「そうだね。私、台詞忘れちゃったかも」
「これからまた覚えたらいいよ」
本当は、交流会のことなんて考える余白など私にはなかった。
だけど。
『終わった任務のことは引きずるな。切り替えろ』
『オマエ呪術師向いてないよ』
今度こそはと、グッと溢れそうになる感情を飲み込んで、もう大丈夫なフリをした。
夏油さんに心配かけたくなかったから。
・・・ううん、夏油さんにまで見切りをつけられたくなかったから。
それに、私は知っている。
どんな悲しい事や辛い事があっても、日常という現実は屈強で、こちらのことにはお構いなしで追いやって来るのだ。
割り切るまでは出来ないけれど、日常は続けなけらばならない。
悲しみは、忘れられないまま。
その5日後、五条さんと夏油さんと私に新たな任務が下った。
いや、続きと言うべきか。
理子ちゃんの遺骨を墓に納骨せよという任務だった。
最初、遺骨は天内家の親戚に引き渡したのだが、理子ちゃんが『星漿体』であるが故に天内一家と親戚は疎遠となっていて、親戚は納骨を高専に依頼したという訳だ。
理子ちゃんの両親が眠るお墓は、信州地方のとある集落にあるという。
任務が下された後、早速私達は出発した。
(この任務をちゃんと遂げて、この気持ちにも区切りをつけよう)
と、私はひとり胸に決めていた。
お墓は山の中腹にあって、車では行けないところにあるという。
最寄りの集落まではタクシーに乗って行き、そこからは徒歩で向かうことになった。
思った以上に険しい山道で、おまけに前日に雨が降ったのかぬかるんでいる。
ローファー靴で来てしまったことを私達は後悔した。
「悟」
山道を進みながら、夏油さんが言った。
「無限を使わないのか?」
そういえば。
見てみると、五条さんの足元も泥まみれになってしまっている。
「こんなことで使ってられるかよ」
と言って、五条さんは黙々と登っていく。
そうして1時間ほどで、墓に辿り着いた。
「わぁ・・・」
墓の前の風景は開けていて、集落とその周囲の田園風景を見下ろすことが出来る。
その風景を眺めながら、私はふと過ぎった疑問を口にした。
「・・・理子ちゃんは元々はここで生まれ育ったの?」
「いいや」
夏油さんが言った。
「この里が『星漿体』のルーツがあるところらしい。彼女の両親が亡くなった時には親戚と疎遠になっていたそうだから、天元様がこの場所を指定したそうだ」
「それって、ほとんど縁も所縁もないってこと」
「・・・そうなるね」
それでは、ここを参りに来る人は一体どれほどなのだろうか。
戸惑う私を差し置いて、五条さんは遺骨を納めるべく墓石を動かし始めた。
それに続いて、私と夏油さんも作業を始めた。
周りを掃除して、花を供えて、線香を奉る。
そうして、私達は手を合わせてしばしの間黙祷した。