第32話 懐玉ー弐ー
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「なんか考え事?悩みでもあんのかよ」
五条さんが真面目なトーンで言った。
話すべきかどうか考えた後で、
「・・・あの日から、ずっと考えてしまうの」
私は胸の内をありのまま打ち明けた。
すると五条さんは呆れたように肩をすくめて、
「そんなこと考えてたのか」
と言った。
「オマエがあの時どうしてようと結果は同じだよ」
「・・・・・・」
「俺がしくっただけだ。誰も悪くない」
「そんな・・・」
「・・・なんにせよ、以前にも言ったけど、終わった任務のことは引きずるな。切り替えろ」
「・・・うん」
それでも目尻に滲んでくるものを拭いながら、私は自分を納得させるよう何度も頷いた。
わかってる。
わかってる。
「それよりさ、訊きたいことがあるんだけど」
と五条さんが神妙な面持ちで言ったので、私はふと顔を上げた。
「・・・何?」
「あの日」
「あの日?」
「沖縄での夜のこと」
「・・・・・・」
「あのキス、どう思う?」
思いも寄らぬ事を訊かれて、私は言葉も思考も失ってしまった。
というか、そんなことを気にしていることが信じられない。
「それよりって・・・」
私は失望しながら言った。
「理子ちゃん達のことより、そんなことずっと考えてたの?」
すると、五条さんは目をパチクリさせた。
「ずっとってワケじゃねぇけど」
「・・・あんなくだらないキスのことなんてよく考えられるわね」
「くだらない?」
「そんなに知りたいなら教えてあげる。最低よ!」
「あ?」
「あんなキス、最悪最低。馬鹿にされた気分になった」
私がそう言ってしまうと、五条さんはハッと笑って皮肉っぽく言い返して来た。
「ずいぶん意識してくれてるみたいじゃねぇの。嬉しいねぇ」
「悪いようにね」
私は言った。
「切り替えろって簡単に言うけれど、私はあんな出来事を忘れるなんて出来ない。理子ちゃんと黒井さんの事を思うと、キスや機種変更のことなんか話す気になんてなれない」
「・・・・・・」
「そんなことを、話せる気がしれない」
すると、五条さんはひとつ溜息吐くと突き放すような口調で言った。
「じゃあ、オマエは俺や傑がいつまでも天内と黒井さんの事をメソメソ泣きながら話してたら納得するワケ?」
「そんなこと・・・!」
「俺にはそう感じたけど」
「・・・そんなつもりじゃ」
「いいよ。オマエが言うように、一緒にいた人間が殺されて、人ひとりを殺したってのに、その後悲しみもせず罪悪感も無く、キスや機種変のことを話せる俺の方が異常なんだろ」
「・・・・・・」
「でも、俺は呪術師だ」
鋭い目線を私に向けて、五条さんは言った。
「仲間が殺されたとしても、呪いを祓う。それが呪詛師 なら、躊躇わず殺す。生き残れたなら、その殺した同じ手で飯も食うし、風呂に入って寝て、次の日を迎える。そして、その日も呪いを祓う」
「・・・・・・」
「それが呪術師だ。それが理解出来ないっつーんなら、オマエ呪術師向いてないよ」
そう言いながら、五条さんは席から立ち上がった。
「高専もさっさと辞めろ」
そして、そのまま去って行った。
私はひとり席に座ったまま、食堂に残り続けた。
午後の授業の始まりを告げるチャイムが鳴っても、そこから動けなかった。
「・・・・・・」
五条さんのことを責めたかったわけじゃない。
何にも感じていないなんて思ってない。
ああやって、違う話題をして気持ちを切り替えようとしていることもわかってる。
だけど、どうしても理子ちゃんと黒井さんの最期の姿が目に焼き付いて消えなくて。
あんな悲しい場面を目にして、心に溢れて溺れそうになるほどの悲しみや怒りを共有できないことが、寂しくて。
「・・・・・・」
私はテーブルの上に置いた両腕に顔を突っ伏した。
しばらくそのままでいたら、
「和紗」
呼びかけられて、私は顔を上げた。
すると傍に、夏油さんが立っていた。
五条さんが真面目なトーンで言った。
話すべきかどうか考えた後で、
「・・・あの日から、ずっと考えてしまうの」
私は胸の内をありのまま打ち明けた。
すると五条さんは呆れたように肩をすくめて、
「そんなこと考えてたのか」
と言った。
「オマエがあの時どうしてようと結果は同じだよ」
「・・・・・・」
「俺がしくっただけだ。誰も悪くない」
「そんな・・・」
「・・・なんにせよ、以前にも言ったけど、終わった任務のことは引きずるな。切り替えろ」
「・・・うん」
それでも目尻に滲んでくるものを拭いながら、私は自分を納得させるよう何度も頷いた。
わかってる。
わかってる。
「それよりさ、訊きたいことがあるんだけど」
と五条さんが神妙な面持ちで言ったので、私はふと顔を上げた。
「・・・何?」
「あの日」
「あの日?」
「沖縄での夜のこと」
「・・・・・・」
「あのキス、どう思う?」
思いも寄らぬ事を訊かれて、私は言葉も思考も失ってしまった。
というか、そんなことを気にしていることが信じられない。
「それよりって・・・」
私は失望しながら言った。
「理子ちゃん達のことより、そんなことずっと考えてたの?」
すると、五条さんは目をパチクリさせた。
「ずっとってワケじゃねぇけど」
「・・・あんなくだらないキスのことなんてよく考えられるわね」
「くだらない?」
「そんなに知りたいなら教えてあげる。最低よ!」
「あ?」
「あんなキス、最悪最低。馬鹿にされた気分になった」
私がそう言ってしまうと、五条さんはハッと笑って皮肉っぽく言い返して来た。
「ずいぶん意識してくれてるみたいじゃねぇの。嬉しいねぇ」
「悪いようにね」
私は言った。
「切り替えろって簡単に言うけれど、私はあんな出来事を忘れるなんて出来ない。理子ちゃんと黒井さんの事を思うと、キスや機種変更のことなんか話す気になんてなれない」
「・・・・・・」
「そんなことを、話せる気がしれない」
すると、五条さんはひとつ溜息吐くと突き放すような口調で言った。
「じゃあ、オマエは俺や傑がいつまでも天内と黒井さんの事をメソメソ泣きながら話してたら納得するワケ?」
「そんなこと・・・!」
「俺にはそう感じたけど」
「・・・そんなつもりじゃ」
「いいよ。オマエが言うように、一緒にいた人間が殺されて、人ひとりを殺したってのに、その後悲しみもせず罪悪感も無く、キスや機種変のことを話せる俺の方が異常なんだろ」
「・・・・・・」
「でも、俺は呪術師だ」
鋭い目線を私に向けて、五条さんは言った。
「仲間が殺されたとしても、呪いを祓う。それが
「・・・・・・」
「それが呪術師だ。それが理解出来ないっつーんなら、オマエ呪術師向いてないよ」
そう言いながら、五条さんは席から立ち上がった。
「高専もさっさと辞めろ」
そして、そのまま去って行った。
私はひとり席に座ったまま、食堂に残り続けた。
午後の授業の始まりを告げるチャイムが鳴っても、そこから動けなかった。
「・・・・・・」
五条さんのことを責めたかったわけじゃない。
何にも感じていないなんて思ってない。
ああやって、違う話題をして気持ちを切り替えようとしていることもわかってる。
だけど、どうしても理子ちゃんと黒井さんの最期の姿が目に焼き付いて消えなくて。
あんな悲しい場面を目にして、心に溢れて溺れそうになるほどの悲しみや怒りを共有できないことが、寂しくて。
「・・・・・・」
私はテーブルの上に置いた両腕に顔を突っ伏した。
しばらくそのままでいたら、
「和紗」
呼びかけられて、私は顔を上げた。
すると傍に、夏油さんが立っていた。