第32話 懐玉ー弐ー
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「大丈夫?」
硝子さんが夏油さんの顔を覗き込む。
「硝子・・・」
夏油さんはぼうっとした表情で硝子さんを見返す。
そして、隣に私がいることにも気づく。
「和紗・・・。そうか、私は・・・」
この僅かな間だけで、夏油さんは現在の状況を把握したようだった。
身体を起こしベッドから出ようとするのを硝子さんが止める。
「どこ行くの」
「傷ならもう大丈夫だ」
「そんなこと訊いてない」
「無茶するなと言いたいんだろう。でも、私なら大丈夫だ」
硝子さんの制止を振り切って、夏油さんは立ちあがる。
「盤星教のアジトへ行く。そこに理子ちゃんは連れていかれた。悟も・・・向かっているはずだ」
「私も一緒に行く」
すかさず私が声を上げる。
しかし、夏油さんは首を横に振りそれを拒否した。
「和紗はここに残れ」
そして、夏油さんは医務室を後にした。
・・・二人が、変わり果てた理子ちゃんを連れて再び高専に戻ってきたのは、陽が沈みきった頃だった。
五条さんも夏油さんも、その表情は憔悴していて、盤星教のアジトでのことを詳細には話そうとしなかった。
そこで二人が見たものを、私は知る由もなかった。
護衛対象者の死で終えるという任務の顛末は、まだ学生である私達の心に深い疵を残した・・・はずだった。
「そろそろケータイ機種変しよっかなー」
昼休み。食堂でご飯を食べている時に、五条さんが言った。
「でも、データの引継ぎが面倒なんだよなぁ」
「思い立った日が吉日。そういうことはさっさとした方がいいよ」
と、五条さんの言葉に夏油さんが返す。
「じゃあ傑、放課後ケータイショップ付き合ってよ」
「それくらい一人で行けよ」
「そう言わずにさぁ~」
「やだよ。ああいうとこの手続きって待ち時間が長いから」
『星漿体の護衛と抹消の任務』から二週間ほどが過ぎた。
あの三日間以前と変わらない日々を私達は送っていた。
あの伏黒という男は、盤星教に雇われた刺客だったという。
一度、五条さんは伏黒の凶刃に瀕死の状態まで追い込まれるが、その直後に反転術式に覚醒し、自己治癒に成功。
その後、理子ちゃんの遺体の引き渡し先である盤星教本部で再び相まみえ、五条さんは伏黒を殺したのだった。
名前以外のあの男の素性を、私が知ることはなかった。
伏黒君との繋がりも、もはやわからないままだ。
黒井さんの遺体は、翌日に彼女のご両親が引き取りに来られた。
その際、私達も黒井さんのご両親と対面した。
私達は黒井さんの最期の三日間の様子を伝えた。
ご両親は涙を零しながら、「任務に忠実だった娘を誇りに思う」と語った。
今、黒井さんは実家の傍の黒井家のお墓の中で眠っている。
あの三日間の出来事は、私達の心に深い疵を残したはずだった。
だけど、五条さんと夏油さんはそれを引きずることなく、以前の様に任務もこなし時々羽目を外して夜蛾さんに怒られたりして、変わらない様子だ。
心の疵は、私の心には残された。
そして、起きた出来事のひとつひとつを振り返り意味のないシミュレーションを繰り返してしまう。
伏黒と対峙する前に、私が五条さんの傷を治していれば・・・。
皆んなに、『明埜乃舞降鶴乃疑砡 』を創って渡していたら・・・。
そうしていれば今と結果が違っていたんじゃないかと、ずっとそんな事を考えてしまう自分がいる。
「和紗」
「・・・・・・」
「和紗」
「・・・・・・」
「おい、和紗ってば」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ビシッ
「痛っ!?」
強烈なデコピンを食らって、私は現実に戻った。
気づけば私は五条さんと二人きりになっていた。
顔を上げると、不満そうな顔をした五条さんと目が合った。
「ったく、人が話してんだからちゃんと聞けよ」
「ごめん・・・。何の話してたの?」
「機種変しに放課後ケータイショップに付き合えっつったの。傑も硝子も忙しいっていうからさ。オマエはどうせ暇だろ?」
「・・・・・・」
「その帰りにクレープでも奢ってやるよ・・・って、オイ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ビシッ
「いっ!?」
またボーッとしていたら、二度目のデコピンを食らってしまった。
硝子さんが夏油さんの顔を覗き込む。
「硝子・・・」
夏油さんはぼうっとした表情で硝子さんを見返す。
そして、隣に私がいることにも気づく。
「和紗・・・。そうか、私は・・・」
この僅かな間だけで、夏油さんは現在の状況を把握したようだった。
身体を起こしベッドから出ようとするのを硝子さんが止める。
「どこ行くの」
「傷ならもう大丈夫だ」
「そんなこと訊いてない」
「無茶するなと言いたいんだろう。でも、私なら大丈夫だ」
硝子さんの制止を振り切って、夏油さんは立ちあがる。
「盤星教のアジトへ行く。そこに理子ちゃんは連れていかれた。悟も・・・向かっているはずだ」
「私も一緒に行く」
すかさず私が声を上げる。
しかし、夏油さんは首を横に振りそれを拒否した。
「和紗はここに残れ」
そして、夏油さんは医務室を後にした。
・・・二人が、変わり果てた理子ちゃんを連れて再び高専に戻ってきたのは、陽が沈みきった頃だった。
五条さんも夏油さんも、その表情は憔悴していて、盤星教のアジトでのことを詳細には話そうとしなかった。
そこで二人が見たものを、私は知る由もなかった。
護衛対象者の死で終えるという任務の顛末は、まだ学生である私達の心に深い疵を残した・・・はずだった。
「そろそろケータイ機種変しよっかなー」
昼休み。食堂でご飯を食べている時に、五条さんが言った。
「でも、データの引継ぎが面倒なんだよなぁ」
「思い立った日が吉日。そういうことはさっさとした方がいいよ」
と、五条さんの言葉に夏油さんが返す。
「じゃあ傑、放課後ケータイショップ付き合ってよ」
「それくらい一人で行けよ」
「そう言わずにさぁ~」
「やだよ。ああいうとこの手続きって待ち時間が長いから」
『星漿体の護衛と抹消の任務』から二週間ほどが過ぎた。
あの三日間以前と変わらない日々を私達は送っていた。
あの伏黒という男は、盤星教に雇われた刺客だったという。
一度、五条さんは伏黒の凶刃に瀕死の状態まで追い込まれるが、その直後に反転術式に覚醒し、自己治癒に成功。
その後、理子ちゃんの遺体の引き渡し先である盤星教本部で再び相まみえ、五条さんは伏黒を殺したのだった。
名前以外のあの男の素性を、私が知ることはなかった。
伏黒君との繋がりも、もはやわからないままだ。
黒井さんの遺体は、翌日に彼女のご両親が引き取りに来られた。
その際、私達も黒井さんのご両親と対面した。
私達は黒井さんの最期の三日間の様子を伝えた。
ご両親は涙を零しながら、「任務に忠実だった娘を誇りに思う」と語った。
今、黒井さんは実家の傍の黒井家のお墓の中で眠っている。
あの三日間の出来事は、私達の心に深い疵を残したはずだった。
だけど、五条さんと夏油さんはそれを引きずることなく、以前の様に任務もこなし時々羽目を外して夜蛾さんに怒られたりして、変わらない様子だ。
心の疵は、私の心には残された。
そして、起きた出来事のひとつひとつを振り返り意味のないシミュレーションを繰り返してしまう。
伏黒と対峙する前に、私が五条さんの傷を治していれば・・・。
皆んなに、『
そうしていれば今と結果が違っていたんじゃないかと、ずっとそんな事を考えてしまう自分がいる。
「和紗」
「・・・・・・」
「和紗」
「・・・・・・」
「おい、和紗ってば」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ビシッ
「痛っ!?」
強烈なデコピンを食らって、私は現実に戻った。
気づけば私は五条さんと二人きりになっていた。
顔を上げると、不満そうな顔をした五条さんと目が合った。
「ったく、人が話してんだからちゃんと聞けよ」
「ごめん・・・。何の話してたの?」
「機種変しに放課後ケータイショップに付き合えっつったの。傑も硝子も忙しいっていうからさ。オマエはどうせ暇だろ?」
「・・・・・・」
「その帰りにクレープでも奢ってやるよ・・・って、オイ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ビシッ
「いっ!?」
またボーッとしていたら、二度目のデコピンを食らってしまった。