第31話 懐玉ー壱ー
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それからほどなく通話を終えて、夏油さんは黒井さんに視線を向けた。
「お嬢様の首に、懸賞金だと?ふざけやがって・・・!」
黒井さんは怒りで打ち震えている。
「そう怒るのはもっともです。が、今は冷静になって。急ぎましょう」
そう夏油さんが言うと、黒井さんは自分を落ち着かせるよう深呼吸をしてから、
「はい」
と、しっかりと頷いた。
「和紗」
夏油さんに呼びかけられて、私は見上げる。
夏油さんは私の目を見据えて、こう言った。
「この先、どれくらいの呪詛師達が襲撃してくるかわからない。治療の優先度は、まずは和紗。そして理子ちゃん、黒井さんだ。悟と私は構わなくていい」
「・・・でも」
「・・・もっとも、私達が怪我を負うことなんてないけどね」
そう言って、夏油さんは微笑んだ。
それにつられて私も微笑む。
だけどすぐに真顔に戻って、
「行こう」
と私達は駆け出した。
だけど、夏油さんと私達ではどうしても走る速度に差がある。
夏油さんが私達を気遣って何度もこちらを振り返りながら走っている。
すると、黒井さんが大きな声で言った。
「万が一ということがあります!!夏油様の方が早い。先にお嬢様のところへ!!」
その言葉を聞いて、夏油さんは伺うように私へ視線を向けた。
「・・・・・・」
私は黙って頷いた。
「・・・わかった。先に行きます。和紗、黒井さんを頼む!」
と夏油さんは前を向き直し、フルスピードで走って行った。
私達は安堵して、その後姿を見送った。
そして、少し速度を落として並走した。
「それにしても、黒井さんって強いんですね。ビックリしました」
と私が言うと、黒井さんは照れくさそうに笑った。
「私の実家は代々『星漿体』に使える一族なんです。それで『星漿体』を護衛するために、護身術を習うのが慣例なのです」
「そうなんですか」
「でも、学生だった頃はそんな家業が嫌で。短大で養護教員の資格の勉強をしていたんです。でも、理子様にお会いして考えを改めました」
「・・・・・・」
「理子様に会った時に思ったんです。この方は、私が寄り添って支えて差し上げないとって」
「・・・そうですか」
母娘のようにも、姉妹の様にも、友達同士のようにも見えるふたり。
ただの主従関係じゃない。
ふたりの間に深い絆があることは、初対面の時から見て取れた。
この数日間は、きっとふたりにとって貴重で切ない時間だったのだろう。
あと二日。
残る時間は、出来るだけ穏やかなものにしてあげたい。
そんなことを考えながら走っていたら、
「・・・黒井さん?」
ふと、並走していたはずの黒井さんがいなくなっていることに気づいた。
立ち止まり振り返ると、黒井さんは地面に倒れていた。
「黒井さん!」
私は急いで黒井さんに駆けつけようとした。
しかし、その時。
「!」
後頭部を強く殴打され、脳が激しく揺れるのがわかった。
(・・・敵・・・?)
そう思って警戒するものの、意識は次第に遠ざかっていく。
そして、私は膝から崩れ落ちるようにして倒れ込んだ。
幾度と瞬きを繰り返す度、徐々に意識もはっきりとしてきて、私は自分が横たわっていることに気づいた。
次に、両手足を拘束され身動きが取れないこと、猿轡をされて声が出せないことに気づく。
「・・・・・・」
視線を巡らせて辺りを見回す。
すると、黒井さんが私のすぐそばで同じく拘束されて横たわっているのが視界に入った。
胸が上下していて呼吸があることがわかり安堵する。
それからさらに視界を巡らせると、ここがオフィスのような場所であることがわかった。
真っ白な床と壁と天井。
窓も時計も、時間の経過がわかるものがない。
そんな無機質な空間に唯一の装飾品が目についた。
額縁の中に飾られた花火のような模様の絵だ。
(ここは一体・・・)
そこへドアが開いて、白の上下の服を着た中年男性と初老の女性とまだ20代と思われる若い男性が入ってきた。
「お嬢様の首に、懸賞金だと?ふざけやがって・・・!」
黒井さんは怒りで打ち震えている。
「そう怒るのはもっともです。が、今は冷静になって。急ぎましょう」
そう夏油さんが言うと、黒井さんは自分を落ち着かせるよう深呼吸をしてから、
「はい」
と、しっかりと頷いた。
「和紗」
夏油さんに呼びかけられて、私は見上げる。
夏油さんは私の目を見据えて、こう言った。
「この先、どれくらいの呪詛師達が襲撃してくるかわからない。治療の優先度は、まずは和紗。そして理子ちゃん、黒井さんだ。悟と私は構わなくていい」
「・・・でも」
「・・・もっとも、私達が怪我を負うことなんてないけどね」
そう言って、夏油さんは微笑んだ。
それにつられて私も微笑む。
だけどすぐに真顔に戻って、
「行こう」
と私達は駆け出した。
だけど、夏油さんと私達ではどうしても走る速度に差がある。
夏油さんが私達を気遣って何度もこちらを振り返りながら走っている。
すると、黒井さんが大きな声で言った。
「万が一ということがあります!!夏油様の方が早い。先にお嬢様のところへ!!」
その言葉を聞いて、夏油さんは伺うように私へ視線を向けた。
「・・・・・・」
私は黙って頷いた。
「・・・わかった。先に行きます。和紗、黒井さんを頼む!」
と夏油さんは前を向き直し、フルスピードで走って行った。
私達は安堵して、その後姿を見送った。
そして、少し速度を落として並走した。
「それにしても、黒井さんって強いんですね。ビックリしました」
と私が言うと、黒井さんは照れくさそうに笑った。
「私の実家は代々『星漿体』に使える一族なんです。それで『星漿体』を護衛するために、護身術を習うのが慣例なのです」
「そうなんですか」
「でも、学生だった頃はそんな家業が嫌で。短大で養護教員の資格の勉強をしていたんです。でも、理子様にお会いして考えを改めました」
「・・・・・・」
「理子様に会った時に思ったんです。この方は、私が寄り添って支えて差し上げないとって」
「・・・そうですか」
母娘のようにも、姉妹の様にも、友達同士のようにも見えるふたり。
ただの主従関係じゃない。
ふたりの間に深い絆があることは、初対面の時から見て取れた。
この数日間は、きっとふたりにとって貴重で切ない時間だったのだろう。
あと二日。
残る時間は、出来るだけ穏やかなものにしてあげたい。
そんなことを考えながら走っていたら、
「・・・黒井さん?」
ふと、並走していたはずの黒井さんがいなくなっていることに気づいた。
立ち止まり振り返ると、黒井さんは地面に倒れていた。
「黒井さん!」
私は急いで黒井さんに駆けつけようとした。
しかし、その時。
「!」
後頭部を強く殴打され、脳が激しく揺れるのがわかった。
(・・・敵・・・?)
そう思って警戒するものの、意識は次第に遠ざかっていく。
そして、私は膝から崩れ落ちるようにして倒れ込んだ。
幾度と瞬きを繰り返す度、徐々に意識もはっきりとしてきて、私は自分が横たわっていることに気づいた。
次に、両手足を拘束され身動きが取れないこと、猿轡をされて声が出せないことに気づく。
「・・・・・・」
視線を巡らせて辺りを見回す。
すると、黒井さんが私のすぐそばで同じく拘束されて横たわっているのが視界に入った。
胸が上下していて呼吸があることがわかり安堵する。
それからさらに視界を巡らせると、ここがオフィスのような場所であることがわかった。
真っ白な床と壁と天井。
窓も時計も、時間の経過がわかるものがない。
そんな無機質な空間に唯一の装飾品が目についた。
額縁の中に飾られた花火のような模様の絵だ。
(ここは一体・・・)
そこへドアが開いて、白の上下の服を着た中年男性と初老の女性とまだ20代と思われる若い男性が入ってきた。