第29話 まつろわぬ民
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往年のハリウッドの町並みを模したパーク内の風景。
そこに流れる一度は聴いたことのある映画のBGM。
どこからともなく香るポップコーンの匂い。
キャラクターもののカチューシャやサングラスをつけた浮かれた人々が絶え間なく通りを往来している。
私達もそうした人々と同じく、サングラスやカチューシャを身に着けて、大きなポップコーンバゲットを首から下げて、広いパーク内を練り歩いていた。
「もう一回、ジュラシックパーク乗りたい!」
と舞い上がってハイになっているのは私の方で、
「ちょっと待てよ。一回休け~い」
と五条さんは道の脇にあるベンチに座り込んでしまった。
私は休む時間さえも惜しかったけれど、渋々五条さんに続いてベンチに座った。
「はぁ~。ほんとにすごーく楽しい!」
ベンチに座っても尚、私は興奮気味に辺りを見回しながら言った。
「あ、あそこのチュロス美味しそう。後で買いに行ってもいい?」
「・・・・・・」
「そうだ。硝子さん達にお土産も買わなくちゃ!忘れないうちに買いに行かない?」
「・・・・・・」
しかし、五条さんは一切返事をしない。
「五条さん?」
どうしたんだろうと、私は五条さんの顔を見遣る。
すると、五条さんは真っ青な顔をして苦しそうに目を伏せて俯いていた。
「五条さん!?」
私が驚いて声を上げると、
「うるせーな・・・頭に響くだろ・・・」
と呟いた後、五条さんはフラリと私の肩にもたれかかった。
私はますます驚いて問いかける。
「大丈夫!?」
「・・・そんな騒ぐな。少し休めば治るよ」
「でも、顔真っ青だよ。乗り物酔いしちゃった?」
「・・・ちげーよ」
そう言った後、五条さんはポツリと呟くように続けた。
「・・・俺の眼」
「え?」
「俺の眼って色々よく見えすぎて、頭に流れてくる情報も過多になって気持ち悪くなるんだよな。こういう人混みにいると特にね」
「・・・・・・」
「それを防ぐために、特注のサングラスかけてんだけどさ。ぶっ壊れちゃったしな」
「・・・このサングラスは?」
と、私は自分がかけているエルモがフレームにあしらわれたサングラスを差し出した。
すると五条さんはハッと鼻で笑って、
「こんな遮光性ねぇやつじゃ、裸眼とかわんねーよ」
と言って、また目を伏せた。
「・・・・・・」
私はそっと身体を後ろに引いた。
それに気づいた五条さんは、もたれている私の肩から身体を起こす。
「あ、悪ぃ・・・」
だけど、私はすぐに両腕で五条さんの頭を掻き抱いて、そのまま自分の膝の上に横たわらせた。
「あ?」
すると、五条さんは面食らったように声を上げた。
「何だよ?」
「落ち着くまで休んでて」
「この状態でかよ。小っ恥ずかしいな」
「いいじゃない。誰も気にしてないし」
そう、この陽気で煌びやかなエンターテイメントの世界では、誰も私達のことなんて気にしていない。
見られていても、誰一人として、私達が『呪い』と闘う呪術師だなんて思いもしないだろう。ただの学生カップルに見えているのだろう。
(五条さんだって)
この五条さんだって、まだ最強に成る前の、未熟で未完成な一人の男の子なんだ。
「・・・・・・」
しばらくして、五条さんはそのまま私の膝を枕にして眠ってしまった。
愛おしくて、私はそっと五条さんの額にかかる前髪を指先で梳いた。
喧騒の中に居るのに、静かで穏やかな時間だった。
プルルルル・・・
携帯電話が鳴って、私はハッと現実に戻った。
眠っていた五条さんも目を覚まし、
「電話・・・?あぁ、俺のか」
と、ズボンのポケットを探って携帯電話を取り出す。
「傑だ」
と応答ボタンを押し、私の膝から頭を起こした。
「もしもし~?」
「・・・・・・」
会話する五条さんの傍で、私は密かに落胆していた。
(そっか。そろそろ帰らなきゃ・・・)
しかし、通話を終えた五条さんはこちらを振り返り、
「傑も来るって。つーか、もう来てる」
と言った。
そこに流れる一度は聴いたことのある映画のBGM。
どこからともなく香るポップコーンの匂い。
キャラクターもののカチューシャやサングラスをつけた浮かれた人々が絶え間なく通りを往来している。
私達もそうした人々と同じく、サングラスやカチューシャを身に着けて、大きなポップコーンバゲットを首から下げて、広いパーク内を練り歩いていた。
「もう一回、ジュラシックパーク乗りたい!」
と舞い上がってハイになっているのは私の方で、
「ちょっと待てよ。一回休け~い」
と五条さんは道の脇にあるベンチに座り込んでしまった。
私は休む時間さえも惜しかったけれど、渋々五条さんに続いてベンチに座った。
「はぁ~。ほんとにすごーく楽しい!」
ベンチに座っても尚、私は興奮気味に辺りを見回しながら言った。
「あ、あそこのチュロス美味しそう。後で買いに行ってもいい?」
「・・・・・・」
「そうだ。硝子さん達にお土産も買わなくちゃ!忘れないうちに買いに行かない?」
「・・・・・・」
しかし、五条さんは一切返事をしない。
「五条さん?」
どうしたんだろうと、私は五条さんの顔を見遣る。
すると、五条さんは真っ青な顔をして苦しそうに目を伏せて俯いていた。
「五条さん!?」
私が驚いて声を上げると、
「うるせーな・・・頭に響くだろ・・・」
と呟いた後、五条さんはフラリと私の肩にもたれかかった。
私はますます驚いて問いかける。
「大丈夫!?」
「・・・そんな騒ぐな。少し休めば治るよ」
「でも、顔真っ青だよ。乗り物酔いしちゃった?」
「・・・ちげーよ」
そう言った後、五条さんはポツリと呟くように続けた。
「・・・俺の眼」
「え?」
「俺の眼って色々よく見えすぎて、頭に流れてくる情報も過多になって気持ち悪くなるんだよな。こういう人混みにいると特にね」
「・・・・・・」
「それを防ぐために、特注のサングラスかけてんだけどさ。ぶっ壊れちゃったしな」
「・・・このサングラスは?」
と、私は自分がかけているエルモがフレームにあしらわれたサングラスを差し出した。
すると五条さんはハッと鼻で笑って、
「こんな遮光性ねぇやつじゃ、裸眼とかわんねーよ」
と言って、また目を伏せた。
「・・・・・・」
私はそっと身体を後ろに引いた。
それに気づいた五条さんは、もたれている私の肩から身体を起こす。
「あ、悪ぃ・・・」
だけど、私はすぐに両腕で五条さんの頭を掻き抱いて、そのまま自分の膝の上に横たわらせた。
「あ?」
すると、五条さんは面食らったように声を上げた。
「何だよ?」
「落ち着くまで休んでて」
「この状態でかよ。小っ恥ずかしいな」
「いいじゃない。誰も気にしてないし」
そう、この陽気で煌びやかなエンターテイメントの世界では、誰も私達のことなんて気にしていない。
見られていても、誰一人として、私達が『呪い』と闘う呪術師だなんて思いもしないだろう。ただの学生カップルに見えているのだろう。
(五条さんだって)
この五条さんだって、まだ最強に成る前の、未熟で未完成な一人の男の子なんだ。
「・・・・・・」
しばらくして、五条さんはそのまま私の膝を枕にして眠ってしまった。
愛おしくて、私はそっと五条さんの額にかかる前髪を指先で梳いた。
喧騒の中に居るのに、静かで穏やかな時間だった。
プルルルル・・・
携帯電話が鳴って、私はハッと現実に戻った。
眠っていた五条さんも目を覚まし、
「電話・・・?あぁ、俺のか」
と、ズボンのポケットを探って携帯電話を取り出す。
「傑だ」
と応答ボタンを押し、私の膝から頭を起こした。
「もしもし~?」
「・・・・・・」
会話する五条さんの傍で、私は密かに落胆していた。
(そっか。そろそろ帰らなきゃ・・・)
しかし、通話を終えた五条さんはこちらを振り返り、
「傑も来るって。つーか、もう来てる」
と言った。