第29話 まつろわぬ民
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「和紗、ありがとう」
と、夏油さんが言った。
「傷の治療もだけど、悟を止めてくれたことも」
「そんなお礼だなんて。それに、五条さんは私じゃなくて夏油さんの言う事をきいて思いとどまったんだよ」
私は五条さんの方を見つめながら言った。
「私だけじゃきっと止められなかった」
「・・・悟のこと、怖いと思った?」
「・・・怖いというよりも悲しかった」
「悲しい?」
「・・・五条さんが、あんなこと言うなんて」
「あんなこと?」
と言った後すぐに思い当たったのか、「あぁ」と呟いた後、夏油さんは続けた。
「悟は、善悪の指針がハッキリと定まっていないんだよ」
「指針?」
「いや、呪術師としてあるべき姿と言った方がいいのかな」
「・・・・・・」
「悟が呪術界の『御三家』のひとつ、五条家の嫡子ということは?」
「・・・知ってる」
「その上、悟は『無下限呪術』と『六眼』を抱き合わせた数百年振りの逸材。生まれながら呪術界の頂点に君臨する天才。まさに天上天下、唯我独尊。それ故、彼に呪術師としての在り方を説く者はいなかった」
「・・・・・・」
「だから、悟はそれを学ぶために呪術高専へ来たんだよ」
「・・・・・・」
「強き者が弱きを助け、強きを挫く。呪術は非術師を守るためにある」
その言葉を聞いて、私はハッと顔を上げた。
目が合って、夏油さんは目を糸の様にして微笑んだ。
「そのことを私たちは互いに教え合いながら、一緒に成長するんだ」
『親友の受け売りでさ』
あぁ、そうだ。
この言葉は、元々は夏油さんの言葉だった。
「・・・・・・」
だけど、ますますわからなくなる。
いずれこの人が呪術高専から、五条さんの元から離れて、『百鬼夜行』を起こし、五条さんに殺され、その肉体を羂索に奪われることになるなんて。
「・・・夏油さん」
私は言った。
「これからどんなことがあっても、どこにも行かないで」
「ん?」
「夏油さんは、ずっと五条さんの傍にいてあげてね」
こんなこと言っても、どうにもならないってわかってる。
運命は変えられない。
だけど、どうしてもそう懇願せずにはいられなかった。
こんなにも真っ直ぐで清廉で優しいこの人が闇に堕ちていくなんて、信じたくなかった。
縋る様に顔を見上げると、夏油さんは私の唐突な言葉にキョトンとしていた。
だけどまたすぐに目を細めて、
「あぁ。もちろんだよ」
と、微笑んだ。
それからまもなくして、京都校から夜蛾さんと楽巌寺学長を筆頭に調査団がやって来た。
万城目と梨理衣ちゃんの身柄は引き渡され、逃げた大阪校の面々は追跡されることとなり、現場の実況見分が行われることになった。
「いつまで俺達ここにいなきゃなんないワケ?あとはアンタらの仕事だろ。早くしないとUSJ閉園しちまうだろーが」
と、駄々を捏ねるのは五条さん。
その傍で夜蛾さんは呆れたように溜息を吐いた後、
「悟・・・」
と五条さんに対して言い諭そうとしたところで、
「キサマはこれで任務を一人前にこなしたつもりでおるようだが」
楽巌寺学長が割り込んできて、
「ただ力任せに被疑者をねじ伏せ、その上周囲の被害状況は甚大。なぜもっと綿密に隠密に任務を果たせなんだ」
「ひっどいなぁ、それが一生懸命任務をこなした生徒たちにかける言葉なの~?オジイチャン」
「五条。お前ひとりに対して言っておる」
「なんで俺だけなの」
「キサマが向かうところ、余計に事態が大事になる。もっと慎重に行動せよと言っておるのだ」
と、五条さんと言い争いを始めた。
12年前から既にふたりは馬が合わないようだ。
「楽巌寺学長、夜蛾先生」
いがみ合う二人を差し置いて、夏油さんが口を開いた。
「悟と和紗は万城目の術式を受けたうえに、『土蜘蛛』の呪霊との戦闘もあり疲弊してます。実況見分なら私が引き受けます。二人は休ませてやってください」
と、夏油さんが言った。
「傷の治療もだけど、悟を止めてくれたことも」
「そんなお礼だなんて。それに、五条さんは私じゃなくて夏油さんの言う事をきいて思いとどまったんだよ」
私は五条さんの方を見つめながら言った。
「私だけじゃきっと止められなかった」
「・・・悟のこと、怖いと思った?」
「・・・怖いというよりも悲しかった」
「悲しい?」
「・・・五条さんが、あんなこと言うなんて」
「あんなこと?」
と言った後すぐに思い当たったのか、「あぁ」と呟いた後、夏油さんは続けた。
「悟は、善悪の指針がハッキリと定まっていないんだよ」
「指針?」
「いや、呪術師としてあるべき姿と言った方がいいのかな」
「・・・・・・」
「悟が呪術界の『御三家』のひとつ、五条家の嫡子ということは?」
「・・・知ってる」
「その上、悟は『無下限呪術』と『六眼』を抱き合わせた数百年振りの逸材。生まれながら呪術界の頂点に君臨する天才。まさに天上天下、唯我独尊。それ故、彼に呪術師としての在り方を説く者はいなかった」
「・・・・・・」
「だから、悟はそれを学ぶために呪術高専へ来たんだよ」
「・・・・・・」
「強き者が弱きを助け、強きを挫く。呪術は非術師を守るためにある」
その言葉を聞いて、私はハッと顔を上げた。
目が合って、夏油さんは目を糸の様にして微笑んだ。
「そのことを私たちは互いに教え合いながら、一緒に成長するんだ」
『親友の受け売りでさ』
あぁ、そうだ。
この言葉は、元々は夏油さんの言葉だった。
「・・・・・・」
だけど、ますますわからなくなる。
いずれこの人が呪術高専から、五条さんの元から離れて、『百鬼夜行』を起こし、五条さんに殺され、その肉体を羂索に奪われることになるなんて。
「・・・夏油さん」
私は言った。
「これからどんなことがあっても、どこにも行かないで」
「ん?」
「夏油さんは、ずっと五条さんの傍にいてあげてね」
こんなこと言っても、どうにもならないってわかってる。
運命は変えられない。
だけど、どうしてもそう懇願せずにはいられなかった。
こんなにも真っ直ぐで清廉で優しいこの人が闇に堕ちていくなんて、信じたくなかった。
縋る様に顔を見上げると、夏油さんは私の唐突な言葉にキョトンとしていた。
だけどまたすぐに目を細めて、
「あぁ。もちろんだよ」
と、微笑んだ。
それからまもなくして、京都校から夜蛾さんと楽巌寺学長を筆頭に調査団がやって来た。
万城目と梨理衣ちゃんの身柄は引き渡され、逃げた大阪校の面々は追跡されることとなり、現場の実況見分が行われることになった。
「いつまで俺達ここにいなきゃなんないワケ?あとはアンタらの仕事だろ。早くしないとUSJ閉園しちまうだろーが」
と、駄々を捏ねるのは五条さん。
その傍で夜蛾さんは呆れたように溜息を吐いた後、
「悟・・・」
と五条さんに対して言い諭そうとしたところで、
「キサマはこれで任務を一人前にこなしたつもりでおるようだが」
楽巌寺学長が割り込んできて、
「ただ力任せに被疑者をねじ伏せ、その上周囲の被害状況は甚大。なぜもっと綿密に隠密に任務を果たせなんだ」
「ひっどいなぁ、それが一生懸命任務をこなした生徒たちにかける言葉なの~?オジイチャン」
「五条。お前ひとりに対して言っておる」
「なんで俺だけなの」
「キサマが向かうところ、余計に事態が大事になる。もっと慎重に行動せよと言っておるのだ」
と、五条さんと言い争いを始めた。
12年前から既にふたりは馬が合わないようだ。
「楽巌寺学長、夜蛾先生」
いがみ合う二人を差し置いて、夏油さんが口を開いた。
「悟と和紗は万城目の術式を受けたうえに、『土蜘蛛』の呪霊との戦闘もあり疲弊してます。実況見分なら私が引き受けます。二人は休ませてやってください」