第27話 新世界
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「おい・・・」
ドン引きしながら五条さんは言った。
「何やってんだよ」
「・・・これは夢だもの」
私は打ち続けながら言った。
「こんなこと、あり得ない・・・!早く目を覚まさなくちゃ・・・!」
「・・・・・・」
五条さんは呆れ果てたようにしばらくアングリ口を開けた後、
「!」
パシっと私の手首を掴んで、打つ手を止めた。
「夢じゃねぇよ」
「・・・・・・」
「オマエは、これからこのクソ田舎を離れて東京に行く」
「・・・・・・」
「そんで、俺達と呪術高専に通う」
「・・・・・・」
「で、呪術師として呪いを祓いまくるんだ」
「・・・・・・」
「覚悟は決まってんだろ?」
「・・・・・・」
「今更、夢だとか抜かしてんじゃねーよ」
そう言い終えると、乱暴気味に手を離した。
「これ以上面倒かけんじゃねぇよ。さっさと荷物取って来い」
今私の目の前にいる五条さんは、ずっとどこか冷淡な態度だ。
言い放つ言葉にも、いちいちトゲがある。
それが、まだ幼いからだとか未熟だからだとわかっていても、心は傷つく。
「・・・・・・」
私は唇を噛み締めて俯く。
それが思わぬ反応だったのか、五条さんも「うっ」と困ったように口を噤んでしまった。
気まずい沈黙に、追い打ちをかけるように雨が降り始めた。
「・・・あーぁ、降り出しやがった」
と五条さんはひとつ溜息を吐いた後、
「!」
再び私の手首をつかんだ。
私が驚いて顔を上げると、五条さんもこちらを振り向き見下ろしていた。
視線が合うとニッと笑って、
「走るぞ」
と、そのまま私の腕を引いて走り出す。
突然のことに、私はヨタヨタとふらつく。
「ちょ、ちょっと・・・!」
「オラ、しっかり走れよ」
「ちょっと待って・・・!引っ張らないで!」
「俺が手離したら、雨に濡れるけどいーの?」
降り注ぐ雨の粒が、私達を避けていく。
雨粒のアーチを私達は走る。
大きい掌に、節くれだった長い指が、私の手首を包む。
これは夢のはずなのに。
お父さんに抱きしめられた時は、何の実感もなかったのに。
その手の感触も、伝わる温もりも、確かな実感だった。
「・・・・・・」
腕を引かれ走りながら、私は五条さんの背中を見つめた。
ここにいる。
五条さんがここにいる。
夢ならば醒めないで。
無意識のうちに、私はそう願っていた。
それから『つるぎ庵』に戻り、おじいちゃんとお父さんに別れを告げた。
そして、私と五条さんと夏油さんの三人で、三時間に一便の(こういうところは現実に忠実)金沢行のバスを待っている時だった。
「このまま金沢に観光行かねぇ?」
と、五条さんが言った。
突然の提案に、私と夏油さんはキョトンとする。
「・・・悟」
夏油さんが渋い顔して言った。
「そんなこと出来るわけないだろ。ただでさえ和紗の転入が遅れているんだ。授業にも影響が・・・」
「遅れてるっても一日だけだろ?任務に手間取ったってことにしたらもう一日遅れても問題ねぇよ」
・・・そんなこと、真面目そうな夏油さんが許すわけない。
なので、私は何も言わずに黙っていた。
ところが。
「・・・それもそうか」
と、夏油さんはポツリとつぶやいた。
「!?」
まさかの返答に、私は驚いて目を丸める。
五条さんは「イエーイ☆」とすっかりはしゃいでいる。
「やったー!温泉にカニに寿司!」
「カニは今シーズンオフじゃないかな、悟」
「えー、そうなの?一年中食えるんじゃないの?」
「どうだろうねぇ。和紗、金沢のオススメグルメって他に何がある?」
「え、や、えっと・・・?」
突然、話を振られて私は困惑する。
それにすかさず五条さんがツッコむ。
「え、まさか知らねぇの?地元民なのに?」
「じ、地元っていっても・・・」
「あ、まさかオマエ、このド田舎から一歩も出たことねーんだな!?ププッ。オマエ、マジで田舎者なんだな!」
「い、田舎者って失礼ね!東京にも京都にも神戸にも行ったことあるもん!」
「わざわざそう言うあたりが田舎者~]
「な、何よーっ」
「お、バスが来たよ。ふたりとも」
・・・そう、これは夢。
思い出と願望が織りなす『存在しない記憶』だ。
わかってる。だけど、今しばらくだけは・・・。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「ふふっ」
領域内。
奇子が眠る私の傍に立ち、その姿を見下ろしている。
「良い夢を見てるみたいね」
そのことに、眠れる私は気づく術はなかった。
つづく
ドン引きしながら五条さんは言った。
「何やってんだよ」
「・・・これは夢だもの」
私は打ち続けながら言った。
「こんなこと、あり得ない・・・!早く目を覚まさなくちゃ・・・!」
「・・・・・・」
五条さんは呆れ果てたようにしばらくアングリ口を開けた後、
「!」
パシっと私の手首を掴んで、打つ手を止めた。
「夢じゃねぇよ」
「・・・・・・」
「オマエは、これからこのクソ田舎を離れて東京に行く」
「・・・・・・」
「そんで、俺達と呪術高専に通う」
「・・・・・・」
「で、呪術師として呪いを祓いまくるんだ」
「・・・・・・」
「覚悟は決まってんだろ?」
「・・・・・・」
「今更、夢だとか抜かしてんじゃねーよ」
そう言い終えると、乱暴気味に手を離した。
「これ以上面倒かけんじゃねぇよ。さっさと荷物取って来い」
今私の目の前にいる五条さんは、ずっとどこか冷淡な態度だ。
言い放つ言葉にも、いちいちトゲがある。
それが、まだ幼いからだとか未熟だからだとわかっていても、心は傷つく。
「・・・・・・」
私は唇を噛み締めて俯く。
それが思わぬ反応だったのか、五条さんも「うっ」と困ったように口を噤んでしまった。
気まずい沈黙に、追い打ちをかけるように雨が降り始めた。
「・・・あーぁ、降り出しやがった」
と五条さんはひとつ溜息を吐いた後、
「!」
再び私の手首をつかんだ。
私が驚いて顔を上げると、五条さんもこちらを振り向き見下ろしていた。
視線が合うとニッと笑って、
「走るぞ」
と、そのまま私の腕を引いて走り出す。
突然のことに、私はヨタヨタとふらつく。
「ちょ、ちょっと・・・!」
「オラ、しっかり走れよ」
「ちょっと待って・・・!引っ張らないで!」
「俺が手離したら、雨に濡れるけどいーの?」
降り注ぐ雨の粒が、私達を避けていく。
雨粒のアーチを私達は走る。
大きい掌に、節くれだった長い指が、私の手首を包む。
これは夢のはずなのに。
お父さんに抱きしめられた時は、何の実感もなかったのに。
その手の感触も、伝わる温もりも、確かな実感だった。
「・・・・・・」
腕を引かれ走りながら、私は五条さんの背中を見つめた。
ここにいる。
五条さんがここにいる。
夢ならば醒めないで。
無意識のうちに、私はそう願っていた。
それから『つるぎ庵』に戻り、おじいちゃんとお父さんに別れを告げた。
そして、私と五条さんと夏油さんの三人で、三時間に一便の(こういうところは現実に忠実)金沢行のバスを待っている時だった。
「このまま金沢に観光行かねぇ?」
と、五条さんが言った。
突然の提案に、私と夏油さんはキョトンとする。
「・・・悟」
夏油さんが渋い顔して言った。
「そんなこと出来るわけないだろ。ただでさえ和紗の転入が遅れているんだ。授業にも影響が・・・」
「遅れてるっても一日だけだろ?任務に手間取ったってことにしたらもう一日遅れても問題ねぇよ」
・・・そんなこと、真面目そうな夏油さんが許すわけない。
なので、私は何も言わずに黙っていた。
ところが。
「・・・それもそうか」
と、夏油さんはポツリとつぶやいた。
「!?」
まさかの返答に、私は驚いて目を丸める。
五条さんは「イエーイ☆」とすっかりはしゃいでいる。
「やったー!温泉にカニに寿司!」
「カニは今シーズンオフじゃないかな、悟」
「えー、そうなの?一年中食えるんじゃないの?」
「どうだろうねぇ。和紗、金沢のオススメグルメって他に何がある?」
「え、や、えっと・・・?」
突然、話を振られて私は困惑する。
それにすかさず五条さんがツッコむ。
「え、まさか知らねぇの?地元民なのに?」
「じ、地元っていっても・・・」
「あ、まさかオマエ、このド田舎から一歩も出たことねーんだな!?ププッ。オマエ、マジで田舎者なんだな!」
「い、田舎者って失礼ね!東京にも京都にも神戸にも行ったことあるもん!」
「わざわざそう言うあたりが田舎者~]
「な、何よーっ」
「お、バスが来たよ。ふたりとも」
・・・そう、これは夢。
思い出と願望が織りなす『存在しない記憶』だ。
わかってる。だけど、今しばらくだけは・・・。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「ふふっ」
領域内。
奇子が眠る私の傍に立ち、その姿を見下ろしている。
「良い夢を見てるみたいね」
そのことに、眠れる私は気づく術はなかった。
つづく
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