第27話 新世界
夢小説設定
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「なっ・・・」
私は驚き戸惑いながら空間を見回す。
鏡の中の私も、万華鏡の中の模様のようにクルクルと動く。
「そんなに怯えなくても大丈夫よ」
奇子が言った。
「私の領域は人を傷つけるものじゃない。むしろ、人の願いを叶えるものなのよ」
「・・・願い?」
「そう。本人でさえ気づいていない『魂の皺』に深く深く刻まれた願い。それを映し出し、叶えるための領域なの」
「そんな戯言・・・!早くここから出して!」
時間がない。
『死滅回游』が始まってしまう。
お父さんたちが巻き込まれる前に行かなければ。
お母さんのところへ。
私は鏡に向き合い、その表面に拳を叩きつけた。
「・・・・!」
だけど、傷ひとつつけるどころか鏡はビクリともしない。
それでも、ドンドンと両手拳で叩き続ける。
「いやあねぇ、叩き割ろうだなんて。和紗ってば、いつからそんな脳筋になっちゃったのよ」
そう言いながら奇子は右手を上げて、
「いってらっしゃい。思い出と願望が織りなす『存在しない記憶』の世界へ」
と、パチンと指を鳴らした。
すると次の瞬間、
「!」
鏡のひとつに、五条さんの姿が映し出される。
「・・・五条さん・・・」
その向かいには、エプロン姿に三角巾をした私がいる。
そして、私たちがいる場所は『つるぎ庵』だ。
それでわかった。
映っているのは、私と五条さんが初めて会った時のことだ。
「・・・・・・」
視線を別の鏡に移す。
別の鏡には、おじいちゃんのお葬式に駆けつけた五条さんに抱きつく私が映っている。
「・・・・・・」
また別の鏡には、『額多ヶ守』の前で、私が五条さんに糠田が森を護るために呪術の教えを乞う場面が。
そのまた別の鏡には、合羽橋で一緒に買い物する姿や、一緒にお菓子作りする姿や、京都の町を歩く姿が映し出される。
他の鏡にも。
他の鏡にも。
他の鏡にも。
取り囲む鏡の全てに、私の中の五条さんとの記憶が映し出される。
『好きだよ』
あの日見た、朝も昼も夜もない様な、藍色の空も。
「・・・・・・」
記憶に足を取られたようにその場から動けなくなって、私は次々と記憶が映し出される鏡をただ見つめていた。
その時だった。
鏡のひとつが、激しく光り輝き始めた。
まるで洪水の様に光が溢れて空間を満たす。
目を開けることが出来なくなり、目を閉じても尚眩しくて、両腕をクロスして顔を覆う。
それでも光の洪水は収まることなく、勢いは増し続けている。
「・・・・・・」
次第に私の意識は遠のいていき、光の中に溶けて消えていった。
頬に冷たい感触。
それで、私は自分が床に倒れ込んでいることに気づいた。
「う・・・」
倒れ込んだまま、目を薄っすらと開く。
(ここは・・・)
領域の中じゃない。
ぼんやりとした意識で、目だけで辺りを見回す。
はっきりと見えないけれど、領域の外に出たらしい。
(奇子は・・・)
その時だった。
「おーい、生きてるー?」
と、頬をぺちぺちとはたかれた。
「・・・!」
私は驚いて勢いよく上半身を起こした。
「お、生きてた」
と笑う人物の顔に、私はまだぼやていける意識の中で焦点を合わせる。
「・・・・・・っ」
焦点が合うと、私は絶句した。
その人がかけているサングラスには、心底驚いている私の顔が映っている。
「ん?」
私があまりにも驚いているので、その人は訝し気に眉を顰めた。
「何?そんなビックリするほど俺っていい男?」
そう叩く軽口を、私は良く知っている。
この声も。
白い髪も。
サングラスの奥から時折のぞく碧い瞳も。
「・・・五条さん・・・」
今、私の傍にしゃがみ込むその人の名前を、信じられない思いで呟く。
そう、私の前には五条さんがいる。
帰って来てくれたんだ。
そう思って、私は頬を綻ばせる。
だけどそれは一瞬で、すぐに違和感に気づいた。
私は驚き戸惑いながら空間を見回す。
鏡の中の私も、万華鏡の中の模様のようにクルクルと動く。
「そんなに怯えなくても大丈夫よ」
奇子が言った。
「私の領域は人を傷つけるものじゃない。むしろ、人の願いを叶えるものなのよ」
「・・・願い?」
「そう。本人でさえ気づいていない『魂の皺』に深く深く刻まれた願い。それを映し出し、叶えるための領域なの」
「そんな戯言・・・!早くここから出して!」
時間がない。
『死滅回游』が始まってしまう。
お父さんたちが巻き込まれる前に行かなければ。
お母さんのところへ。
私は鏡に向き合い、その表面に拳を叩きつけた。
「・・・・!」
だけど、傷ひとつつけるどころか鏡はビクリともしない。
それでも、ドンドンと両手拳で叩き続ける。
「いやあねぇ、叩き割ろうだなんて。和紗ってば、いつからそんな脳筋になっちゃったのよ」
そう言いながら奇子は右手を上げて、
「いってらっしゃい。思い出と願望が織りなす『存在しない記憶』の世界へ」
と、パチンと指を鳴らした。
すると次の瞬間、
「!」
鏡のひとつに、五条さんの姿が映し出される。
「・・・五条さん・・・」
その向かいには、エプロン姿に三角巾をした私がいる。
そして、私たちがいる場所は『つるぎ庵』だ。
それでわかった。
映っているのは、私と五条さんが初めて会った時のことだ。
「・・・・・・」
視線を別の鏡に移す。
別の鏡には、おじいちゃんのお葬式に駆けつけた五条さんに抱きつく私が映っている。
「・・・・・・」
また別の鏡には、『額多ヶ守』の前で、私が五条さんに糠田が森を護るために呪術の教えを乞う場面が。
そのまた別の鏡には、合羽橋で一緒に買い物する姿や、一緒にお菓子作りする姿や、京都の町を歩く姿が映し出される。
他の鏡にも。
他の鏡にも。
他の鏡にも。
取り囲む鏡の全てに、私の中の五条さんとの記憶が映し出される。
『好きだよ』
あの日見た、朝も昼も夜もない様な、藍色の空も。
「・・・・・・」
記憶に足を取られたようにその場から動けなくなって、私は次々と記憶が映し出される鏡をただ見つめていた。
その時だった。
鏡のひとつが、激しく光り輝き始めた。
まるで洪水の様に光が溢れて空間を満たす。
目を開けることが出来なくなり、目を閉じても尚眩しくて、両腕をクロスして顔を覆う。
それでも光の洪水は収まることなく、勢いは増し続けている。
「・・・・・・」
次第に私の意識は遠のいていき、光の中に溶けて消えていった。
頬に冷たい感触。
それで、私は自分が床に倒れ込んでいることに気づいた。
「う・・・」
倒れ込んだまま、目を薄っすらと開く。
(ここは・・・)
領域の中じゃない。
ぼんやりとした意識で、目だけで辺りを見回す。
はっきりと見えないけれど、領域の外に出たらしい。
(奇子は・・・)
その時だった。
「おーい、生きてるー?」
と、頬をぺちぺちとはたかれた。
「・・・!」
私は驚いて勢いよく上半身を起こした。
「お、生きてた」
と笑う人物の顔に、私はまだぼやていける意識の中で焦点を合わせる。
「・・・・・・っ」
焦点が合うと、私は絶句した。
その人がかけているサングラスには、心底驚いている私の顔が映っている。
「ん?」
私があまりにも驚いているので、その人は訝し気に眉を顰めた。
「何?そんなビックリするほど俺っていい男?」
そう叩く軽口を、私は良く知っている。
この声も。
白い髪も。
サングラスの奥から時折のぞく碧い瞳も。
「・・・五条さん・・・」
今、私の傍にしゃがみ込むその人の名前を、信じられない思いで呟く。
そう、私の前には五条さんがいる。
帰って来てくれたんだ。
そう思って、私は頬を綻ばせる。
だけどそれは一瞬で、すぐに違和感に気づいた。