第27話 新世界
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夏油はゆらりとソファに座り込む。
そして、部屋を見回す。
「しかし、殺風景な部屋だね。観葉植物のひとつもない。意外だね、君という人がいながら」
新しい世界。
その話をしたいというのに、全く関係のない話題に、私は訝しんで眉を顰める。
「何か生き物を飼おうと考えたことはなかったの?そう、例えば熱帯魚とか」
「・・・・・・」
お構いなしにそんな話を暢気に続ける夏油に不愉快になって、私はキッと睨みつけた。
「熱帯魚といえば」
尚も夏油は続けた。
「知ってる?本来は南の暖かな海に生息していたが、黒潮や台風の影響で本来なら生息するはずのない海域に流されて、環境に適応出来ず、元の海にも戻れず、死んでいく魚達がいることを」
元の海。
その言葉が、この『渋谷事変』以前の日常を思い出させた。
「そのような魚を、死滅回游魚と呼ぶそうなんだ」
夏油は言った。
「そう聞くと、ただの無駄死にのように思えるよね。しかし、そうした魚の死骸からはプランクトンが発生し、海を豊かにし、新たな生命の礎となるそうだ。近年は温暖化の影響もあって、運良く環境に適応する魚もいるらしい」
「・・・・・・」
「決して、無駄な事だけではないらしい」
「・・・・・・」
「人間が、この死滅回游魚と同じ環境に置かれた時、どうなると思う?」
「・・・さっきから一体何が言いたいの」
私の言葉に、夏油はハッと笑った。
「質問しているのは私の方なんだけどね。まぁ、いいよ。教えてあげよう」
「・・・・・・」
「端的に答えると、人間を呪いという海流に放り込み篩に掛けて、進化を促す」
「・・・っ」
私は息を飲んだ。
「そうした進化の先に」
夏油は話を続けた。
「可能性と混沌が生まれ、さらにその先に、真の新しい世界が始まる」
「・・・自分がその世界の神にでもなるつもりなの」
皮肉を込めて吐き捨てるように私が言うと、夏油は不敵な笑みを浮かべた。
「とんでもない。私が望むのは、私の手から離れて生まれるものだよ」
「・・・・・・」
「そのための慣らしとして、私はちょっとした仕込みをしただけだ」
「・・・・・・」
「2種類の非術師を用意し、マーキングをしておいた」
そう言いながら、夏油は人差し指を突き立てた。
「ひとつは、呪物を取り込ませた者。君の身近な人間を例で挙げると、虎杖悠仁がそれだね」
「・・・!」
私は愕然として目を見開いた。
(悠仁君みたいに宿儺のような呪いを宿した人が、他にもいるってこと?)
「そしてもうひとつが」
次に中指を突き立てて、夏油は言った。
「術式を持ちながら、脳の構造が非術師の者」
「・・・・・・」
「前者には器としての強度を、後者には術式を発揮出来るよう脳の構造を変えた」
「・・・・・・」
「マーキングの際に、私の呪力に当てられて寝たきりになった者もいたが、じき目覚めるだろう」
マーキング。
呪力に当てられて。
寝たきり。
「・・・・・・」
ふと、昔の記憶が脳裏を横切る。
「その者達に、生き残りと進化を懸けて、殺し合いをしてもらう」
夏油の言葉に、我に返る。
「何・・・」
「名付けて、『死滅回游』だ」
ゾッとして、身体が震えた。
殺し合い。
その言葉の響きだけじゃない。
ここまで話を聞いても、夏油の真に目的とするものがわからない不気味さからだ。
「そ、そんなことで」
私は反抗するように言った。
「力を与えたからって、人が簡単に殺し合いなんかすると思うの!?」
「言っただろう。そこは仕込みをしていると」
夏油はせせら笑うように言った。
「彼らのことは『泳者 』と呼ぼう。その『泳者 』のうちには、紗樹という名だったっけ。君の妹もいる」
その言葉に、
「え・・・」
虚を突かれて、私は言葉を失った。
そして、部屋を見回す。
「しかし、殺風景な部屋だね。観葉植物のひとつもない。意外だね、君という人がいながら」
新しい世界。
その話をしたいというのに、全く関係のない話題に、私は訝しんで眉を顰める。
「何か生き物を飼おうと考えたことはなかったの?そう、例えば熱帯魚とか」
「・・・・・・」
お構いなしにそんな話を暢気に続ける夏油に不愉快になって、私はキッと睨みつけた。
「熱帯魚といえば」
尚も夏油は続けた。
「知ってる?本来は南の暖かな海に生息していたが、黒潮や台風の影響で本来なら生息するはずのない海域に流されて、環境に適応出来ず、元の海にも戻れず、死んでいく魚達がいることを」
元の海。
その言葉が、この『渋谷事変』以前の日常を思い出させた。
「そのような魚を、死滅回游魚と呼ぶそうなんだ」
夏油は言った。
「そう聞くと、ただの無駄死にのように思えるよね。しかし、そうした魚の死骸からはプランクトンが発生し、海を豊かにし、新たな生命の礎となるそうだ。近年は温暖化の影響もあって、運良く環境に適応する魚もいるらしい」
「・・・・・・」
「決して、無駄な事だけではないらしい」
「・・・・・・」
「人間が、この死滅回游魚と同じ環境に置かれた時、どうなると思う?」
「・・・さっきから一体何が言いたいの」
私の言葉に、夏油はハッと笑った。
「質問しているのは私の方なんだけどね。まぁ、いいよ。教えてあげよう」
「・・・・・・」
「端的に答えると、人間を呪いという海流に放り込み篩に掛けて、進化を促す」
「・・・っ」
私は息を飲んだ。
「そうした進化の先に」
夏油は話を続けた。
「可能性と混沌が生まれ、さらにその先に、真の新しい世界が始まる」
「・・・自分がその世界の神にでもなるつもりなの」
皮肉を込めて吐き捨てるように私が言うと、夏油は不敵な笑みを浮かべた。
「とんでもない。私が望むのは、私の手から離れて生まれるものだよ」
「・・・・・・」
「そのための慣らしとして、私はちょっとした仕込みをしただけだ」
「・・・・・・」
「2種類の非術師を用意し、マーキングをしておいた」
そう言いながら、夏油は人差し指を突き立てた。
「ひとつは、呪物を取り込ませた者。君の身近な人間を例で挙げると、虎杖悠仁がそれだね」
「・・・!」
私は愕然として目を見開いた。
(悠仁君みたいに宿儺のような呪いを宿した人が、他にもいるってこと?)
「そしてもうひとつが」
次に中指を突き立てて、夏油は言った。
「術式を持ちながら、脳の構造が非術師の者」
「・・・・・・」
「前者には器としての強度を、後者には術式を発揮出来るよう脳の構造を変えた」
「・・・・・・」
「マーキングの際に、私の呪力に当てられて寝たきりになった者もいたが、じき目覚めるだろう」
マーキング。
呪力に当てられて。
寝たきり。
「・・・・・・」
ふと、昔の記憶が脳裏を横切る。
「その者達に、生き残りと進化を懸けて、殺し合いをしてもらう」
夏油の言葉に、我に返る。
「何・・・」
「名付けて、『死滅回游』だ」
ゾッとして、身体が震えた。
殺し合い。
その言葉の響きだけじゃない。
ここまで話を聞いても、夏油の真に目的とするものがわからない不気味さからだ。
「そ、そんなことで」
私は反抗するように言った。
「力を与えたからって、人が簡単に殺し合いなんかすると思うの!?」
「言っただろう。そこは仕込みをしていると」
夏油はせせら笑うように言った。
「彼らのことは『
その言葉に、
「え・・・」
虚を突かれて、私は言葉を失った。