第25話 渋谷事変ー壱ー
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思い出した。
八月に現地実習で陵先生の実家である和菓子店に行った時に会った(第14話)、陵先生の血の繋がらない弟。
「お、お久しぶりです」
「思い出してくれた?」
「はい。でも、どうして東京に・・・」
「それがなぁ」
と、祐平さんが口を開いた時だった。
「ご無沙汰してます」
祐平さんの隣にいた女性が、ひょっこりと顔を出して言った。
「あ・・・」
その女性のことはすぐに思い出せた。
彫りの深い顔立ちがよく似ている。
陵先生のお母さんだ。
「その節は、息子たちが大変お世話になりました」
と、陵先生のお母さんは深々と私に頭を下げた。
私は恐縮してあたふたする。
「そんな、頭を上げてください」
「いいえ。貴女にはもう一度きちんとお礼を言いたかったの。息子たちを危険から救ってくれた恩人だもの」
「恩人だなんて、そんな大袈裟ですよ」
私がそう言うと、ようやく陵先生のお母さんはゆっくりと顔を上げた。
よくよく見てみると、彼女は右腕を三角巾で吊っている。
私は目を瞬かせながら尋ねた。
「その腕は・・・」
「一週間ほど前やったかなぁ、母ちゃん、工房ですっ転んで腕の骨やってもうてん」
そう答えるのは祐平さんだ。
「利き腕やから仕事出来んくなってさぁ。でも母ちゃん、父ちゃんとこ嫁いで来て以来ずっと働き詰めやったから、これを機会にしばらく休めって父ちゃんに言われて。で、せっかくやから慶太兄ちゃん訪ねる傍ら、東京観光しよっかって」
「はぁ」
「で、俺は母ちゃんの付き添いってワケ」
「・・・・・・」
祐平さん、大学は?と思いながらも、私は陵先生のお母さんに尋ねた。
「陵先生のところへはもう訪ねられたんですか?」
「いえ、まだなんです。さっき東京に到着したばかりで」
「じゃあ、お店に行きますか?」
「ええ、そのつもりで来たんです」
「それじゃあお店までご案内しますね」
それから、私はチラシ配りをモイちゃんと大野君に任せて、祐平さんたちを『ル・シュクレール』へ案内することにした。
「陵先生」
バックヤードへ入ると、丁度作業が落ちついたタイミングだったらしく、陵先生が休憩していた。
呼び出して勝手口から店の裏側へ連れ出して、
「母さん、祐平!」
そこで待っていたお母さんと祐平さんと引き合わせた。
上京はサプライズだったようで、陵先生は心底驚いた顔をしていて、お母さんと祐平さんはイタズラな笑顔を浮かべている。
「来るなら知らせてくれたらいいのに」
「へへ~っ。サプライズ成功!」
と言いながら、祐平さんは親し気に陵先生の肩に右手を回した。
「それにしても、慶太兄ちゃん洒落た店で働いてんねんなぁ。それにずいぶん垢抜けたなぁ。まるでカリスマパティシエみたいやな!」
「茶化すなよ」
「茶化してへんて!」
連れ子同士の、血の繋がらない兄弟。
だけど、陵先生と祐平さんはとても仲良しだ。
ふたりがじゃれつく様子を微笑ましく見ていたら、ふと祐平さんが私の方を振り向いた。
「それにしても、慶太兄ちゃんも抜け目ないなぁ」
「え?」
「和紗ちゃんのこと、ちゃっかりバイトで雇ってるんやもん」
その言葉に、陵先生だけでなく私も目を瞬かせる。
そんな私達を前に、祐平さんはニンマリと笑いながら言った。
「慶太兄ちゃん、和紗ちゃんのこと狙うとるやろ?」
そう言われて、
「「え?」」
私と陵先生は間抜け声を出した。
そして、陵先生のお母さんはというと。
「あらあら、慶太ったらそうなの?」
「いや、母さん・・・」
「俺は大歓迎やでー!和紗ちゃんが俺の義姉さんになんの!」
「祐平」
陵先生が嗜めるのも聞かず、祐平さんは勝手に盛り上がっている。
そして祐平さんだけでなく、陵先生のお母さんまで何やら色めきたって、
「慶太はおとなしくて男としては少し頼りないけれど、優しさと誠実さだけは誰にも負けないコなんです。私達も、和紗さんさえ良ければいつでも・・・」
と私に向かって語り出した。
それに対して私は苦笑いしつつ、
「いえ、祐平さんの勘違い・・・」
やんわりと否定しようとした時だった。
八月に現地実習で陵先生の実家である和菓子店に行った時に会った(第14話)、陵先生の血の繋がらない弟。
「お、お久しぶりです」
「思い出してくれた?」
「はい。でも、どうして東京に・・・」
「それがなぁ」
と、祐平さんが口を開いた時だった。
「ご無沙汰してます」
祐平さんの隣にいた女性が、ひょっこりと顔を出して言った。
「あ・・・」
その女性のことはすぐに思い出せた。
彫りの深い顔立ちがよく似ている。
陵先生のお母さんだ。
「その節は、息子たちが大変お世話になりました」
と、陵先生のお母さんは深々と私に頭を下げた。
私は恐縮してあたふたする。
「そんな、頭を上げてください」
「いいえ。貴女にはもう一度きちんとお礼を言いたかったの。息子たちを危険から救ってくれた恩人だもの」
「恩人だなんて、そんな大袈裟ですよ」
私がそう言うと、ようやく陵先生のお母さんはゆっくりと顔を上げた。
よくよく見てみると、彼女は右腕を三角巾で吊っている。
私は目を瞬かせながら尋ねた。
「その腕は・・・」
「一週間ほど前やったかなぁ、母ちゃん、工房ですっ転んで腕の骨やってもうてん」
そう答えるのは祐平さんだ。
「利き腕やから仕事出来んくなってさぁ。でも母ちゃん、父ちゃんとこ嫁いで来て以来ずっと働き詰めやったから、これを機会にしばらく休めって父ちゃんに言われて。で、せっかくやから慶太兄ちゃん訪ねる傍ら、東京観光しよっかって」
「はぁ」
「で、俺は母ちゃんの付き添いってワケ」
「・・・・・・」
祐平さん、大学は?と思いながらも、私は陵先生のお母さんに尋ねた。
「陵先生のところへはもう訪ねられたんですか?」
「いえ、まだなんです。さっき東京に到着したばかりで」
「じゃあ、お店に行きますか?」
「ええ、そのつもりで来たんです」
「それじゃあお店までご案内しますね」
それから、私はチラシ配りをモイちゃんと大野君に任せて、祐平さんたちを『ル・シュクレール』へ案内することにした。
「陵先生」
バックヤードへ入ると、丁度作業が落ちついたタイミングだったらしく、陵先生が休憩していた。
呼び出して勝手口から店の裏側へ連れ出して、
「母さん、祐平!」
そこで待っていたお母さんと祐平さんと引き合わせた。
上京はサプライズだったようで、陵先生は心底驚いた顔をしていて、お母さんと祐平さんはイタズラな笑顔を浮かべている。
「来るなら知らせてくれたらいいのに」
「へへ~っ。サプライズ成功!」
と言いながら、祐平さんは親し気に陵先生の肩に右手を回した。
「それにしても、慶太兄ちゃん洒落た店で働いてんねんなぁ。それにずいぶん垢抜けたなぁ。まるでカリスマパティシエみたいやな!」
「茶化すなよ」
「茶化してへんて!」
連れ子同士の、血の繋がらない兄弟。
だけど、陵先生と祐平さんはとても仲良しだ。
ふたりがじゃれつく様子を微笑ましく見ていたら、ふと祐平さんが私の方を振り向いた。
「それにしても、慶太兄ちゃんも抜け目ないなぁ」
「え?」
「和紗ちゃんのこと、ちゃっかりバイトで雇ってるんやもん」
その言葉に、陵先生だけでなく私も目を瞬かせる。
そんな私達を前に、祐平さんはニンマリと笑いながら言った。
「慶太兄ちゃん、和紗ちゃんのこと狙うとるやろ?」
そう言われて、
「「え?」」
私と陵先生は間抜け声を出した。
そして、陵先生のお母さんはというと。
「あらあら、慶太ったらそうなの?」
「いや、母さん・・・」
「俺は大歓迎やでー!和紗ちゃんが俺の義姉さんになんの!」
「祐平」
陵先生が嗜めるのも聞かず、祐平さんは勝手に盛り上がっている。
そして祐平さんだけでなく、陵先生のお母さんまで何やら色めきたって、
「慶太はおとなしくて男としては少し頼りないけれど、優しさと誠実さだけは誰にも負けないコなんです。私達も、和紗さんさえ良ければいつでも・・・」
と私に向かって語り出した。
それに対して私は苦笑いしつつ、
「いえ、祐平さんの勘違い・・・」
やんわりと否定しようとした時だった。