第20話 わたしは呪い
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この村に住む人間は誰も知らない。
この村の平穏が、多くのものを犠牲にして成り立って来たことを。
「はーい、花ちゃーん。モグモグ上手だね~」
母親が柔らかく炊いたお粥を小さな匙で掬い、赤ん坊に与えている。
赤ん坊は口周りや胸元をビチャビチャにしながら、運ばれる匙に勢いよくかぶりついて食べている。
私はその様子を傍で見つめる。
だけど母親も赤ん坊も、『呪い』が見えないので私に気づくこともない。
そう、この村の人間は知らない。
この糠田が森の土地が呪われていることを。
この私の存在を。
(でも、あの子は私に気づいてた。知っていた)
和紗っていったっけ。
あの子の『魂の皺』を読んだ。
『魂の皺』は、その個体が持ちうるあらゆる情報が刻まれている。名前、出身地、血液型、誕生日、家族構成。それに、過去や願望にまつわる記憶も。
相手が呪術師なら、その固有の術式のこともわかる。
だから、私は和紗の全てを知っている。
和紗は、私を封じ込めるための方法を得ようとしている。
『あけづる』こと『明埜乃舞降鶴乃御砡 』という名の呪玉を造り出すことが、その方法らしい。
(・・・この村の人間を全員呪い殺すことは簡単だけど)
それで、和紗に『あけづる』を造ることを諦めさせることにはならない。
(やっぱり、和紗が『あけづる』を造れるようになる前に殺さなくちゃ)
だって、私はもう二度と土の中に戻りたくない。
土の中は暗くて、冷たくて、寂しい。
(和紗と友達になりたかったけど・・・仕方ないか。そうと決まれば、東京へ行かなくちゃ!)
私はひとり決心してうんうんと頷いた。
(それに、糠子なんてダッサイ名前つけようとしたこと、謝らせなきゃ)
だから、それまではーーーー。
「はーい、お皿空っぽ~。すごいねぇ、花ちゃん!」
と、嬉しそうに我が子を見つめる母親に私は視線を向ける。
そして、
「和紗を殺すまでは、あなたたちのことは見逃しててあげる」
と、言った。
もちろん、母親も赤ん坊も私の声が聞こえないのだけれど。
・・・そうして、私は糠田が森をあとにして東京に向かった。
東京には、糠田が森とは比べ物にならないくらいの『呪い』がいた。
だけど、私みたいな姿をしたものや言葉を理解する『呪い』に出会うことがない。
『呪い』は醜く知能が低いんだってことを、東京にやって来て私は初めて知った。
(なんかガッカリ)
『呪い』はもっと美しく賢く人間よりも気高い存在だと思っていたのに。
同じ『呪い』とはいえ、そんな連中とは仲間になろうとは思わなかった。
(エ~ン。なんか寂しいよーぉ)
私は数日間、東京の喧騒をひとり彷徨い歩いた。
そんなある日、私は彼に出会った。
その日。
私は都心を離れて、郊外にある団地群を歩いていた。
目的は、部屋探し。
基本人間に見られることはない『呪い』とはいえ、ひとりゆっくり出来る巣となるような場所が欲しかったからだ。
何故わざわざ郊外なのかというと、都心では他の『呪い』たちが可愛い私とお近づきになろうとつき纏ってくるのがうっとおしいからだ。
それに、数は多くないとはいえ、『呪い』の天敵である『呪術師』と遭遇する危険性があったからだ。
(あの伏黒君みたいに・・・)
例え、祓われてもまた次の私が生まれるとはいえ、その度にいちいち糠田が森 に戻るのは面倒くさい。
天敵の目を避けるための拠点探しでもあった。
辿り着いた団地群は老朽化しており、ボロボロで空き部屋も多く、お誂え向きの物件だった。
「フンフフ~ン♪」
鼻歌を歌いながら、良さそうな部屋を探す。
そんな時だった。
「オメエ、何黙ってオレのカップラーメン食ってんだよ!!」
と、野太い男の怒号と何かを叩くような激しい音が聞こえてきた。
「ん~?」
せっかく気分よく物件探ししていたのに。
興をそがれて、私はムッとしながらその声と物音がする部屋を覗き込んだ。
この村の平穏が、多くのものを犠牲にして成り立って来たことを。
「はーい、花ちゃーん。モグモグ上手だね~」
母親が柔らかく炊いたお粥を小さな匙で掬い、赤ん坊に与えている。
赤ん坊は口周りや胸元をビチャビチャにしながら、運ばれる匙に勢いよくかぶりついて食べている。
私はその様子を傍で見つめる。
だけど母親も赤ん坊も、『呪い』が見えないので私に気づくこともない。
そう、この村の人間は知らない。
この糠田が森の土地が呪われていることを。
この私の存在を。
(でも、あの子は私に気づいてた。知っていた)
和紗っていったっけ。
あの子の『魂の皺』を読んだ。
『魂の皺』は、その個体が持ちうるあらゆる情報が刻まれている。名前、出身地、血液型、誕生日、家族構成。それに、過去や願望にまつわる記憶も。
相手が呪術師なら、その固有の術式のこともわかる。
だから、私は和紗の全てを知っている。
和紗は、私を封じ込めるための方法を得ようとしている。
『あけづる』こと『
(・・・この村の人間を全員呪い殺すことは簡単だけど)
それで、和紗に『あけづる』を造ることを諦めさせることにはならない。
(やっぱり、和紗が『あけづる』を造れるようになる前に殺さなくちゃ)
だって、私はもう二度と土の中に戻りたくない。
土の中は暗くて、冷たくて、寂しい。
(和紗と友達になりたかったけど・・・仕方ないか。そうと決まれば、東京へ行かなくちゃ!)
私はひとり決心してうんうんと頷いた。
(それに、糠子なんてダッサイ名前つけようとしたこと、謝らせなきゃ)
だから、それまではーーーー。
「はーい、お皿空っぽ~。すごいねぇ、花ちゃん!」
と、嬉しそうに我が子を見つめる母親に私は視線を向ける。
そして、
「和紗を殺すまでは、あなたたちのことは見逃しててあげる」
と、言った。
もちろん、母親も赤ん坊も私の声が聞こえないのだけれど。
・・・そうして、私は糠田が森をあとにして東京に向かった。
東京には、糠田が森とは比べ物にならないくらいの『呪い』がいた。
だけど、私みたいな姿をしたものや言葉を理解する『呪い』に出会うことがない。
『呪い』は醜く知能が低いんだってことを、東京にやって来て私は初めて知った。
(なんかガッカリ)
『呪い』はもっと美しく賢く人間よりも気高い存在だと思っていたのに。
同じ『呪い』とはいえ、そんな連中とは仲間になろうとは思わなかった。
(エ~ン。なんか寂しいよーぉ)
私は数日間、東京の喧騒をひとり彷徨い歩いた。
そんなある日、私は彼に出会った。
その日。
私は都心を離れて、郊外にある団地群を歩いていた。
目的は、部屋探し。
基本人間に見られることはない『呪い』とはいえ、ひとりゆっくり出来る巣となるような場所が欲しかったからだ。
何故わざわざ郊外なのかというと、都心では他の『呪い』たちが可愛い私とお近づきになろうとつき纏ってくるのがうっとおしいからだ。
それに、数は多くないとはいえ、『呪い』の天敵である『呪術師』と遭遇する危険性があったからだ。
(あの伏黒君みたいに・・・)
例え、祓われてもまた次の私が生まれるとはいえ、その度にいちいち
天敵の目を避けるための拠点探しでもあった。
辿り着いた団地群は老朽化しており、ボロボロで空き部屋も多く、お誂え向きの物件だった。
「フンフフ~ン♪」
鼻歌を歌いながら、良さそうな部屋を探す。
そんな時だった。
「オメエ、何黙ってオレのカップラーメン食ってんだよ!!」
と、野太い男の怒号と何かを叩くような激しい音が聞こえてきた。
「ん~?」
せっかく気分よく物件探ししていたのに。
興をそがれて、私はムッとしながらその声と物音がする部屋を覗き込んだ。