第19話 まぼろしの家族
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「突然昏睡状態に陥る・・・和紗が受けた同様の呪いは、全国各地で被呪者が確認されている。そして・・・」
「伏黒君のお姉さんも、同じ呪いを受けてるんですよね」
五条さんの言葉を受けて、私は言った。
すると、五条さんは驚いた表情をした。
「知ってたの」
「伏黒君が話してくれました」
すると、五条さんはますます驚いた顔をした。
「へぇ。珍しいな、恵が自分の身内の話を他人にするなんて」
「・・・・・・」
「まぁ、うん、その通りで、津美紀も同じ呪いを受けて未だに昏睡状態だ。勿論、他の被呪者たちもね。だから、この出自も原因も不明な訳わからん呪いを解くカギは、和紗が握ってるんだよね」
「え・・・」
「昏睡状態になる前、接触した人物とか物体とか、何か覚えてない?」
「・・・・・・」
問われて、私は記憶を巡らさせた。
そして、
『気になる?この傷が』
あの人を思い出した。
「・・・額に傷が」
「え?」
「額に傷がある人と話をしました。こう・・・手術痕みたいに額を横に通る傷跡がある人と・・・」
「・・・・・・」
「でも、その人が男だったのか女だったのかも、若かったのか年だったのかも、思い出せなくて・・・」
すると、五条さんは少し落胆の色を見せた。
「・・・ごめんなさい」
「いや、大丈夫。和紗が謝ることじゃないよ」
そう言うと、五条さんは反芻するように呟いた。
「額に傷か・・・」
「・・・心当たりあるんですか?」
「いや、全然。でも、そんな特徴があるなら今後遭遇した時、わかりやすいなって思って」
「・・・その人が犯人なんでしょうか」
「さあねぇ。和紗の話を疑う訳じゃないけど、なんせ昔の記憶だし曖昧過ぎる」
「・・・・・・」
「でも、これは確実なことだよ」
「え?」
「和紗のお母さんが呪われたのは、和紗のせいじゃない」
私はハッと息を飲んだ。
「和紗のお母さんは、自分の意志で呪いを受けたんだ」
「・・・でも、お母さんは『縛り』のことなんか」
「うん、知らなかっただろうね。それでも、自分を身代わりにしてでも和紗のことを救いたい、その一心で百度参りをしていたはずさ」
「・・・・・・」
「自分で被った呪いは、いかなる方法でも解呪出来ない。『あけづる』でもね」
「・・・でも、お父さんは」
「そもそも高専の力を総動員しても、津美紀の呪いを解けていない。例え『縛り』が無くても、『あけづる』でどうこうできるものじゃなかったんだよ」
「・・・・・・」
「だから、もう和紗は自分の事を責めなくてもいい」
そう言われて、私は泣きそうな目で五条さんの顔を見た。
すると、五条さんは困ったように首を傾げた。
「そんな顔しないでよ。心配で出張行けなくなっちゃうよ~」
「出張?」
「うん、北海道にね。七海と一緒に」
「七海さんと?珍しいですね」
このふたりがそろってなんて、大変な案件なんだろうか。
そんなことを考えたら心配になってきた。
すると、五条さんはそれを察したのか気楽な様で言った。
「任務は大したことないんだけどね。七海とゆっくり話したいと思って」
「北海道旅行で親睦でも深めるんですか?」
「アイツが嫌がらなきゃね~って、それはさておき、悠仁を一度僕以外の人間に預けてみたくて頼もうと思うんだ。七海が最適だと思ってね」
「・・・・・・」
五条さんの言葉を聞いて、私の脳裏に四角四面な七海さんの言動が思い浮かんだ。
「(いい加減な)五条さんばかりに教わってるから、(生真面目な)七海さんにも教わったらちょうどいい塩梅ですね」
「どういう意味、それ?」
そう言いながら五条さんはカフェオレを飲み干すと、よっこらせと立ち上がった。
「ま、そんなワケで行ってまいります」
「気をつけて行ってくださいね」
そして、五条さんを玄関で見送る。
「お土産何が良い?」
尋ねられて、私は即答する。
「六花亭のレーズンサンドで!」
「はいはい、了解」
すると、五条さんは腰を屈めて唇を突き出した。
「んっ」
「ん?」
「いってらっしゃいのチューは?」
「・・・さっさといってらっしゃい。七海さん、きっともう空港で待ってますよ」
「ちぇっ。つれないの」
こうして五条さんは出張に向かった。
ひとりになった私は、『あけづる』を創る修業を再開した。
「さて、と・・・」
『反転術式』を練るべく、集中するために瞳を閉じる。
私の胸に空いた心の穴は、未だにぽっかりと開いたままだ。
だけど、ずっとかけられていた呪いがようやく解けたのだ。
望んでも望んでも、手に入らなかった家族の風景。
それに執着して自分でかけた呪いを解き放つことが出来たんだ。
私の心に棲むまぼろしの家族は、もういない。
つづく
「伏黒君のお姉さんも、同じ呪いを受けてるんですよね」
五条さんの言葉を受けて、私は言った。
すると、五条さんは驚いた表情をした。
「知ってたの」
「伏黒君が話してくれました」
すると、五条さんはますます驚いた顔をした。
「へぇ。珍しいな、恵が自分の身内の話を他人にするなんて」
「・・・・・・」
「まぁ、うん、その通りで、津美紀も同じ呪いを受けて未だに昏睡状態だ。勿論、他の被呪者たちもね。だから、この出自も原因も不明な訳わからん呪いを解くカギは、和紗が握ってるんだよね」
「え・・・」
「昏睡状態になる前、接触した人物とか物体とか、何か覚えてない?」
「・・・・・・」
問われて、私は記憶を巡らさせた。
そして、
『気になる?この傷が』
あの人を思い出した。
「・・・額に傷が」
「え?」
「額に傷がある人と話をしました。こう・・・手術痕みたいに額を横に通る傷跡がある人と・・・」
「・・・・・・」
「でも、その人が男だったのか女だったのかも、若かったのか年だったのかも、思い出せなくて・・・」
すると、五条さんは少し落胆の色を見せた。
「・・・ごめんなさい」
「いや、大丈夫。和紗が謝ることじゃないよ」
そう言うと、五条さんは反芻するように呟いた。
「額に傷か・・・」
「・・・心当たりあるんですか?」
「いや、全然。でも、そんな特徴があるなら今後遭遇した時、わかりやすいなって思って」
「・・・その人が犯人なんでしょうか」
「さあねぇ。和紗の話を疑う訳じゃないけど、なんせ昔の記憶だし曖昧過ぎる」
「・・・・・・」
「でも、これは確実なことだよ」
「え?」
「和紗のお母さんが呪われたのは、和紗のせいじゃない」
私はハッと息を飲んだ。
「和紗のお母さんは、自分の意志で呪いを受けたんだ」
「・・・でも、お母さんは『縛り』のことなんか」
「うん、知らなかっただろうね。それでも、自分を身代わりにしてでも和紗のことを救いたい、その一心で百度参りをしていたはずさ」
「・・・・・・」
「自分で被った呪いは、いかなる方法でも解呪出来ない。『あけづる』でもね」
「・・・でも、お父さんは」
「そもそも高専の力を総動員しても、津美紀の呪いを解けていない。例え『縛り』が無くても、『あけづる』でどうこうできるものじゃなかったんだよ」
「・・・・・・」
「だから、もう和紗は自分の事を責めなくてもいい」
そう言われて、私は泣きそうな目で五条さんの顔を見た。
すると、五条さんは困ったように首を傾げた。
「そんな顔しないでよ。心配で出張行けなくなっちゃうよ~」
「出張?」
「うん、北海道にね。七海と一緒に」
「七海さんと?珍しいですね」
このふたりがそろってなんて、大変な案件なんだろうか。
そんなことを考えたら心配になってきた。
すると、五条さんはそれを察したのか気楽な様で言った。
「任務は大したことないんだけどね。七海とゆっくり話したいと思って」
「北海道旅行で親睦でも深めるんですか?」
「アイツが嫌がらなきゃね~って、それはさておき、悠仁を一度僕以外の人間に預けてみたくて頼もうと思うんだ。七海が最適だと思ってね」
「・・・・・・」
五条さんの言葉を聞いて、私の脳裏に四角四面な七海さんの言動が思い浮かんだ。
「(いい加減な)五条さんばかりに教わってるから、(生真面目な)七海さんにも教わったらちょうどいい塩梅ですね」
「どういう意味、それ?」
そう言いながら五条さんはカフェオレを飲み干すと、よっこらせと立ち上がった。
「ま、そんなワケで行ってまいります」
「気をつけて行ってくださいね」
そして、五条さんを玄関で見送る。
「お土産何が良い?」
尋ねられて、私は即答する。
「六花亭のレーズンサンドで!」
「はいはい、了解」
すると、五条さんは腰を屈めて唇を突き出した。
「んっ」
「ん?」
「いってらっしゃいのチューは?」
「・・・さっさといってらっしゃい。七海さん、きっともう空港で待ってますよ」
「ちぇっ。つれないの」
こうして五条さんは出張に向かった。
ひとりになった私は、『あけづる』を創る修業を再開した。
「さて、と・・・」
『反転術式』を練るべく、集中するために瞳を閉じる。
私の胸に空いた心の穴は、未だにぽっかりと開いたままだ。
だけど、ずっとかけられていた呪いがようやく解けたのだ。
望んでも望んでも、手に入らなかった家族の風景。
それに執着して自分でかけた呪いを解き放つことが出来たんだ。
私の心に棲むまぼろしの家族は、もういない。
つづく
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