第19話 まぼろしの家族
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シャワーを終えて備え付けのパジャマに着替えてバスルームを出ると、五条さんはルームサービスで頼んだサンドイッチを頬張っていた。
私に気づくと、
「和紗も食う?」
と、そのサンドイッチを差し出す。
「・・・いいです」
私は言った。
「ごめんなさい。何だか疲れちゃったから先に休んでいいですか?」
「あ、うん」
「ベッド、五条さんが使ってください。私、こっちのカウチで寝ますので」
「え?一緒にベッドで寝ないの?」
「・・・叫んで人呼んでいいですか?」
「ウソウソ。冗談。僕がカウチで寝るから、ベッドは和紗が使ってよ」
「いえ、大丈夫です。五条さん、おっきいんだからカウチじゃ狭いでしょ。ベッド使ってください」
「別にいいって」
「いいんです。じゃ、おやすみなさい」
と、私はそそくさとカウチに向かう。
しかし、五条さんは私の腕を引いてそれを妨げた。そして、
「遠慮しないの。ベッドで休みなって」
と、ベッドの方へ引っ張っていこうとする。
「だ、だからいいですってば!」
私はその手を振り払って拒もうとするけれど、
「はいはい。じゃあ抱えてつれてってあげましょうね~」
と、五条さんはヒョイっと私を抱き上げてベッドへ向かう。
「ちょっ・・・」
私は両足をバタつかせて暴れる。
「何するんですか~!離して・・・!」
「こらこら、暴れない」
「いやーっ!降ろしてーっ!」
「あ、コラっ。マジで危な・・・っ」
と、五条さんは足元をふらつかせてバランスを崩してしまった。そして、
「きゃっ」
ふたりしてベッドの上に倒れ込んでしまった。
仰向けになる私の上に、五条さんが覆いかぶさるような格好になる。
「・・・・・・」
「ってて・・・」
五条さんは両手をついて上半身を起こした。
「ったく、暴るなっていったでしょ・・・」
と、私の顔を見降ろすとハッと言葉を飲み込んだ。
「・・・・・・」
私の目からボロボロと涙が零れる。
泣くつもりなんてないのに。
「・・・・・・」
五条さんはしばし私の表情を見下ろした後、
「そうだよな。スッキリなんてする訳ないよな」
と、呟いた。
「・・・・・・・・っ」
私は両手で涙を拭おうとするけれど、涙は留まりそうにない。
「・・・私」
涙を止められなくて。思いも止められなくて。私は言った。
「私、いつかお父さんが糠田が森に帰って来て、一緒に『つるぎ庵』をやって、お父さんから『あけづる』を手ほどきされることを夢に見ていた」
「・・・・・・」
「叶わないって思っていても、本当は、心の奥でずっとずっと・・・」
「・・・・・・」
「でも、本当にそれは叶わないんだって今日わかった・・・」
「・・・・・・」
「そんなこと夢見てたのは私だけで、お父さんはそんなこと一度も考えもしてなかった」
「・・・・・・」
「お父さんは、もう私のお父さんじゃなかったから・・・」
『一緒にクッキー作って?』
あの子が私を傷つけるために言った訳があるはずもない。
だけど、その言葉はどんな残酷なものよりも私の心を深く抉って疵をつけた。
私はお父さんと一緒に何かを作ったことがない。
なのに、あの子はどうして?
(ああ、そっか)
お父さんは私が憎いんだ。
私が呪われたせいで、お母さんも呪われたから。
そして、ふと理解した。
反転術式が出来なくなってしまった原因が。
私の心に空いた埋められない穴。
それは、悲しみや寂しさや憎しみなんかじゃなくて、ずっとお父さんをただただ恋しい気持ちだったからだ。
「もう・・・出来ない・・・」
私は両手で顔を覆った。
「私は、もう、『あけづる』を創れない・・・」
固く食いしばった唇から、嗚咽が漏れて零れ落ちる。肩が震える。
「うっ・・・ううっ・・・」
その時だった。
「・・・和紗」
五条さんが私を抱きしめた。
「・・・・・・!」
私はバッと両手を伸ばし五条さんを突き飛ばして、それを拒否した。
「・・・やめて」
私は言った。
「優しくしないで・・・。これ以上、私の心に入ってこないで・・・!」
私に気づくと、
「和紗も食う?」
と、そのサンドイッチを差し出す。
「・・・いいです」
私は言った。
「ごめんなさい。何だか疲れちゃったから先に休んでいいですか?」
「あ、うん」
「ベッド、五条さんが使ってください。私、こっちのカウチで寝ますので」
「え?一緒にベッドで寝ないの?」
「・・・叫んで人呼んでいいですか?」
「ウソウソ。冗談。僕がカウチで寝るから、ベッドは和紗が使ってよ」
「いえ、大丈夫です。五条さん、おっきいんだからカウチじゃ狭いでしょ。ベッド使ってください」
「別にいいって」
「いいんです。じゃ、おやすみなさい」
と、私はそそくさとカウチに向かう。
しかし、五条さんは私の腕を引いてそれを妨げた。そして、
「遠慮しないの。ベッドで休みなって」
と、ベッドの方へ引っ張っていこうとする。
「だ、だからいいですってば!」
私はその手を振り払って拒もうとするけれど、
「はいはい。じゃあ抱えてつれてってあげましょうね~」
と、五条さんはヒョイっと私を抱き上げてベッドへ向かう。
「ちょっ・・・」
私は両足をバタつかせて暴れる。
「何するんですか~!離して・・・!」
「こらこら、暴れない」
「いやーっ!降ろしてーっ!」
「あ、コラっ。マジで危な・・・っ」
と、五条さんは足元をふらつかせてバランスを崩してしまった。そして、
「きゃっ」
ふたりしてベッドの上に倒れ込んでしまった。
仰向けになる私の上に、五条さんが覆いかぶさるような格好になる。
「・・・・・・」
「ってて・・・」
五条さんは両手をついて上半身を起こした。
「ったく、暴るなっていったでしょ・・・」
と、私の顔を見降ろすとハッと言葉を飲み込んだ。
「・・・・・・」
私の目からボロボロと涙が零れる。
泣くつもりなんてないのに。
「・・・・・・」
五条さんはしばし私の表情を見下ろした後、
「そうだよな。スッキリなんてする訳ないよな」
と、呟いた。
「・・・・・・・・っ」
私は両手で涙を拭おうとするけれど、涙は留まりそうにない。
「・・・私」
涙を止められなくて。思いも止められなくて。私は言った。
「私、いつかお父さんが糠田が森に帰って来て、一緒に『つるぎ庵』をやって、お父さんから『あけづる』を手ほどきされることを夢に見ていた」
「・・・・・・」
「叶わないって思っていても、本当は、心の奥でずっとずっと・・・」
「・・・・・・」
「でも、本当にそれは叶わないんだって今日わかった・・・」
「・・・・・・」
「そんなこと夢見てたのは私だけで、お父さんはそんなこと一度も考えもしてなかった」
「・・・・・・」
「お父さんは、もう私のお父さんじゃなかったから・・・」
『一緒にクッキー作って?』
あの子が私を傷つけるために言った訳があるはずもない。
だけど、その言葉はどんな残酷なものよりも私の心を深く抉って疵をつけた。
私はお父さんと一緒に何かを作ったことがない。
なのに、あの子はどうして?
(ああ、そっか)
お父さんは私が憎いんだ。
私が呪われたせいで、お母さんも呪われたから。
そして、ふと理解した。
反転術式が出来なくなってしまった原因が。
私の心に空いた埋められない穴。
それは、悲しみや寂しさや憎しみなんかじゃなくて、ずっとお父さんをただただ恋しい気持ちだったからだ。
「もう・・・出来ない・・・」
私は両手で顔を覆った。
「私は、もう、『あけづる』を創れない・・・」
固く食いしばった唇から、嗚咽が漏れて零れ落ちる。肩が震える。
「うっ・・・ううっ・・・」
その時だった。
「・・・和紗」
五条さんが私を抱きしめた。
「・・・・・・!」
私はバッと両手を伸ばし五条さんを突き飛ばして、それを拒否した。
「・・・やめて」
私は言った。
「優しくしないで・・・。これ以上、私の心に入ってこないで・・・!」