第19話 まぼろしの家族
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「しまった!」
新幹線のホームへ向かう途中ではたと気づいた。
思わず声を上げた私を五条さんは振り返る。
「どしたの?」
「お土産の袋、一個足りません」
「え、マジで」
最初に立ち寄った中華街でいきなり持ち歩けないほどお土産(自分用も含む)を買ってしまい、コインロッカーに預けていたのだが、今になってひとつ足りないことに気づいたのだ。
「取りに行ってきます。これお願いします」
と、私は他の土産の袋を五条さんに託しつつ言った。
「五条さん、先に行っててください」
「諦めたら?新幹線間に合わないかもよ」
「ダメです!ずっと食べてみたかったお店のお菓子なんです!しかも店舗販売限定品!!」
「自分用なのね・・・」
「はい、なので急いで取ってきます!」
「僕が行こうか?」
「大丈夫です!すぐ戻ります」
と、私は駆け出した。
コインロッカーまで走ればすぐそこにある距離だ。
「はっ、はっ・・・」
急げば新幹線には間に合うはず。
「はっ・・・はっ・・・」
それなのに、私の足はまるでバッテリーが切れたみたいに次第にゆっくりとスピードが落ちて行き、やがてピタリと止まってしまった。
「・・・・・・」
何だか急に疲れてしまった。
はしゃいでた反動が、今になって急に出てきてしまったみたいだ。
それでも再びトボトボと歩き出して、ようやくコインロッカーまでたどり着いた。
そうして目当ての忘れ物を取り出した時、スマホの着信音が鳴った。
五条さんからの電話だった。
「・・・もしもし」
「お土産あった?急ぎな、もう三分ほどで発車だよ」
「・・・先に東京戻って下さい」
「え?」
「・・・何だか急に疲れて、走れそうにないから・・・」
「和紗?」
「後の便で帰ります。今日はありがとうございました」
電話口ではまだ五条さんが何か話していたけれど、私はそれを無視して通話を切った。
「・・・・・・」
そして、そのまま駅の構内を出て神戸の街を歩いた。
行く当てはないけれど、夜の風が心地よくて、誘われるように歩き続けた。
(あぁ、そっか)
この街は山からの風だけじゃなく、海からの風も感じる。
糠田が森は山からの風で、吹き付けてくるような風だった。
だけど、この街には吹き渡っていくような海の風を感じるのだ。
どこまでも広がっていくような、自由な風が。
(だから、お父さんはこの街を選んだんだ)
『ねぇ、今度の日曜日一緒にクッキー作って?』
ふと、紗樹という子がお父さんに言ったことが脳裏にリフレインした。
「・・・・・・」
私は、お父さんとクッキーなんて作ったことがない。
何も一緒に作ったことなんてない。
そして、これからも何かを一緒に作ることはないだろう。
「・・・・・・」
頬にポツリと冷たいものが伝わってきた。
顔を上げて見上げると、雨粒がぽつりぽつりと次々に落ちてくる。
それは、急な予報外れの雨だった。
街を歩く人々は驚き惑いながら、行き先まで急いで走り出す。
私も同じよう走り出すけれど、ふと足を止めて、諦めて雨に濡れるがままゆっくりと歩き続けた。
(私に行くところなんてない)
この街にも、もうどこにも。
「・・・・・・」
雨粒が頬に髪に肩に打ち付ける。
このまま洗い流せばいい。
未練も涙も。
「・・・・っ」
嗚咽が堪えきれずこぼれそうになったその時だった。
ふと肩に手が触れる感触が伝わったかと思ったら、私に向かって降る雨粒が、ぶつかることなくパッと弾けて宙に飛び散るのを見た。
驚いて顔を上げると、
「こら、フラフラどこ行くの」
と、背後から五条さんの声が聞こえてきた。
新幹線のホームへ向かう途中ではたと気づいた。
思わず声を上げた私を五条さんは振り返る。
「どしたの?」
「お土産の袋、一個足りません」
「え、マジで」
最初に立ち寄った中華街でいきなり持ち歩けないほどお土産(自分用も含む)を買ってしまい、コインロッカーに預けていたのだが、今になってひとつ足りないことに気づいたのだ。
「取りに行ってきます。これお願いします」
と、私は他の土産の袋を五条さんに託しつつ言った。
「五条さん、先に行っててください」
「諦めたら?新幹線間に合わないかもよ」
「ダメです!ずっと食べてみたかったお店のお菓子なんです!しかも店舗販売限定品!!」
「自分用なのね・・・」
「はい、なので急いで取ってきます!」
「僕が行こうか?」
「大丈夫です!すぐ戻ります」
と、私は駆け出した。
コインロッカーまで走ればすぐそこにある距離だ。
「はっ、はっ・・・」
急げば新幹線には間に合うはず。
「はっ・・・はっ・・・」
それなのに、私の足はまるでバッテリーが切れたみたいに次第にゆっくりとスピードが落ちて行き、やがてピタリと止まってしまった。
「・・・・・・」
何だか急に疲れてしまった。
はしゃいでた反動が、今になって急に出てきてしまったみたいだ。
それでも再びトボトボと歩き出して、ようやくコインロッカーまでたどり着いた。
そうして目当ての忘れ物を取り出した時、スマホの着信音が鳴った。
五条さんからの電話だった。
「・・・もしもし」
「お土産あった?急ぎな、もう三分ほどで発車だよ」
「・・・先に東京戻って下さい」
「え?」
「・・・何だか急に疲れて、走れそうにないから・・・」
「和紗?」
「後の便で帰ります。今日はありがとうございました」
電話口ではまだ五条さんが何か話していたけれど、私はそれを無視して通話を切った。
「・・・・・・」
そして、そのまま駅の構内を出て神戸の街を歩いた。
行く当てはないけれど、夜の風が心地よくて、誘われるように歩き続けた。
(あぁ、そっか)
この街は山からの風だけじゃなく、海からの風も感じる。
糠田が森は山からの風で、吹き付けてくるような風だった。
だけど、この街には吹き渡っていくような海の風を感じるのだ。
どこまでも広がっていくような、自由な風が。
(だから、お父さんはこの街を選んだんだ)
『ねぇ、今度の日曜日一緒にクッキー作って?』
ふと、紗樹という子がお父さんに言ったことが脳裏にリフレインした。
「・・・・・・」
私は、お父さんとクッキーなんて作ったことがない。
何も一緒に作ったことなんてない。
そして、これからも何かを一緒に作ることはないだろう。
「・・・・・・」
頬にポツリと冷たいものが伝わってきた。
顔を上げて見上げると、雨粒がぽつりぽつりと次々に落ちてくる。
それは、急な予報外れの雨だった。
街を歩く人々は驚き惑いながら、行き先まで急いで走り出す。
私も同じよう走り出すけれど、ふと足を止めて、諦めて雨に濡れるがままゆっくりと歩き続けた。
(私に行くところなんてない)
この街にも、もうどこにも。
「・・・・・・」
雨粒が頬に髪に肩に打ち付ける。
このまま洗い流せばいい。
未練も涙も。
「・・・・っ」
嗚咽が堪えきれずこぼれそうになったその時だった。
ふと肩に手が触れる感触が伝わったかと思ったら、私に向かって降る雨粒が、ぶつかることなくパッと弾けて宙に飛び散るのを見た。
驚いて顔を上げると、
「こら、フラフラどこ行くの」
と、背後から五条さんの声が聞こえてきた。