第19話 まぼろしの家族
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そうして店の外へ一歩出たところで、
「・・・・・・」
私は立ち止まり、もう一度だけお父さんを振り返った。
「・・・お父さん、あとひとつだけきいてもいい?」
私が呼びかけると、お父さんは顔を上げて私の目を真っ直ぐに見返した。
声が震えそうになるのを堪えて、私はお父さんに問いかけた。
「お父さんは、どうして私を糠田が森に置いて行ってしまったの?」
するとお父さんは、
「和紗を愛しているからだよ」
と、言った。
「・・・・・・」
それを聞いて、私の耳にはもうお父さんの言葉が入らなくなった。
それなのに、お父さんは言葉を続けた。
意味なんてないのに。
「本当は和紗も連れていくつもりだった。だけど、親父が言ったんだ」
『和紗はここに置いていけ。お前じゃ和紗を育てられん。和紗は、ワシらが育てる』
「悩んで苦しんで考えた・・・。僕と二人きりで新しい土地で暮らしていくのと、糠田が森で多くの人に囲まれて暮らしていくのと、和紗にとってどちらの方が幸せなのか。・・・それが理由だよ」
「・・・・・・」
「和紗の幸せを願ったから、和紗が大切だったからだ」
「・・・・・・」
「それは今でも変わらない。だから、和紗が良ければいつでもここに来なさい。この前も言ったけれど、一緒にこの店で働こう」
「・・・・・・」
「いつでも父さんはここで待っているから」
私は何も応えることなく、お父さんに背を向けて店を出た。
カラン・・・
店の扉が閉まりドアベルが鳴る。
私は一歩二歩・・・と店から遠ざかって行った。
その後ろを五条さんが続く。
商店街のメインストリートに戻ってきたところで、
「和紗」
と、五条さんに呼びかけられて、私はピタリと立ち止まった。そして、
「・・・スッキリしました!」
と、笑顔で五条さんを振り返った。
「あれだけ頑なだったら、もう何も言えなくなっちゃいますよね」
と、話す私の顔を五条さんは黙ってジッと見返している。
「これで踏ん切りがつきました。元々そのつもりだったけど・・・『つるぎ庵』は私が復活させます。『あけづる』も私が創ります」
「・・・・・・」
「それでも、お父さんのことはずっと気がかりだったから」
「・・・・・・」
「仕事以外何の趣味も特技も友達付き合いもないような人だったから、ひとりでうらぶれて寂しく暮らしてるんじゃないかって、ずっと心配だったから、幸せそうな姿を見れて安心しました」
「・・・・・・・」
「・・・お母さんを亡くした後のお父さんの落胆ぶり、子供から見ても尋常じゃなかったから、これでよかったなって思います」
「・・・・・・」
「ほんとよかったよかった!でもビックリしたなぁ。腹違いとはいえ妹がいたなんて!」
「・・・・・・」
まだ、五条さんは黙って私の顔を見つめ続けている。
何かを注意深く伺うかのように。
私はそんな視線を振り切るように、努めて明るく言葉を続けた。
「・・・せっかく神戸まで来たから観光しませんか?あ、中華街行きましょう!あと、異人館も!」
すると、五条さんはふっと笑って、
「了解。どこに参りましょうか?」
と、ようやく言葉を発した。
いつものおどけた様子に私は少しホッとする。
「まずは中華街!でもスウィーツ巡りもしたいです!」
「オーケーオーケー。どこでもお供しますよ」
「神戸って美味しいパン屋さんも多いんですよね!七海さんにお土産買っていきましょうよ」
こうして、私と五条さんは神戸観光に繰り出した。
・・・最初は無理にはしゃいでいたと思う。
だけど、初めて訪れる街並みを目にしたり美味しいものを食べているうちに、次第に吹っ切れてきて、私はめいいっぱい楽しんだ。
五条さんが一緒にいてくれてよかった。
心からそう思った。
私ひとりだったら、今もお父さんのことを引きずっていただろう。
そうしてあっという間に時刻は過ぎて夜が訪れ、東京へ戻ることにした。
「・・・・・・」
私は立ち止まり、もう一度だけお父さんを振り返った。
「・・・お父さん、あとひとつだけきいてもいい?」
私が呼びかけると、お父さんは顔を上げて私の目を真っ直ぐに見返した。
声が震えそうになるのを堪えて、私はお父さんに問いかけた。
「お父さんは、どうして私を糠田が森に置いて行ってしまったの?」
するとお父さんは、
「和紗を愛しているからだよ」
と、言った。
「・・・・・・」
それを聞いて、私の耳にはもうお父さんの言葉が入らなくなった。
それなのに、お父さんは言葉を続けた。
意味なんてないのに。
「本当は和紗も連れていくつもりだった。だけど、親父が言ったんだ」
『和紗はここに置いていけ。お前じゃ和紗を育てられん。和紗は、ワシらが育てる』
「悩んで苦しんで考えた・・・。僕と二人きりで新しい土地で暮らしていくのと、糠田が森で多くの人に囲まれて暮らしていくのと、和紗にとってどちらの方が幸せなのか。・・・それが理由だよ」
「・・・・・・」
「和紗の幸せを願ったから、和紗が大切だったからだ」
「・・・・・・」
「それは今でも変わらない。だから、和紗が良ければいつでもここに来なさい。この前も言ったけれど、一緒にこの店で働こう」
「・・・・・・」
「いつでも父さんはここで待っているから」
私は何も応えることなく、お父さんに背を向けて店を出た。
カラン・・・
店の扉が閉まりドアベルが鳴る。
私は一歩二歩・・・と店から遠ざかって行った。
その後ろを五条さんが続く。
商店街のメインストリートに戻ってきたところで、
「和紗」
と、五条さんに呼びかけられて、私はピタリと立ち止まった。そして、
「・・・スッキリしました!」
と、笑顔で五条さんを振り返った。
「あれだけ頑なだったら、もう何も言えなくなっちゃいますよね」
と、話す私の顔を五条さんは黙ってジッと見返している。
「これで踏ん切りがつきました。元々そのつもりだったけど・・・『つるぎ庵』は私が復活させます。『あけづる』も私が創ります」
「・・・・・・」
「それでも、お父さんのことはずっと気がかりだったから」
「・・・・・・」
「仕事以外何の趣味も特技も友達付き合いもないような人だったから、ひとりでうらぶれて寂しく暮らしてるんじゃないかって、ずっと心配だったから、幸せそうな姿を見れて安心しました」
「・・・・・・・」
「・・・お母さんを亡くした後のお父さんの落胆ぶり、子供から見ても尋常じゃなかったから、これでよかったなって思います」
「・・・・・・」
「ほんとよかったよかった!でもビックリしたなぁ。腹違いとはいえ妹がいたなんて!」
「・・・・・・」
まだ、五条さんは黙って私の顔を見つめ続けている。
何かを注意深く伺うかのように。
私はそんな視線を振り切るように、努めて明るく言葉を続けた。
「・・・せっかく神戸まで来たから観光しませんか?あ、中華街行きましょう!あと、異人館も!」
すると、五条さんはふっと笑って、
「了解。どこに参りましょうか?」
と、ようやく言葉を発した。
いつものおどけた様子に私は少しホッとする。
「まずは中華街!でもスウィーツ巡りもしたいです!」
「オーケーオーケー。どこでもお供しますよ」
「神戸って美味しいパン屋さんも多いんですよね!七海さんにお土産買っていきましょうよ」
こうして、私と五条さんは神戸観光に繰り出した。
・・・最初は無理にはしゃいでいたと思う。
だけど、初めて訪れる街並みを目にしたり美味しいものを食べているうちに、次第に吹っ切れてきて、私はめいいっぱい楽しんだ。
五条さんが一緒にいてくれてよかった。
心からそう思った。
私ひとりだったら、今もお父さんのことを引きずっていただろう。
そうしてあっという間に時刻は過ぎて夜が訪れ、東京へ戻ることにした。