第19話 まぼろしの家族
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肝心なことをなかなか切り出せない。
言葉に詰まって何度も言いあぐねた後、私は意を決して言った。
「お父さんに、糠田が森に戻ってきてほしいの」
お父さんは身じろぎもせず、ただ黙って私の言うことを聞いている。
「お父さんの術式 で、糠田が森を護ってほしいの」
「・・・・・・」
「お父さんにとって、それが重圧になることだってわかってる。だから、お父さんだけに背負わせたりしない。今すぐは無理でも、私も『あけづる』を創れるようになるから・・・そうすれば、お父さんのことを・・・」
支える?
ううん、そうじゃない。
「・・・支えてほしいの、私の事」
『あけづる』を創るのは、私でいい。
だけど、お父さんに一緒にいてほしい。
そして、一緒に『つるぎ庵』を。
それが、私が胸の奥に隠し持っていた願い。
「・・・・・・・」
お父さんは困ったような泣きそうな顔をして、次第に俯いていった。
五条さんも口を挟まず、黙って私とお父さんを見守っている。
長い長い沈黙だった。
「・・・和紗」
やがて、お父さんは言った。
絞り出すような、苦しそうな声で。
「それは出来ない・・・出来ないんだ」
その言葉に私は落胆した。
だけど、簡単に引き下がる訳にはいかない。
「どうしてそんな風に思うの?」
「・・・・・・」
「お母さんを救えなかったから?」
「・・・・・・」
「だけど、お父さんのその術式 は、確実に糠田が森の皆んなを護れるのよ?」
「・・・・・・」
「お父さんじゃなきゃ、出来ないことなの」
お父さんは俯いたまま、まるで石のように固まってしまった。
私は歯がゆい思いで、
「お父さ・・・」
と、もう一度呼びかけた時だった。
カランと店のドアベルが鳴ったと同時に、
「ただいまーっ!」
と、元気な声を上げてランドセルを背負った女の子が店内に駆け込んできた。
「紗樹」
すると、それまでずっと黙っていたお父さんが、その子の名前を呼んだ。
「・・・・・・」
それだけで全てがわかった。
「帰りは勝手口から入りなさいって言ってるだろう」
「へへっ。だってお店から入った方が早いんだもん」
お父さんの言葉に、紗樹と呼ばれたその女の子はいたずらな笑みを返す。小学一、二年生くらいだろうか。
彼女はふと私たちに気がつくと、
「いらっしゃいませ〜」
と、愛想良く笑ってペコリと会釈した。
そしてすぐまたお父さんの方へ向き直すと、
「ねぇ、今度の日曜日一緒にクッキー作って?」
と言った。
お父さんは呆気に取られたように肩をすくめる。
「構わないけど、なんでまた?」
「来週、友達の誕生日なの!だからプレゼントにあげたいの!」
「わかった。わかった」
と、お父さんは頷く。
「早く2階に上がりなさい。今接客中なんだ」
「お母さんは?」
「夕ご飯の買い物に行ってるよ」
「夕ご飯何かなー?」
「ハンバーグだって」
「ほんと?やったー!」
「早く宿題済ませなさい」
「はーい」
2階へ上がっていく女の子を見送った後、お父さんは居たたまれなさそうに私の方を見た。
「どういうこと?」
そう言ったのは、
「あの子、何者なの?どういった関係?」
私ではなく、五条さんだった。
お父さんは私から視線を逸らすと、
「・・・僕は、長い人生を独りで生きていけるほど強くない」
と、問いかけの答えにならない答えを口にした。
だけど、五条さんは既に全てを理解していたようで、
「どういうことだよ」
責め立てるように語気を強めた。
「和紗のことは糠田が森に残しておきながらアンタは・・・」
「五条さん!」
と、私は五条さんの言葉を遮った。
「もういいです。もう・・・」
「和紗」
「・・・行きましょう」
と、私は五条さんの腕を引いて店の出入り口へ向かって歩いていく。
言葉に詰まって何度も言いあぐねた後、私は意を決して言った。
「お父さんに、糠田が森に戻ってきてほしいの」
お父さんは身じろぎもせず、ただ黙って私の言うことを聞いている。
「お父さんの
「・・・・・・」
「お父さんにとって、それが重圧になることだってわかってる。だから、お父さんだけに背負わせたりしない。今すぐは無理でも、私も『あけづる』を創れるようになるから・・・そうすれば、お父さんのことを・・・」
支える?
ううん、そうじゃない。
「・・・支えてほしいの、私の事」
『あけづる』を創るのは、私でいい。
だけど、お父さんに一緒にいてほしい。
そして、一緒に『つるぎ庵』を。
それが、私が胸の奥に隠し持っていた願い。
「・・・・・・・」
お父さんは困ったような泣きそうな顔をして、次第に俯いていった。
五条さんも口を挟まず、黙って私とお父さんを見守っている。
長い長い沈黙だった。
「・・・和紗」
やがて、お父さんは言った。
絞り出すような、苦しそうな声で。
「それは出来ない・・・出来ないんだ」
その言葉に私は落胆した。
だけど、簡単に引き下がる訳にはいかない。
「どうしてそんな風に思うの?」
「・・・・・・」
「お母さんを救えなかったから?」
「・・・・・・」
「だけど、お父さんのその
「・・・・・・」
「お父さんじゃなきゃ、出来ないことなの」
お父さんは俯いたまま、まるで石のように固まってしまった。
私は歯がゆい思いで、
「お父さ・・・」
と、もう一度呼びかけた時だった。
カランと店のドアベルが鳴ったと同時に、
「ただいまーっ!」
と、元気な声を上げてランドセルを背負った女の子が店内に駆け込んできた。
「紗樹」
すると、それまでずっと黙っていたお父さんが、その子の名前を呼んだ。
「・・・・・・」
それだけで全てがわかった。
「帰りは勝手口から入りなさいって言ってるだろう」
「へへっ。だってお店から入った方が早いんだもん」
お父さんの言葉に、紗樹と呼ばれたその女の子はいたずらな笑みを返す。小学一、二年生くらいだろうか。
彼女はふと私たちに気がつくと、
「いらっしゃいませ〜」
と、愛想良く笑ってペコリと会釈した。
そしてすぐまたお父さんの方へ向き直すと、
「ねぇ、今度の日曜日一緒にクッキー作って?」
と言った。
お父さんは呆気に取られたように肩をすくめる。
「構わないけど、なんでまた?」
「来週、友達の誕生日なの!だからプレゼントにあげたいの!」
「わかった。わかった」
と、お父さんは頷く。
「早く2階に上がりなさい。今接客中なんだ」
「お母さんは?」
「夕ご飯の買い物に行ってるよ」
「夕ご飯何かなー?」
「ハンバーグだって」
「ほんと?やったー!」
「早く宿題済ませなさい」
「はーい」
2階へ上がっていく女の子を見送った後、お父さんは居たたまれなさそうに私の方を見た。
「どういうこと?」
そう言ったのは、
「あの子、何者なの?どういった関係?」
私ではなく、五条さんだった。
お父さんは私から視線を逸らすと、
「・・・僕は、長い人生を独りで生きていけるほど強くない」
と、問いかけの答えにならない答えを口にした。
だけど、五条さんは既に全てを理解していたようで、
「どういうことだよ」
責め立てるように語気を強めた。
「和紗のことは糠田が森に残しておきながらアンタは・・・」
「五条さん!」
と、私は五条さんの言葉を遮った。
「もういいです。もう・・・」
「和紗」
「・・・行きましょう」
と、私は五条さんの腕を引いて店の出入り口へ向かって歩いていく。