第19話 まぼろしの家族
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五条さんは本当に駅弁をたんまりと買い込んで、新幹線に乗り込むなりモグモグと食べ始めた。
私の分も買ってくれたのだけれど、私はろくに箸をつけずボーッと車窓の外を見ていた。
「食べないの?」
と、五条さんに声をかけられて、私はハッと我に返った。
「あ、ごめんなさい。せっかく買ってきてもらったのに」
「別に謝らなくていいよ」
「・・・・・・」
「なんか緊張してるね」
「・・・・・・」
「なんだか僕まで緊張してきちゃった」
「・・・なんで五条さんが緊張するんですか」
「だってこれからお義父様に御挨拶するワケだし?」
「ふざけないでください」
「フフ。ね、和紗のお父さんってどんな人?イカツイ系?」
「どんな人・・・」
問われて、私はふっと伏し目がちになりながらポツリと呟いた。
「・・・優しいです」
すると、五条さんは箸を動かす手を止めた。
「昔から穏やかな雰囲気の人で。それは変わらないです。・・・それなのに、まるで知らない人みたいで・・・だから、再会した時も言いたい事何も言えなくて。私、お父さんとちゃんと話せるか不安なんです」
それなのに、糠田が森に帰って来てほしいだなんて説得出来るのだろうか。
「・・・そういうもんだよ」
五条さんは言った。
「子どもにとって初めは親はただ親で、それがある日、親もひとりの人間で親の顔とは違う側面もあるってことに気づく」
「・・・・・・」
「その逆もしかり。子どももただ子どもじゃなくひとりの人間で、親が知らない側面を持つようになる」
「・・・・・・」
「それでお互いに戸惑いを覚えることもある。離れて暮らしていたなら、尚更ね」
「・・・・・・」
「時間が必要なこともあるよ」
それは、色んな理由で焦っている私をなだめるために言っているようだった。
「・・・・・・」
私は箸を握り直し、お弁当のおかずを摘んで口に運んだ。
「・・・おいしい」
「でしょ?」
それでも焦りや不安は消えてはなくならない。
でも、私の今までとこれからを。
お父さんの今までとこれからを、時間をかけて話し合うことが出来たなら。
お母さんを救えなかった失望を、おじいちゃんとの確執を、解きほぐす事が出来たなら、お父さんの考えも変える事ができるのかもしれない。
今すぐでなくても、いつか一緒に帰れるのかもしれない。
糠田が森に。『つるぎ庵』に。
お父さんのお店は三宮本通商店街の一角にあった。
メインストリートから外れた脇の路地を5分ほど進んでいくと、店に辿り着いた。
『西洋菓子店フルリール』と看板にある。
「・・・・・・っ」
店の前まで来ると、私の足は緊張でひとりでに止まってしまった。
進むことが出来ず、その場で立ち尽くしグッと両手を固く握る。
そんな風に躊躇していたら、
「五条さん?」
五条さんはスタスタと入口まで歩いていって、
「こんにちはーっ。和紗のお父さんいますかー?」
と、勢いよく入店していった。
(わわわわーっ?!)
私も慌てて追いかけるように入店する。
しかし店内は無人で、ショーケースの中の色とりどりのケーキが煌めいている。
「・・・・・・」
私は店内を見回した。
空き瓶に生けられた生花があちこちに飾られている。
壁にはハンドメイドらしいキルトのタペストリー。
高級というより素朴な街の洋菓子店といった感じだ。
装いは違うのに、『つるぎ庵』と似た雰囲気を感じる。
「すみませーん。誰もいないのー?」
と五条さんがもう一度言うと、カウンターの向うにある工房の出入り口から、
「い、いらっしゃいませ」
と、慌てた様子でお父さんが飛び出てきた。
「和紗のお父さん?」
五条さんがそう尋ねると、お父さんは戸惑い目を瞬かせながら、
「そう、ですけど・・・」
と答える最中、五条さんの後ろにいる私に気づいた。
「和紗」
お父さんはますます戸惑い驚く。
「びっくりした。来るなら前もって連絡くれれば・・・」
私の分も買ってくれたのだけれど、私はろくに箸をつけずボーッと車窓の外を見ていた。
「食べないの?」
と、五条さんに声をかけられて、私はハッと我に返った。
「あ、ごめんなさい。せっかく買ってきてもらったのに」
「別に謝らなくていいよ」
「・・・・・・」
「なんか緊張してるね」
「・・・・・・」
「なんだか僕まで緊張してきちゃった」
「・・・なんで五条さんが緊張するんですか」
「だってこれからお義父様に御挨拶するワケだし?」
「ふざけないでください」
「フフ。ね、和紗のお父さんってどんな人?イカツイ系?」
「どんな人・・・」
問われて、私はふっと伏し目がちになりながらポツリと呟いた。
「・・・優しいです」
すると、五条さんは箸を動かす手を止めた。
「昔から穏やかな雰囲気の人で。それは変わらないです。・・・それなのに、まるで知らない人みたいで・・・だから、再会した時も言いたい事何も言えなくて。私、お父さんとちゃんと話せるか不安なんです」
それなのに、糠田が森に帰って来てほしいだなんて説得出来るのだろうか。
「・・・そういうもんだよ」
五条さんは言った。
「子どもにとって初めは親はただ親で、それがある日、親もひとりの人間で親の顔とは違う側面もあるってことに気づく」
「・・・・・・」
「その逆もしかり。子どももただ子どもじゃなくひとりの人間で、親が知らない側面を持つようになる」
「・・・・・・」
「それでお互いに戸惑いを覚えることもある。離れて暮らしていたなら、尚更ね」
「・・・・・・」
「時間が必要なこともあるよ」
それは、色んな理由で焦っている私をなだめるために言っているようだった。
「・・・・・・」
私は箸を握り直し、お弁当のおかずを摘んで口に運んだ。
「・・・おいしい」
「でしょ?」
それでも焦りや不安は消えてはなくならない。
でも、私の今までとこれからを。
お父さんの今までとこれからを、時間をかけて話し合うことが出来たなら。
お母さんを救えなかった失望を、おじいちゃんとの確執を、解きほぐす事が出来たなら、お父さんの考えも変える事ができるのかもしれない。
今すぐでなくても、いつか一緒に帰れるのかもしれない。
糠田が森に。『つるぎ庵』に。
お父さんのお店は三宮本通商店街の一角にあった。
メインストリートから外れた脇の路地を5分ほど進んでいくと、店に辿り着いた。
『西洋菓子店フルリール』と看板にある。
「・・・・・・っ」
店の前まで来ると、私の足は緊張でひとりでに止まってしまった。
進むことが出来ず、その場で立ち尽くしグッと両手を固く握る。
そんな風に躊躇していたら、
「五条さん?」
五条さんはスタスタと入口まで歩いていって、
「こんにちはーっ。和紗のお父さんいますかー?」
と、勢いよく入店していった。
(わわわわーっ?!)
私も慌てて追いかけるように入店する。
しかし店内は無人で、ショーケースの中の色とりどりのケーキが煌めいている。
「・・・・・・」
私は店内を見回した。
空き瓶に生けられた生花があちこちに飾られている。
壁にはハンドメイドらしいキルトのタペストリー。
高級というより素朴な街の洋菓子店といった感じだ。
装いは違うのに、『つるぎ庵』と似た雰囲気を感じる。
「すみませーん。誰もいないのー?」
と五条さんがもう一度言うと、カウンターの向うにある工房の出入り口から、
「い、いらっしゃいませ」
と、慌てた様子でお父さんが飛び出てきた。
「和紗のお父さん?」
五条さんがそう尋ねると、お父さんは戸惑い目を瞬かせながら、
「そう、ですけど・・・」
と答える最中、五条さんの後ろにいる私に気づいた。
「和紗」
お父さんはますます戸惑い驚く。
「びっくりした。来るなら前もって連絡くれれば・・・」