第18話 帰郷
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それは、ずっと不安に思っていたことだった。
いずれとは思っていたけれど、早過ぎると思った。
だけど、呪いが待ってくれるはずもないのだ。
私が『あけづる』を創れるようになるまでなんて、そんな都合のいいことが。
「糠田が森には呪術師を常駐させるように提案します。アイツが今後どんな風に変貌するかわからないが、現段階では大きな脅威はない。再度出現しても、その都度呪術師によって祓うことが出来るはずだ。それで糠田が森の人々を保護して・・・」
ショックを受けた私を落ち着かせようと、伏黒君が今後の対応を語りかける。
しかし、今の私には話が入って来ない。
すると、
「・・・大丈夫ですか?」
と、伏黒君が話を打ち止めして呼びかけた。
それで私はハッと我に返った。
「う、うん。大丈夫」
「・・・・・・」
「ありがとう、伏黒君。私なら大丈夫」
「・・・今はそういう風に対処するしかない。糠田が森の呪いを根本的に祓うことが出来ない今は・・・」
「・・・うん」
「・・・色んなことが起こり過ぎた。東京に着くまで眠って下さい。着いたら起こしますから」
「・・・うん」
そうして、私は瞼を閉じた。
でも当然眠れるはずもなく、もう一度瞼を開けた。
「ねぇ、伏黒君」
「はい」
「さっき女型呪霊が言ってたこと・・・」
「・・・何ですか」
「お姉さんが呪われてるって」
私がそう言うと、伏黒君の表情が凍りついた。
そして、これ以上何も訊くなと言うように険しい視線を向ける。
「私のお母さんも同じなの」
私は伏黒君の視線を振り切るように言った。
「私のお母さんも、神社で昏睡状態で倒れてて、そのまま・・・」
すると、伏黒君の目に驚きと困惑の色が浮かんだ。
それは少しの間で、すぐに思案するように俯くと、
「・・・津美紀が呪われたのは、俺が中三に上がってすぐのことだった」
と、ゆっくり語り始めた。
「こうした呪いの被呪者は全国各地にいるらしい。だけど、いずれも呪いの出自も正体も不明で、未だに解呪されていない」
「・・・・・・」
津美紀さんと私のお母さん。
繋がることのないふたりの人生が、ひとつの呪いで繋がれていく。
・・・ううん、違う。
「・・・違う」
漠然としていた記憶が、はっきりとした輪郭を帯び始める。
「呪われたのは、私の方なんだ。私が呪われたから、お母さんも・・・」
お父さんが何気なく言った言葉。
『咲和を護れなかった・・・救えなかった』
あの時は聞き流していた言葉が、切実な感情を持って迫ってくる。
「・・・・・・」
愕然とする私の横顔を伏黒君が見つめる。
車窓の外の夕日は沈んでいて、新幹線は夜の暗闇を進んで行く。
私はいつの間にか伏黒君の肩に寄りかかるようにして眠っていた。
───私とお母さん、そして津美紀さんにかけられた呪いの正体が明らかになるのは、これより約二ヶ月後のこと。
呪いの世界が始まる時のことだ。
つづく
いずれとは思っていたけれど、早過ぎると思った。
だけど、呪いが待ってくれるはずもないのだ。
私が『あけづる』を創れるようになるまでなんて、そんな都合のいいことが。
「糠田が森には呪術師を常駐させるように提案します。アイツが今後どんな風に変貌するかわからないが、現段階では大きな脅威はない。再度出現しても、その都度呪術師によって祓うことが出来るはずだ。それで糠田が森の人々を保護して・・・」
ショックを受けた私を落ち着かせようと、伏黒君が今後の対応を語りかける。
しかし、今の私には話が入って来ない。
すると、
「・・・大丈夫ですか?」
と、伏黒君が話を打ち止めして呼びかけた。
それで私はハッと我に返った。
「う、うん。大丈夫」
「・・・・・・」
「ありがとう、伏黒君。私なら大丈夫」
「・・・今はそういう風に対処するしかない。糠田が森の呪いを根本的に祓うことが出来ない今は・・・」
「・・・うん」
「・・・色んなことが起こり過ぎた。東京に着くまで眠って下さい。着いたら起こしますから」
「・・・うん」
そうして、私は瞼を閉じた。
でも当然眠れるはずもなく、もう一度瞼を開けた。
「ねぇ、伏黒君」
「はい」
「さっき女型呪霊が言ってたこと・・・」
「・・・何ですか」
「お姉さんが呪われてるって」
私がそう言うと、伏黒君の表情が凍りついた。
そして、これ以上何も訊くなと言うように険しい視線を向ける。
「私のお母さんも同じなの」
私は伏黒君の視線を振り切るように言った。
「私のお母さんも、神社で昏睡状態で倒れてて、そのまま・・・」
すると、伏黒君の目に驚きと困惑の色が浮かんだ。
それは少しの間で、すぐに思案するように俯くと、
「・・・津美紀が呪われたのは、俺が中三に上がってすぐのことだった」
と、ゆっくり語り始めた。
「こうした呪いの被呪者は全国各地にいるらしい。だけど、いずれも呪いの出自も正体も不明で、未だに解呪されていない」
「・・・・・・」
津美紀さんと私のお母さん。
繋がることのないふたりの人生が、ひとつの呪いで繋がれていく。
・・・ううん、違う。
「・・・違う」
漠然としていた記憶が、はっきりとした輪郭を帯び始める。
「呪われたのは、私の方なんだ。私が呪われたから、お母さんも・・・」
お父さんが何気なく言った言葉。
『咲和を護れなかった・・・救えなかった』
あの時は聞き流していた言葉が、切実な感情を持って迫ってくる。
「・・・・・・」
愕然とする私の横顔を伏黒君が見つめる。
車窓の外の夕日は沈んでいて、新幹線は夜の暗闇を進んで行く。
私はいつの間にか伏黒君の肩に寄りかかるようにして眠っていた。
───私とお母さん、そして津美紀さんにかけられた呪いの正体が明らかになるのは、これより約二ヶ月後のこと。
呪いの世界が始まる時のことだ。
つづく
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