第18話 帰郷
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「伏黒君」
『つるぎ庵』に向かうと、約束通り伏黒君は店の前で待っていた。
声をかけると、伏黒君はゆっくりとこっちを振り向いた。
「ごめんね、待たせて」
「・・・話せたんですか、ちゃんと」
「・・・うん」
「・・・その割に、浮かない顔ですね」
「そんなこと・・・」
そんなことない、と言おうとしたけれど、私は口を噤んだ。
伏黒君に誤魔化しが通用する気がしなかった。
「これ」
私は伏黒君に向かって右こぶしを差し出した。
伏黒君は目を瞬かせる。
「何ですか」
「・・・・・・」
答える代わりに、私はこぶしを開いた。
手のひらには『明埜乃舞降鶴乃御砡 』がある。
すると、伏黒君はそれが何かすぐに察して、
「どうしてそれを?」
と、驚きながら私に尋ねた。
「お父さんが、これを私に」
「それじゃあ・・・」
「お父さんは、術式を使える。『あけづる』を造り出す術式を」
「・・・・・・」
「でも、もうこの糠田が森には戻らないって」
「え・・・」
「もう戻ってこない」
・・・別れ際、お父さんは私にこの呪玉を手渡した。
そして、こう言った。
「和紗もおじいちゃんの跡を継ごうなんて考えるんじゃない。糠田が森を出て、呪いのことも全て忘れて、自分の道を歩むんだ。この村のために自分を犠牲にする必要はない」
それに対して、私は何も応えなかった。
それから、お父さんは働いている神戸のお店の住所と電話番号を私に教えた。
「専門学校を卒業して、もし働き口に困っていたら、うちの店に来なさい。一緒に働こう」
そのお店は和菓子店ではなく、洋菓子店だった。
「・・・やっぱり、私が『あけづる』を創れるようにならなくちゃ」
そう言いながら、私はもう一度右手を握りしめた。
「私が『あけづる』を創って、糠田が森を護らなくちゃ」
「・・・・・・」
伏黒君が心配そうに視線を向ける。
それに気づいて、私はハッと顔を上げた。そして、努めて元気な声で言った。
「伏黒君!巡回は終わったの?」
「え、は、はい」
「何か変わったことはあった?」
「特に何も。むしろ穏やか過ぎて・・・」
「そう、よかった。これで任務は終わりなの?」
「そうですけど」
「じゃあ、お昼ご飯、一緒に食べに行こう!」
「行こうって、そんな店がここのどこに・・・」
「ここじゃなくて金沢駅で!急ごう、バス来ちゃう。この時間の逃しちゃったら、次は3時間後だよ」
「って、もう帰るつもりですか?」
「うん、法事が済んだらすぐ帰るつもりだったし」
「・・・・・・」
「さ、行こう!」
こうして私は半ば強引に伏黒君を連れて、金沢駅行きのバス停留所へ向かった。
バスが来るのを待っていると、
「本当にもう帰るんですか?」
伏黒君が言った。
「久しぶりの故郷なんですから、せめてもう一泊すれば・・・」
「いいの」
私は言った。
「早く戻って修行したいし」
「・・・なんか焦ってませんか」
「・・・え」
「さっきからずっと思い詰めた顔をしてる」
そう言われて、私は伏黒君の顔を見た。
伏黒君はジッと私の顔を見返している。
私はスッと目を逸らして、
「・・・お父さんに言われたの。糠田が森のことも呪いのことも忘れて、自分の道を歩めって。糠田が森のために自分を犠牲にするんじゃないって」
「・・・・・・」
「はっきり言ってムカついた。何年も娘のこと放ってたくせに、急に父親ぶったこと言って。自分は好き勝手にしてきたくせに・・・」
「・・・・・・」
「だから、反抗心っていうのかな?それでムキになってるのかも・・・」
「っぽいですね」
そう言って、伏黒君は肩をすくめた。
「今さら父親面するなって言い返してやればよかったんですよ」
「・・・そうだね」
「・・・・・・」
・・・お父さんともう一度会うことが出来たなら、これまでの会えなかった時間なんて、一瞬で埋めることが出来ると思ってた。
だけど、言葉を重ねれば重ねるほど埋めがたい距離があることを実感した。
そして、お父さんが糠田が森を出て行った日から、私の心にぽっかりと空いた穴も、埋められることはなかった。
『つるぎ庵』に向かうと、約束通り伏黒君は店の前で待っていた。
声をかけると、伏黒君はゆっくりとこっちを振り向いた。
「ごめんね、待たせて」
「・・・話せたんですか、ちゃんと」
「・・・うん」
「・・・その割に、浮かない顔ですね」
「そんなこと・・・」
そんなことない、と言おうとしたけれど、私は口を噤んだ。
伏黒君に誤魔化しが通用する気がしなかった。
「これ」
私は伏黒君に向かって右こぶしを差し出した。
伏黒君は目を瞬かせる。
「何ですか」
「・・・・・・」
答える代わりに、私はこぶしを開いた。
手のひらには『
すると、伏黒君はそれが何かすぐに察して、
「どうしてそれを?」
と、驚きながら私に尋ねた。
「お父さんが、これを私に」
「それじゃあ・・・」
「お父さんは、術式を使える。『あけづる』を造り出す術式を」
「・・・・・・」
「でも、もうこの糠田が森には戻らないって」
「え・・・」
「もう戻ってこない」
・・・別れ際、お父さんは私にこの呪玉を手渡した。
そして、こう言った。
「和紗もおじいちゃんの跡を継ごうなんて考えるんじゃない。糠田が森を出て、呪いのことも全て忘れて、自分の道を歩むんだ。この村のために自分を犠牲にする必要はない」
それに対して、私は何も応えなかった。
それから、お父さんは働いている神戸のお店の住所と電話番号を私に教えた。
「専門学校を卒業して、もし働き口に困っていたら、うちの店に来なさい。一緒に働こう」
そのお店は和菓子店ではなく、洋菓子店だった。
「・・・やっぱり、私が『あけづる』を創れるようにならなくちゃ」
そう言いながら、私はもう一度右手を握りしめた。
「私が『あけづる』を創って、糠田が森を護らなくちゃ」
「・・・・・・」
伏黒君が心配そうに視線を向ける。
それに気づいて、私はハッと顔を上げた。そして、努めて元気な声で言った。
「伏黒君!巡回は終わったの?」
「え、は、はい」
「何か変わったことはあった?」
「特に何も。むしろ穏やか過ぎて・・・」
「そう、よかった。これで任務は終わりなの?」
「そうですけど」
「じゃあ、お昼ご飯、一緒に食べに行こう!」
「行こうって、そんな店がここのどこに・・・」
「ここじゃなくて金沢駅で!急ごう、バス来ちゃう。この時間の逃しちゃったら、次は3時間後だよ」
「って、もう帰るつもりですか?」
「うん、法事が済んだらすぐ帰るつもりだったし」
「・・・・・・」
「さ、行こう!」
こうして私は半ば強引に伏黒君を連れて、金沢駅行きのバス停留所へ向かった。
バスが来るのを待っていると、
「本当にもう帰るんですか?」
伏黒君が言った。
「久しぶりの故郷なんですから、せめてもう一泊すれば・・・」
「いいの」
私は言った。
「早く戻って修行したいし」
「・・・なんか焦ってませんか」
「・・・え」
「さっきからずっと思い詰めた顔をしてる」
そう言われて、私は伏黒君の顔を見た。
伏黒君はジッと私の顔を見返している。
私はスッと目を逸らして、
「・・・お父さんに言われたの。糠田が森のことも呪いのことも忘れて、自分の道を歩めって。糠田が森のために自分を犠牲にするんじゃないって」
「・・・・・・」
「はっきり言ってムカついた。何年も娘のこと放ってたくせに、急に父親ぶったこと言って。自分は好き勝手にしてきたくせに・・・」
「・・・・・・」
「だから、反抗心っていうのかな?それでムキになってるのかも・・・」
「っぽいですね」
そう言って、伏黒君は肩をすくめた。
「今さら父親面するなって言い返してやればよかったんですよ」
「・・・そうだね」
「・・・・・・」
・・・お父さんともう一度会うことが出来たなら、これまでの会えなかった時間なんて、一瞬で埋めることが出来ると思ってた。
だけど、言葉を重ねれば重ねるほど埋めがたい距離があることを実感した。
そして、お父さんが糠田が森を出て行った日から、私の心にぽっかりと空いた穴も、埋められることはなかった。