第18話 帰郷
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お父さんはすぐに答えなかった。
しばらく沈黙が続いて、
「・・・和紗は気づいているのかな」
と、口を開いた。
「この糠田が森が呪われていることを」
その言葉を聞いて、私はハッと息を飲んだ。
お父さんは返事を待つようにジッと私を見返す。
「・・・・・・っ」
私が困惑して答えられずにいると、お父さんは話を続けた。
「和紗のおじいちゃんは・・・僕の親父は、この呪いが『額多之君』の呪いだって言ってたけど、違うと思う」
「・・・・・・」
「これは、生贄に捧げられた子ども達、あるいはその母親たちの呪いだ」
「・・・・・・!」
「・・・この呪いの正体が何にせよ。親父は言ってた。この呪いから糠田が森の人々を護るために、『あけづる』を作り続けなければならない。それが『つるぎ庵』の・・・鶴來家の役割だと」
「・・・・・・」
「ずっと親父にはそう言い聞かされていた」
「・・・・・・」
もしかしたらって、ずっと考えてた。
お父さんは、糠田が森の呪いのことを知っていたんじゃないかって。
そして・・・。
「じゃあお父さんは・・・」
私は尋ねた。
「『あけづる』を・・・創れるの?」
それは和菓子としてのではなく、呪玉としてのそれということだ。
言わなくてもわかるはず。伝わるはず。
私は確信していた。
「・・・ああ」
やや間があって、お父さんは答えた。
「創れるよ」
そう言うと、お父さんは私に向かって右手を差し出した。
その手のひらには、『あけづる』と同じくらいの大きさの淡く輝く丸い球体があった。
その球体が何なのか、訊かなくてもわかった。
───『明埜乃舞降鶴乃御砡 』。
その瞬間、私の全身が総毛立つのを感じた。
「どうして・・・!?」
私は改めてお父さんを問い詰めた。
「どうして糠田が森を出て行ったの?」
「・・・・・・」
「糠田が森が呪われていることを知っていたのに、その呪いから護れる力があるのに、どうして!?」
「どうして、だって?」
お父さんは一転して感情的な声で言い放った。
「意味なんてないからだ。この村を護ることに」
「意味がないなんて、そんな・・・!」
「だってそうだろう?僕は・・・咲和を護れなかった・・・救えなかった」
「・・・お母さん?」
「そうだ。和紗の母さんを・・・最愛の者を護れなかったんだ。それなのに、他人を護ることに意味を見出せると思うのか?」
「・・・・・・」
「こんな小さな村で、自分の人生を閉じ込めてまで・・・」
そう言うと、お父さんは自分を落ち着かせるようにため息をひとつ吐いた。
そして、淡々とした声で話を続けた。
「ずっとこの糠田が森が嫌いだった。恐ろしかった、自分にしか見えない不気味な化け物が徘徊するこの村が」
「・・・・・・」
「親父は言ってたよ。この力は糠田が森の人々を化け物から護るために天が授けたものだって」
そう言って、お父さんは呪玉を軽く掲げてみせた。
「でも、僕にとってはこの力は自分をこの場所に縛り付けようとする忌々しいものでしかなかった。この力で咲和を救えたなら、また考えが変わったのかもしれないが・・・。何も変えられなかった、この力は」
「・・・・・・」
「それに、僕は親父のようになりたくない。自分を犠牲にして誰かを護るなんて生き方は・・・」
「犠牲だなんて!」
私はお父さんの言葉を遮り言った。
「おじいちゃんはそんな風に思ってなかった!おじいちゃんはこの糠田が森の為に自分が出来ることを精一杯していただけよ」
「・・・・・」
「なりたくないだなんて、おじいちゃんのことを否定するような言い方はやめて」
「そうだね。良くない言い方だった」
お父さんは言った。
「出来ない、だ。父さんはおじいちゃんのようには出来ない。だから、逃げ出したんだ。この糠田が森から・・・」
開き直りのようにも、懺悔のようにも聞こえるお父さんの言葉は、『額多ヶ守』の静けさに、私の胸の中に、虚しく響いて落ちていった。
しばらく沈黙が続いて、
「・・・和紗は気づいているのかな」
と、口を開いた。
「この糠田が森が呪われていることを」
その言葉を聞いて、私はハッと息を飲んだ。
お父さんは返事を待つようにジッと私を見返す。
「・・・・・・っ」
私が困惑して答えられずにいると、お父さんは話を続けた。
「和紗のおじいちゃんは・・・僕の親父は、この呪いが『額多之君』の呪いだって言ってたけど、違うと思う」
「・・・・・・」
「これは、生贄に捧げられた子ども達、あるいはその母親たちの呪いだ」
「・・・・・・!」
「・・・この呪いの正体が何にせよ。親父は言ってた。この呪いから糠田が森の人々を護るために、『あけづる』を作り続けなければならない。それが『つるぎ庵』の・・・鶴來家の役割だと」
「・・・・・・」
「ずっと親父にはそう言い聞かされていた」
「・・・・・・」
もしかしたらって、ずっと考えてた。
お父さんは、糠田が森の呪いのことを知っていたんじゃないかって。
そして・・・。
「じゃあお父さんは・・・」
私は尋ねた。
「『あけづる』を・・・創れるの?」
それは和菓子としてのではなく、呪玉としてのそれということだ。
言わなくてもわかるはず。伝わるはず。
私は確信していた。
「・・・ああ」
やや間があって、お父さんは答えた。
「創れるよ」
そう言うと、お父さんは私に向かって右手を差し出した。
その手のひらには、『あけづる』と同じくらいの大きさの淡く輝く丸い球体があった。
その球体が何なのか、訊かなくてもわかった。
───『
その瞬間、私の全身が総毛立つのを感じた。
「どうして・・・!?」
私は改めてお父さんを問い詰めた。
「どうして糠田が森を出て行ったの?」
「・・・・・・」
「糠田が森が呪われていることを知っていたのに、その呪いから護れる力があるのに、どうして!?」
「どうして、だって?」
お父さんは一転して感情的な声で言い放った。
「意味なんてないからだ。この村を護ることに」
「意味がないなんて、そんな・・・!」
「だってそうだろう?僕は・・・咲和を護れなかった・・・救えなかった」
「・・・お母さん?」
「そうだ。和紗の母さんを・・・最愛の者を護れなかったんだ。それなのに、他人を護ることに意味を見出せると思うのか?」
「・・・・・・」
「こんな小さな村で、自分の人生を閉じ込めてまで・・・」
そう言うと、お父さんは自分を落ち着かせるようにため息をひとつ吐いた。
そして、淡々とした声で話を続けた。
「ずっとこの糠田が森が嫌いだった。恐ろしかった、自分にしか見えない不気味な化け物が徘徊するこの村が」
「・・・・・・」
「親父は言ってたよ。この力は糠田が森の人々を化け物から護るために天が授けたものだって」
そう言って、お父さんは呪玉を軽く掲げてみせた。
「でも、僕にとってはこの力は自分をこの場所に縛り付けようとする忌々しいものでしかなかった。この力で咲和を救えたなら、また考えが変わったのかもしれないが・・・。何も変えられなかった、この力は」
「・・・・・・」
「それに、僕は親父のようになりたくない。自分を犠牲にして誰かを護るなんて生き方は・・・」
「犠牲だなんて!」
私はお父さんの言葉を遮り言った。
「おじいちゃんはそんな風に思ってなかった!おじいちゃんはこの糠田が森の為に自分が出来ることを精一杯していただけよ」
「・・・・・」
「なりたくないだなんて、おじいちゃんのことを否定するような言い方はやめて」
「そうだね。良くない言い方だった」
お父さんは言った。
「出来ない、だ。父さんはおじいちゃんのようには出来ない。だから、逃げ出したんだ。この糠田が森から・・・」
開き直りのようにも、懺悔のようにも聞こえるお父さんの言葉は、『額多ヶ守』の静けさに、私の胸の中に、虚しく響いて落ちていった。