第18話 帰郷
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トンネルを抜けて、窓から車両に陽の光が差し込む。
窓の外に顔を向けて目を細めていたら、
「俺も、父親が俺を置いて出て行った理由なんて知らない」
伏黒君が再び口を開いた。
「・・・いや、推測するまでもないくだらない理由なんだろう。でも、もし仮に何かしら止むに止まれぬ理由があって、何かしらの思いがあったとしても」
「・・・・・・」
「俺は、そんなものに自分自身を繋ぎとめるべきじゃないと思う」
「・・・・・・」
「自分の人生から出て行った人間よりも、今、自分の人生に居る人間から向けられる思いに応えられる自分でいたい」
「・・・・・・」
「それが、お節介にも無理矢理入り込んできた人間でも」
それを聞いて、私は小さく笑った。
「それって五条さんの事?」
「・・・そうですね。他にも色々いますけど」
「・・・・・・」
悠仁君のことかな。
・・・きっとそう。
「五条先生の愛ってのが疑わしいのは同意ですけど、いつもふざけてるあの人なりに誠実に鶴來さんのことを思っているのは確かです」
伏黒君は真っ直ぐ私に視線を向けながら言った。
「どんな形でその思いに応えるかは、鶴來さん次第です。ただ、向けられる思いに気づいていながら向き合わずに逃げていると、必ず後悔する。そんなのは、馬鹿なガキのすることだ」
そう言った伏黒君は、瞳に感情を滲ませた、今までに見たことのない表情だった。
───私は知らなかった。
この時の伏黒君が、津美紀さんのことを思って話していたということを。
津美紀さんが呪われていることを知るのは、この時より少し後のこと───。
ふっと伏黒君は私から窓の外へと視線を動かして、言葉を続けた。
「・・・それに、五条先生が鶴來さんを置いて急にいなくなるなんてありえませんよ」
「・・・・・・」
「だから、何も不安がることないです。それでも無理だってならさっさとフってやって下さい」
「・・・・・・」
「フられたらフられたで、いい気味だ」
「・・・ふふ」
私はもう一度、小さく笑った。
「伏黒君らしくない冗談だね」
「・・・冗談じゃなく割と本気です」
と伏黒君が言ったので、私はまた笑った。
だけど、笑顔とは裏腹にまだ心は晴れない。
私はまだ解らずにいた。
五条さんの気持ちにどう応えるべきなのか。
・・・ううん、違う。
自分の気持ちにどう向き合うべきなのかを。
金沢駅に到着し、私と伏黒君はそこで別れることにした。
「それじゃあ、任務気をつけて行ってきてね」
と、私は言った。
すると伏黒君が、
「任務が終わったら、糠田が森へ行きます」
と言ったので、私は目を瞬かせた。
「本当に?」
「はい。この出張は糠田が森の定期巡回も兼ねてるので」
「そっか。いつ頃来れそう?」
「多分、明日の午後には」
「そうなんだ。来たら是非地元案内させてね」
「案内って・・・案内するような場所なんてなくないですか、あそこ」
「うっ。確かに。・・・でも、自分の地元に友達が来てくれるなんて嬉しくて」
「・・・まぁ、そういうことで」
そう言って伏黒君は踵を返し、
「それじゃあまた」
と、立ち去って行った。
私は伏黒君を見送った後、糠田が森行きのバス停へ向かった。
バスに揺られること3時間。
ようやく糠田が森たどり着いた。
「和紗ちゃーん!」
バスを降りてすぐ、懐かしい声が聞こえてきた。
「百合子ちゃん!」
と、私は声の主の名前を呼び返す。
その声は百合子ちゃんで、私の元に駆けつけるなり、
「和紗ちゃん!」
と、ガバッと勢い良く抱きついてきた。
私も提げていたトートバッグを地面に放って、百合子ちゃんを抱き返した。
そして、抱き合ったままふたりで嬉しさのあまりその場でぴょんぴょんと跳ねる。
窓の外に顔を向けて目を細めていたら、
「俺も、父親が俺を置いて出て行った理由なんて知らない」
伏黒君が再び口を開いた。
「・・・いや、推測するまでもないくだらない理由なんだろう。でも、もし仮に何かしら止むに止まれぬ理由があって、何かしらの思いがあったとしても」
「・・・・・・」
「俺は、そんなものに自分自身を繋ぎとめるべきじゃないと思う」
「・・・・・・」
「自分の人生から出て行った人間よりも、今、自分の人生に居る人間から向けられる思いに応えられる自分でいたい」
「・・・・・・」
「それが、お節介にも無理矢理入り込んできた人間でも」
それを聞いて、私は小さく笑った。
「それって五条さんの事?」
「・・・そうですね。他にも色々いますけど」
「・・・・・・」
悠仁君のことかな。
・・・きっとそう。
「五条先生の愛ってのが疑わしいのは同意ですけど、いつもふざけてるあの人なりに誠実に鶴來さんのことを思っているのは確かです」
伏黒君は真っ直ぐ私に視線を向けながら言った。
「どんな形でその思いに応えるかは、鶴來さん次第です。ただ、向けられる思いに気づいていながら向き合わずに逃げていると、必ず後悔する。そんなのは、馬鹿なガキのすることだ」
そう言った伏黒君は、瞳に感情を滲ませた、今までに見たことのない表情だった。
───私は知らなかった。
この時の伏黒君が、津美紀さんのことを思って話していたということを。
津美紀さんが呪われていることを知るのは、この時より少し後のこと───。
ふっと伏黒君は私から窓の外へと視線を動かして、言葉を続けた。
「・・・それに、五条先生が鶴來さんを置いて急にいなくなるなんてありえませんよ」
「・・・・・・」
「だから、何も不安がることないです。それでも無理だってならさっさとフってやって下さい」
「・・・・・・」
「フられたらフられたで、いい気味だ」
「・・・ふふ」
私はもう一度、小さく笑った。
「伏黒君らしくない冗談だね」
「・・・冗談じゃなく割と本気です」
と伏黒君が言ったので、私はまた笑った。
だけど、笑顔とは裏腹にまだ心は晴れない。
私はまだ解らずにいた。
五条さんの気持ちにどう応えるべきなのか。
・・・ううん、違う。
自分の気持ちにどう向き合うべきなのかを。
金沢駅に到着し、私と伏黒君はそこで別れることにした。
「それじゃあ、任務気をつけて行ってきてね」
と、私は言った。
すると伏黒君が、
「任務が終わったら、糠田が森へ行きます」
と言ったので、私は目を瞬かせた。
「本当に?」
「はい。この出張は糠田が森の定期巡回も兼ねてるので」
「そっか。いつ頃来れそう?」
「多分、明日の午後には」
「そうなんだ。来たら是非地元案内させてね」
「案内って・・・案内するような場所なんてなくないですか、あそこ」
「うっ。確かに。・・・でも、自分の地元に友達が来てくれるなんて嬉しくて」
「・・・まぁ、そういうことで」
そう言って伏黒君は踵を返し、
「それじゃあまた」
と、立ち去って行った。
私は伏黒君を見送った後、糠田が森行きのバス停へ向かった。
バスに揺られること3時間。
ようやく糠田が森たどり着いた。
「和紗ちゃーん!」
バスを降りてすぐ、懐かしい声が聞こえてきた。
「百合子ちゃん!」
と、私は声の主の名前を呼び返す。
その声は百合子ちゃんで、私の元に駆けつけるなり、
「和紗ちゃん!」
と、ガバッと勢い良く抱きついてきた。
私も提げていたトートバッグを地面に放って、百合子ちゃんを抱き返した。
そして、抱き合ったままふたりで嬉しさのあまりその場でぴょんぴょんと跳ねる。