第17話 恋する呪霊
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伏黒君が手伝ってくれたお陰と、元々持ち物が少ないこともあって、荷造りはあっという間に終わってしまった。
「運び出しは業者に頼むんですか?」
伏黒君にそう訊かれて、私は頷いた。
「うん。近くだったら自分で少しずつ運ぼうと思ったんだけど、引っ越し先ここから遠いから」
「何処なんですか」
「○○バス沿線の『露鈴神社』っていう停留所の近くだよ」
「・・・知らねぇな」
「静かで緑も多くてすごく良いところだよ。良かったら遊びに来て?もちろん、悠仁君と野薔薇ちゃんと一緒に」
すると、伏黒君は眉をひそめた。
「・・・虎杖?」
「あ」
そこで、私は自分が口を滑らせてしまったことに気づいた。
本当は悠仁君が生きていることは秘密だし、伏黒君はまだそれを知らない。
私は慌てて言った。
「ご、ごめん!私、まだ悠仁君が生きてるものと思って、つい」
「・・・いえ」
「でも、いつでも遊びに来てね?『あけづる』の試作品も試食してもらいたいし。今までは五条さんに試食してもらってたけれど、それももう簡単にお願い出来ないし・・・」
と、また余計な口を滑らせてしまった。
「・・・・・・」
自分で言っておいて、しんみりしてしまう。
黙り込んでいたら、伏黒君が言った。
「・・・明日もまた手伝いますよ」
私はハッとして伏黒君の方へ振り向いた。
伏黒君は真っ直ぐに私の方を見て言葉を続けた。
「荷解き、手伝います。釘崎も連れて来ます。作業が終わったら、引っ越し祝いしましょう」
ぶっきらぼうな言い方で、でも、それが伏黒君の気遣いだとわかって私は小さく笑った。
「・・・うん」
伏黒君は、優しい。
決して耳当たり良い言葉なんて口にしないのに、親身に寄り添うわけでもないのに。
でも、容易に肩入れしないところや程よい距離感がむしろ心地良い。
伏黒君は自分の世界の境界線を出ようとしないし、私の世界の境界線に踏み込んでこない。
私と五条さんもこんな感じだったら良かったのに。
そんな思っても仕方ないことを思ってしまう。
でも、私と五条さんは互いに互いの傷みに触れてしまったんだ。
踏み込える必要がなかった線を越えて。
翌日。
引っ越し業者に荷物を託した後、私は電車とバスを乗り継ぎアパートに向かった。
バスの停留所に着いたところで、業者から電話がかかってきた。
事故の影響で道が渋滞しており、到着が遅れるという連絡だった。
こればかりはどうしようもない。
伏黒君に引っ越しが遅れることを連絡した。
私は電話を切った後、
(そういえばまだお参りしたことなかったな)
と、アパートに向かうところを引き返して『露鈴神社』に向かうことにした。
これから氏神様となる神社だ。挨拶と順調な新生活を祈願するためお参りすることにした。
『露鈴神社』はバス停を降りてすぐ、二本の国道が交差する沿道の角っ子に建つこじんまりとした神社だ。
この神社の建立の由来が描かれた立て札に目を通す。
『露鈴』というのは江戸時代の慶長の時に存在した遊女の名前だそうだ。
『露鈴』は売れっ子で、お得意様の商人に身請けが決まっていたものの、密かに思いを通わせる武士がいたらしい。
『露鈴』は武士と駆け落ちを決意するが、武士は御前試合の最中、命を落としてしまった。
そのことを知らないまま、『露鈴』は落ち合う約束をしていたこの場所で、武士のことを幾日も待ち続けた。
やがて『露鈴』の裏切りを知った商人は、逆上してこの場で『露鈴』を斬りその命を絶った。
商人は『露鈴』の亡骸を連れて帰ろうとしたが、不思議なことに『露鈴』の亡骸はこの場所に張り付いて離れようとなかった。
まるで、来るはずのない武士を待ち続けるように・・・。
来ない思い人を待ち続ける『露鈴』の魂を慰めるために神社が建てられた。
それが、この『露鈴神社』の由来らしい。
(・・・そうなんだ・・・)
私は警戒して辺りを見回す。
この手の話を聞くと、つい『呪い』と結びつけてしまう。
だけど、境内は静かで穏やかな雰囲気で呪霊はおろか蠅頭さえいなかった。
私はホッとして本殿の前まで歩いて、賽銭箱の中に小銭を投げ入れた。
そして柏手を打って、そっと祈る。
(露鈴さん。新しく引っ越してきました、鶴來和紗と言います。これからよろしくお願いします)
「運び出しは業者に頼むんですか?」
伏黒君にそう訊かれて、私は頷いた。
「うん。近くだったら自分で少しずつ運ぼうと思ったんだけど、引っ越し先ここから遠いから」
「何処なんですか」
「○○バス沿線の『露鈴神社』っていう停留所の近くだよ」
「・・・知らねぇな」
「静かで緑も多くてすごく良いところだよ。良かったら遊びに来て?もちろん、悠仁君と野薔薇ちゃんと一緒に」
すると、伏黒君は眉をひそめた。
「・・・虎杖?」
「あ」
そこで、私は自分が口を滑らせてしまったことに気づいた。
本当は悠仁君が生きていることは秘密だし、伏黒君はまだそれを知らない。
私は慌てて言った。
「ご、ごめん!私、まだ悠仁君が生きてるものと思って、つい」
「・・・いえ」
「でも、いつでも遊びに来てね?『あけづる』の試作品も試食してもらいたいし。今までは五条さんに試食してもらってたけれど、それももう簡単にお願い出来ないし・・・」
と、また余計な口を滑らせてしまった。
「・・・・・・」
自分で言っておいて、しんみりしてしまう。
黙り込んでいたら、伏黒君が言った。
「・・・明日もまた手伝いますよ」
私はハッとして伏黒君の方へ振り向いた。
伏黒君は真っ直ぐに私の方を見て言葉を続けた。
「荷解き、手伝います。釘崎も連れて来ます。作業が終わったら、引っ越し祝いしましょう」
ぶっきらぼうな言い方で、でも、それが伏黒君の気遣いだとわかって私は小さく笑った。
「・・・うん」
伏黒君は、優しい。
決して耳当たり良い言葉なんて口にしないのに、親身に寄り添うわけでもないのに。
でも、容易に肩入れしないところや程よい距離感がむしろ心地良い。
伏黒君は自分の世界の境界線を出ようとしないし、私の世界の境界線に踏み込んでこない。
私と五条さんもこんな感じだったら良かったのに。
そんな思っても仕方ないことを思ってしまう。
でも、私と五条さんは互いに互いの傷みに触れてしまったんだ。
踏み込える必要がなかった線を越えて。
翌日。
引っ越し業者に荷物を託した後、私は電車とバスを乗り継ぎアパートに向かった。
バスの停留所に着いたところで、業者から電話がかかってきた。
事故の影響で道が渋滞しており、到着が遅れるという連絡だった。
こればかりはどうしようもない。
伏黒君に引っ越しが遅れることを連絡した。
私は電話を切った後、
(そういえばまだお参りしたことなかったな)
と、アパートに向かうところを引き返して『露鈴神社』に向かうことにした。
これから氏神様となる神社だ。挨拶と順調な新生活を祈願するためお参りすることにした。
『露鈴神社』はバス停を降りてすぐ、二本の国道が交差する沿道の角っ子に建つこじんまりとした神社だ。
この神社の建立の由来が描かれた立て札に目を通す。
『露鈴』というのは江戸時代の慶長の時に存在した遊女の名前だそうだ。
『露鈴』は売れっ子で、お得意様の商人に身請けが決まっていたものの、密かに思いを通わせる武士がいたらしい。
『露鈴』は武士と駆け落ちを決意するが、武士は御前試合の最中、命を落としてしまった。
そのことを知らないまま、『露鈴』は落ち合う約束をしていたこの場所で、武士のことを幾日も待ち続けた。
やがて『露鈴』の裏切りを知った商人は、逆上してこの場で『露鈴』を斬りその命を絶った。
商人は『露鈴』の亡骸を連れて帰ろうとしたが、不思議なことに『露鈴』の亡骸はこの場所に張り付いて離れようとなかった。
まるで、来るはずのない武士を待ち続けるように・・・。
来ない思い人を待ち続ける『露鈴』の魂を慰めるために神社が建てられた。
それが、この『露鈴神社』の由来らしい。
(・・・そうなんだ・・・)
私は警戒して辺りを見回す。
この手の話を聞くと、つい『呪い』と結びつけてしまう。
だけど、境内は静かで穏やかな雰囲気で呪霊はおろか蠅頭さえいなかった。
私はホッとして本殿の前まで歩いて、賽銭箱の中に小銭を投げ入れた。
そして柏手を打って、そっと祈る。
(露鈴さん。新しく引っ越してきました、鶴來和紗と言います。これからよろしくお願いします)