第16話 五条の事情
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「う・・・」
目を覚ますと、そこは私の部屋の自分の布団の中だった。
今の今までずっと熟睡していたらしい。
時計を見ると、時間は18時を過ぎていた。
「・・・・・・」
まだ意識がハッキリせず布団の中でボーッとしていたら、突然ドアが開いて、オフモードの格好の五条さんが入ってきた。
「あ、起きたんだ」
「五条さん・・・」
次の瞬間、私はハッと息を飲んで緊張で肩を硬らせた。
「ち、千代婆さんはまだここに?」
「千代婆なら帰ったよー」
「そ、そっか・・・」
露骨にホッとしてため息を吐くと、五条さんはククッと笑った。
「めちゃくちゃビビってんじゃん」
「そりゃあ、あんな目に遭わされたら・・・」
「ずいぶんとしごかれたもんね」
「殺されるかと思いました・・・」
「大丈夫。殺意はなかったって言ってたから。ギリギリのところで術式解くつもりだったって」
「・・・ほんとですか?」
そんな風に全く見えなかったけど。
「千代婆にはね、一人息子がいたんだ」
唐突に、五条さんはそんなことを話し出した。
「え?」
私は二重の意味で困惑した。
なぜ、今そんな事を話すのだろう。
そして、確か子どもはいないって言ってたような。
私は話の続きに耳を傾けた。
「でも、その息子は若くして亡くなったらしい」
「・・・・・・」
そうか。
あれは、亡くしたためにいないってことだったのか・・・。
「千代婆の息子は、術式を持たず生まれてきたんだ。持っていたのはわずかな呪力だけ。千代婆は息子を案じて、別の道を歩ませようとした。だけど周囲の圧力と、本人のプライドもあったんだろうね。結局、息子は呪術高専に入学して、術式がないというハンデがありながら呪術師となった」
「・・・それは、立派ですね」
「・・・そうだね。そして、初任務の際」
「・・・・・・」
「息子は命を落としたそうだ」
「・・・え」
私は言葉を失った。
「千代婆は随分と自分を責めたそうだよ。術式を持たせずに息子を産んでしまったこと。呪術師になる道を止められなかったことを」
「・・・そんな」
それで、わかった。
千代婆さんが私に対してあれほど苛烈な態度をとった理由が。
「千代婆が術式の有無とかに拘るのは、こういうことがあったからなんだ。だからって、和紗はあんな仕打ちされた事、納得出来ないだろうけど。でも、あれはあれで千代婆なりに和紗を思ってやったことなんだよ」
「・・・はい」
私は小さく頷いた。
「・・・わかりました。今、なんとなく・・・」
私は試されていたんだ。
呪術の世界で本当に生きていく覚悟があるのかを。
でも、私は・・・。
「でも、和紗は立派な和菓子職人になるんだから」
五条さんが言った。
「で、僕のために『あけづる』を作ってくれるんだよね」
そして、ニヤッといつもの軽薄な笑みを唇に浮かべた。
「・・・聞いてたんですか」
私は恥ずかしいような切ないような気持ちで、その笑みを見上げた。
「うん、バッチリと。感動したねぇ」
「もぉ〜・・・、からかわないでください」
と、私が唸った時、グルグルとお腹が鳴った。
「お腹減ったの?」
と、五条さんに問われて私は頷く。
「はい。でも、今日はもうご飯作る気力ないのでデリバリーでいいですか?」
「心配御無用!こんなこともあろうかと、僕、カレー作ったから!」
「え、五条さんのカレー?」
「うん。切り干し大根のサラダも付いてるよ」
そして、五条さんは言った。
「僕が和紗に初めて作った料理だったね」
「・・・はい」
分かち合える思い出があっても、私はあなたを遠く感じる。
同じ部屋にいても、私達は違う世界にいる。
「じゃ、さっそくダイニングへ行こう。すぐ食べられるよ」
「はい」
巡り会うはずのないふたつの世界。
この今が、本の束の間重なり合うだけの時間だとしても、もう私はここには居られない。
私はもう、五条さんの側に居られない。
つづく
目を覚ますと、そこは私の部屋の自分の布団の中だった。
今の今までずっと熟睡していたらしい。
時計を見ると、時間は18時を過ぎていた。
「・・・・・・」
まだ意識がハッキリせず布団の中でボーッとしていたら、突然ドアが開いて、オフモードの格好の五条さんが入ってきた。
「あ、起きたんだ」
「五条さん・・・」
次の瞬間、私はハッと息を飲んで緊張で肩を硬らせた。
「ち、千代婆さんはまだここに?」
「千代婆なら帰ったよー」
「そ、そっか・・・」
露骨にホッとしてため息を吐くと、五条さんはククッと笑った。
「めちゃくちゃビビってんじゃん」
「そりゃあ、あんな目に遭わされたら・・・」
「ずいぶんとしごかれたもんね」
「殺されるかと思いました・・・」
「大丈夫。殺意はなかったって言ってたから。ギリギリのところで術式解くつもりだったって」
「・・・ほんとですか?」
そんな風に全く見えなかったけど。
「千代婆にはね、一人息子がいたんだ」
唐突に、五条さんはそんなことを話し出した。
「え?」
私は二重の意味で困惑した。
なぜ、今そんな事を話すのだろう。
そして、確か子どもはいないって言ってたような。
私は話の続きに耳を傾けた。
「でも、その息子は若くして亡くなったらしい」
「・・・・・・」
そうか。
あれは、亡くしたためにいないってことだったのか・・・。
「千代婆の息子は、術式を持たず生まれてきたんだ。持っていたのはわずかな呪力だけ。千代婆は息子を案じて、別の道を歩ませようとした。だけど周囲の圧力と、本人のプライドもあったんだろうね。結局、息子は呪術高専に入学して、術式がないというハンデがありながら呪術師となった」
「・・・それは、立派ですね」
「・・・そうだね。そして、初任務の際」
「・・・・・・」
「息子は命を落としたそうだ」
「・・・え」
私は言葉を失った。
「千代婆は随分と自分を責めたそうだよ。術式を持たせずに息子を産んでしまったこと。呪術師になる道を止められなかったことを」
「・・・そんな」
それで、わかった。
千代婆さんが私に対してあれほど苛烈な態度をとった理由が。
「千代婆が術式の有無とかに拘るのは、こういうことがあったからなんだ。だからって、和紗はあんな仕打ちされた事、納得出来ないだろうけど。でも、あれはあれで千代婆なりに和紗を思ってやったことなんだよ」
「・・・はい」
私は小さく頷いた。
「・・・わかりました。今、なんとなく・・・」
私は試されていたんだ。
呪術の世界で本当に生きていく覚悟があるのかを。
でも、私は・・・。
「でも、和紗は立派な和菓子職人になるんだから」
五条さんが言った。
「で、僕のために『あけづる』を作ってくれるんだよね」
そして、ニヤッといつもの軽薄な笑みを唇に浮かべた。
「・・・聞いてたんですか」
私は恥ずかしいような切ないような気持ちで、その笑みを見上げた。
「うん、バッチリと。感動したねぇ」
「もぉ〜・・・、からかわないでください」
と、私が唸った時、グルグルとお腹が鳴った。
「お腹減ったの?」
と、五条さんに問われて私は頷く。
「はい。でも、今日はもうご飯作る気力ないのでデリバリーでいいですか?」
「心配御無用!こんなこともあろうかと、僕、カレー作ったから!」
「え、五条さんのカレー?」
「うん。切り干し大根のサラダも付いてるよ」
そして、五条さんは言った。
「僕が和紗に初めて作った料理だったね」
「・・・はい」
分かち合える思い出があっても、私はあなたを遠く感じる。
同じ部屋にいても、私達は違う世界にいる。
「じゃ、さっそくダイニングへ行こう。すぐ食べられるよ」
「はい」
巡り会うはずのないふたつの世界。
この今が、本の束の間重なり合うだけの時間だとしても、もう私はここには居られない。
私はもう、五条さんの側に居られない。
つづく
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