第16話 五条の事情
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「やれっ!もう一度噛みついてやるのじゃ!」
千代婆さんが白蛇に命令した。
振り払わなければ。
だけど身体が鉛のように重くて、もうそんな力は残っていない。
「ちょ~っとやり過ぎじゃない?」
という声が突然聞こえてきて、私はハッと目を開けた。
そして顔を上げて、声の主を見る。
「五条・・・さん・・・」
そう、声の主は五条さんで。
五条さんは私の傍にしゃがみ込んで、その手で白蛇を掴み上げていた。
「大丈夫?」
と、五条さんは私に問いかける。
私が小さく頷くと、千代婆さんの方に向かって白蛇を投げつけた。
すると千代婆さんは術式を解いたのか、白蛇の姿がスッと消えた。
「坊、お戻りであったか」
「うん。っていうか、ずーっとここにいたよ」
「なんと!?では五条の実家には?」
「行ってないよー」
「では、ワシらの様子を隠れ見ておったのか!?」
「うん、そーゆーこと」
五条さんは私の方を振り向き言った。
「ちょっと確かめたいことがあったしね」
そして、再び千代婆さんの方へ向き直し言葉を続けた。
「あんまり和紗をいじめないであげてよ。もうこれで和紗の実力はわかったでしょ?」
「確かに『反転術式』が出来るのは稀有なる能力。しかし、この年老いた千代の術式の毒を一度消しただけの脆弱な呪力。この千代より劣る呪力量ですぞ!話にならん!」
「それは千代婆がバケモノ過ぎるだけでは?」
「この老ぼれにも劣る呪力しかない小娘に、なぜ坊がこれほどまでに固執するのかわかりかねまする!」
「才能だよ」
「才能?この娘に何の才能が!?」
「呪術師としてじゃない。和菓子職人としての才能だよ」
五条さんは小さく笑いながら言った。
「僕は和紗の和菓子職人としての才能を買ってるんだ。もちろん、まだまだ未熟なんだけどね」
(あーぁ・・・)
内心、私は失笑した。
(本当に、その点はブレないんだなぁ)
そして、私は再び瞼を閉じた。
朦朧とし始めた意識の間に間に、二人の会話が聞こえてくる。
「とにかく、もうやめてあげてよ。和紗を五条家の事情に巻き込むつもりはないんだ」
「では、坊も思い改めてくだされ!」
千代婆さんが言った。
「ちっぽけな和菓子屋の婿になるなどと戯言をほざくのは・・・!」
「そう、戯言だよ」
「・・・は?」
「戯言だよ。和紗の婿になるなんてことは」
戯言。
五条さんがそう言った言葉だけが、妙にはっきりと聞こえてきた。
(そっか・・・)
最初からそんな気なんてなかったんだ。
わかってた。
わかってたの。
なのに、心が痛いのはどうしてなの?
「生まれてこの方ずーーーーっと、呪術師一筋でやってきたんだよ。僕も三十路間近だしね。これまでの人生がこれでよかったのかなぁって鑑みることもあるし、これからの人生をどうするべきかって思いを馳せることもあるよ」
「・・・むぅ・・・」
「時には呪術師以外の道・・・例えば僕が和菓子職人だったならって、そんなこと想像したりもするよ」
「・・・・・・」
「とは言え、僕は呪いを祓うことしかやってこなかったからね。今から転職ってのもキツそうだしねぇ〜。それに、夢があるんだ」
「夢・・・?」
「だから高専の教師も辞めるつもりはないし」
「・・・・・・」
「そして」
『五条さんのために『あけづる』を作ります』
「和紗の気持ちも聞けたしね。それで十分だよ」
私の気持ち?
私の気持ちって何?
あなたは、自分の気持ちだってわかってないのに。
「だから、時々空想することぐらい許してよ」
そう言いながら、五条さんはぐったりとしている私を抱きかかえた。
「では、坊はその娘をどうするつもりなのじゃ?」
千代婆さんの問いかけに、五条さんは言った。
「和紗には必要なだけの力を身につけさせて故郷に帰す。和紗がいるべきところは、僕らの世界じゃない」
───私の気持ちなんてわかりっこないのに。
「僕と和紗は、生きている世界が違うんだ」
好きなのに。
そう、私は五条さんが好きなんだ───。
千代婆さんが白蛇に命令した。
振り払わなければ。
だけど身体が鉛のように重くて、もうそんな力は残っていない。
「ちょ~っとやり過ぎじゃない?」
という声が突然聞こえてきて、私はハッと目を開けた。
そして顔を上げて、声の主を見る。
「五条・・・さん・・・」
そう、声の主は五条さんで。
五条さんは私の傍にしゃがみ込んで、その手で白蛇を掴み上げていた。
「大丈夫?」
と、五条さんは私に問いかける。
私が小さく頷くと、千代婆さんの方に向かって白蛇を投げつけた。
すると千代婆さんは術式を解いたのか、白蛇の姿がスッと消えた。
「坊、お戻りであったか」
「うん。っていうか、ずーっとここにいたよ」
「なんと!?では五条の実家には?」
「行ってないよー」
「では、ワシらの様子を隠れ見ておったのか!?」
「うん、そーゆーこと」
五条さんは私の方を振り向き言った。
「ちょっと確かめたいことがあったしね」
そして、再び千代婆さんの方へ向き直し言葉を続けた。
「あんまり和紗をいじめないであげてよ。もうこれで和紗の実力はわかったでしょ?」
「確かに『反転術式』が出来るのは稀有なる能力。しかし、この年老いた千代の術式の毒を一度消しただけの脆弱な呪力。この千代より劣る呪力量ですぞ!話にならん!」
「それは千代婆がバケモノ過ぎるだけでは?」
「この老ぼれにも劣る呪力しかない小娘に、なぜ坊がこれほどまでに固執するのかわかりかねまする!」
「才能だよ」
「才能?この娘に何の才能が!?」
「呪術師としてじゃない。和菓子職人としての才能だよ」
五条さんは小さく笑いながら言った。
「僕は和紗の和菓子職人としての才能を買ってるんだ。もちろん、まだまだ未熟なんだけどね」
(あーぁ・・・)
内心、私は失笑した。
(本当に、その点はブレないんだなぁ)
そして、私は再び瞼を閉じた。
朦朧とし始めた意識の間に間に、二人の会話が聞こえてくる。
「とにかく、もうやめてあげてよ。和紗を五条家の事情に巻き込むつもりはないんだ」
「では、坊も思い改めてくだされ!」
千代婆さんが言った。
「ちっぽけな和菓子屋の婿になるなどと戯言をほざくのは・・・!」
「そう、戯言だよ」
「・・・は?」
「戯言だよ。和紗の婿になるなんてことは」
戯言。
五条さんがそう言った言葉だけが、妙にはっきりと聞こえてきた。
(そっか・・・)
最初からそんな気なんてなかったんだ。
わかってた。
わかってたの。
なのに、心が痛いのはどうしてなの?
「生まれてこの方ずーーーーっと、呪術師一筋でやってきたんだよ。僕も三十路間近だしね。これまでの人生がこれでよかったのかなぁって鑑みることもあるし、これからの人生をどうするべきかって思いを馳せることもあるよ」
「・・・むぅ・・・」
「時には呪術師以外の道・・・例えば僕が和菓子職人だったならって、そんなこと想像したりもするよ」
「・・・・・・」
「とは言え、僕は呪いを祓うことしかやってこなかったからね。今から転職ってのもキツそうだしねぇ〜。それに、夢があるんだ」
「夢・・・?」
「だから高専の教師も辞めるつもりはないし」
「・・・・・・」
「そして」
『五条さんのために『あけづる』を作ります』
「和紗の気持ちも聞けたしね。それで十分だよ」
私の気持ち?
私の気持ちって何?
あなたは、自分の気持ちだってわかってないのに。
「だから、時々空想することぐらい許してよ」
そう言いながら、五条さんはぐったりとしている私を抱きかかえた。
「では、坊はその娘をどうするつもりなのじゃ?」
千代婆さんの問いかけに、五条さんは言った。
「和紗には必要なだけの力を身につけさせて故郷に帰す。和紗がいるべきところは、僕らの世界じゃない」
───私の気持ちなんてわかりっこないのに。
「僕と和紗は、生きている世界が違うんだ」
好きなのに。
そう、私は五条さんが好きなんだ───。