第16話 五条の事情
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問われて、私は言葉に詰まった。
だって、覚悟どころかそんな場面を想像したことさえなかった。
私が五条さんを庇う。
それどころか、これまででも私が危険に陥った時はいつもどこか五条さんに頼っていた。
そう、いつも。
私は、護られるばかりだった。
(私が、五条さんのために出来ること・・・)
私の顔は自然と下へと俯いて行く。
「出来ぬか」
千代婆さんは含み笑いを浮かべながら言った。
「そうであろう。しかし、それが正しい答えじゃ。そもそも坊を庇う必要などないのじゃ」
「え・・・」
「坊は一人で全ての刺客を返り討ちにしてきた。ワシにこの疵をつけた刺客もそうした有象無象の一人に過ぎん。この疵は、ワシが勝手に間に入って勝手に負ったようなものじゃ。それどころか、刺客はワシを人質に取って坊を脅そうとした。・・・もちろん、交渉する間も与えず坊が返り討ちにしたがな。それでもワシのせいで招いた状況は、まだ未熟だった坊にとっては厳しい局面だったはずじゃ・・・」
その時、まだ子供だった五条さんは千代婆さんにこう言い放ったという。
『何勝手に飛び出して来てんだよ。あんな雑魚の襲撃なんて千代婆に庇われなくてもかわせたんだよ』
『またあんな風に人質に取られることがあったら、今度は千代婆ごと敵をやるからね』
「その時、ワシは理解したのじゃ。坊がその力を発揮するのは、ひとりの時じゃ。どんな術師であろうとも、坊にとっては足手まといでしかない」
千代婆さんが言った。
「坊と肩を並べて戦う必要はない。その背後を護る必要もない。坊は、誰の助けも必要としていない。敢えて言うなら、ワシらが出来ることは、万が一我が身が敵の盾とされた時、坊の術式に敵諸共身を貫くよう坊に促すことぐらいじゃ」
「・・・・・・」
「おぬしが呪術師であれば、おぬし自身もそして坊自身にも、その覚悟が出来たであろうがな。だが、おぬしが非術師である限り、坊はおぬしを保護せざるを得ない。おぬしは坊にとって、足手まといどころかアキレス腱となりうるのだ」
「・・・・・・・」
「『最強』である五条悟に弱みが存在してはならぬのじゃ」
「・・・・・・・」
「おぬしが坊に出来ることは何もない。わかったなら、潔く身を引くのじゃ。今すぐここを立ち去れぃ」
「・・・ですか」
「あ?」
私はうつむいていた顔をゆっくりと上げ、千代婆さんの顔を見据えて言った。
「本当に五条さんが誰の助けも必要としてないと思ってるんですか?」
すると、千代婆さんは少したじろいだ。
まさか私が反論してくるとは思っていなかったのだろう。
「私は、そんな風に思えません」
だってあの時、すがるように手を伸ばして、
『その首謀者ってのが、僕の親友でさ』
『僕がこの手で処刑したんだ』
『ね、散々だったって言ったでしょ』
そう言った五条さんは『最強』なんかじゃなかった。
「・・・それならば、敢えて訊くがのぅ」
一瞬たじろいだものの、千代婆さんがまた私に食いつくように言った。
「おぬしが坊のために出来ることは何じゃ!?この千代が納得出来る様に申してみよ!」
「私は・・・」
「何じゃ?聞こえんぞ。ハッキリと申せ!」
「私は、」
私は言った。
「私は五条さんのために『あけづる』を作ります」
千代婆さんはその返答に虚を突かれたのように、
「・・・はぁ?」
と、呟いてガクリと肩を脱力させた。
その間も私は言葉を続けた。
「呪霊や呪詛師との闘いで、五条さんの心が傷ついて、身体が疲弊して、頭が消耗し切って、ボロボロになってしまったのなら、五条さんがまた元気になるために『あけづる』を作ります」
私は一緒に闘うことは出来ない。
その後ろを護ることも出来ない。
ずっとそばに居て、その手を握り返すことも出来ない。
いつか私が糠田が森に帰る時が来て遠く離れても、私は『つるぎ庵』でずっと『あけづる』を作り続ける。
そして、五条さんを待ち続ける。
五条さんが、いつでも来ても大丈夫なように。
私が五条さんのために出来るのはそれだけ。
たったそれだけ。
でも。
「これは、私にしか出来ないことだから」
だって、覚悟どころかそんな場面を想像したことさえなかった。
私が五条さんを庇う。
それどころか、これまででも私が危険に陥った時はいつもどこか五条さんに頼っていた。
そう、いつも。
私は、護られるばかりだった。
(私が、五条さんのために出来ること・・・)
私の顔は自然と下へと俯いて行く。
「出来ぬか」
千代婆さんは含み笑いを浮かべながら言った。
「そうであろう。しかし、それが正しい答えじゃ。そもそも坊を庇う必要などないのじゃ」
「え・・・」
「坊は一人で全ての刺客を返り討ちにしてきた。ワシにこの疵をつけた刺客もそうした有象無象の一人に過ぎん。この疵は、ワシが勝手に間に入って勝手に負ったようなものじゃ。それどころか、刺客はワシを人質に取って坊を脅そうとした。・・・もちろん、交渉する間も与えず坊が返り討ちにしたがな。それでもワシのせいで招いた状況は、まだ未熟だった坊にとっては厳しい局面だったはずじゃ・・・」
その時、まだ子供だった五条さんは千代婆さんにこう言い放ったという。
『何勝手に飛び出して来てんだよ。あんな雑魚の襲撃なんて千代婆に庇われなくてもかわせたんだよ』
『またあんな風に人質に取られることがあったら、今度は千代婆ごと敵をやるからね』
「その時、ワシは理解したのじゃ。坊がその力を発揮するのは、ひとりの時じゃ。どんな術師であろうとも、坊にとっては足手まといでしかない」
千代婆さんが言った。
「坊と肩を並べて戦う必要はない。その背後を護る必要もない。坊は、誰の助けも必要としていない。敢えて言うなら、ワシらが出来ることは、万が一我が身が敵の盾とされた時、坊の術式に敵諸共身を貫くよう坊に促すことぐらいじゃ」
「・・・・・・」
「おぬしが呪術師であれば、おぬし自身もそして坊自身にも、その覚悟が出来たであろうがな。だが、おぬしが非術師である限り、坊はおぬしを保護せざるを得ない。おぬしは坊にとって、足手まといどころかアキレス腱となりうるのだ」
「・・・・・・・」
「『最強』である五条悟に弱みが存在してはならぬのじゃ」
「・・・・・・・」
「おぬしが坊に出来ることは何もない。わかったなら、潔く身を引くのじゃ。今すぐここを立ち去れぃ」
「・・・ですか」
「あ?」
私はうつむいていた顔をゆっくりと上げ、千代婆さんの顔を見据えて言った。
「本当に五条さんが誰の助けも必要としてないと思ってるんですか?」
すると、千代婆さんは少したじろいだ。
まさか私が反論してくるとは思っていなかったのだろう。
「私は、そんな風に思えません」
だってあの時、すがるように手を伸ばして、
『その首謀者ってのが、僕の親友でさ』
『僕がこの手で処刑したんだ』
『ね、散々だったって言ったでしょ』
そう言った五条さんは『最強』なんかじゃなかった。
「・・・それならば、敢えて訊くがのぅ」
一瞬たじろいだものの、千代婆さんがまた私に食いつくように言った。
「おぬしが坊のために出来ることは何じゃ!?この千代が納得出来る様に申してみよ!」
「私は・・・」
「何じゃ?聞こえんぞ。ハッキリと申せ!」
「私は、」
私は言った。
「私は五条さんのために『あけづる』を作ります」
千代婆さんはその返答に虚を突かれたのように、
「・・・はぁ?」
と、呟いてガクリと肩を脱力させた。
その間も私は言葉を続けた。
「呪霊や呪詛師との闘いで、五条さんの心が傷ついて、身体が疲弊して、頭が消耗し切って、ボロボロになってしまったのなら、五条さんがまた元気になるために『あけづる』を作ります」
私は一緒に闘うことは出来ない。
その後ろを護ることも出来ない。
ずっとそばに居て、その手を握り返すことも出来ない。
いつか私が糠田が森に帰る時が来て遠く離れても、私は『つるぎ庵』でずっと『あけづる』を作り続ける。
そして、五条さんを待ち続ける。
五条さんが、いつでも来ても大丈夫なように。
私が五条さんのために出来るのはそれだけ。
たったそれだけ。
でも。
「これは、私にしか出来ないことだから」