第16話 五条の事情
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「これは里芋の煮物、これは青菜のお浸し、そしてこれがおはぎですじゃ」
部屋に入るなり、千代婆さんは風呂敷から惣菜の入ったタッパーを次々と取り出し始めた。
(風呂敷の中身の正体はこれだったのか・・・)
千代婆さんはテーブルにその数々のお惣菜を並べると、ドヤ顔で五条さんの方を振り返った。
「坊が子どもの頃、好んでよく食べてたものばかりですじゃ。特にこの千代の特製おはぎ。よく喜んでくださってたのぉ」
「おー、懐かしいね」
「五条の屋敷を出て以来、きっとロクなものしか食べてないと思ってたくさんこさえてきましたのじゃ」
「んー、でも、こういうのって間に合ってるんだよねー」
「あ?」
「和紗がよく作ってくれるから、こういうの」
「・・・・・・」
その時、千代婆さんのプライドにピシッとヒビが入る音が確かに聴こえた。
だけど、五条さんはのうのうと続けた。
「おはぎも和紗が作るのこし餡だから、もう粒餡には違和感あるなぁ」
「ご、五条さんっ」
私は五条さんを嗜めるように言った。
「美味しそうじゃないですか、私が作ったのより何倍も!さすが五条家最古参のお手伝いさんですね!いただきましょうよ」
「んー。でも僕、今日はイタリアンな気分なんだけどー」
「五条さん!」
その時、私はハッとして千代婆さんの方を振り向いた。
「・・・・・・」
千代婆さんは押し黙っているものの、その周囲を取り巻くオーラは怒りに満ち満ちている。
ゴゴゴゴゴ・・・と効果音が聴こえてきそうだ。
「・・・坊よ」
千代婆さんは低くくぐもった声で言った。
「その娘、坊の内弟子だか召使いだか何か知らぬが、年端も行かぬ娘と二人きりでひとつ屋根の下という状況は感心しませんぞ。何より不相応な身分のくせに、このような小娘が坊の女房気取りでいるのが気に食わん!」
と、千代婆さんは随分な言い方だ。
差し入れをあまり喜ばれなかったことに対する八つ当たりにしか思えない。
すかさず私は反論する。
「別に私は女房気取りなんて・・・!」
「だまらっしゃい!オマエには話しておらん!」
「うっ・・・!?」
だけど千代婆さんに大きな声で一喝されて、思わず黙り込んでしまった。
千代婆さんは五条さんの方へ向き直し、話を続けた。
「坊は呪術界の頂点に君臨する御三家のひとつ、五条家の当主なのじゃ。それにもうすぐ三十路を迎える。五条家の血脈を揺らがぬものにするために、そろそろしっかりと身を固めて頂きたい。今日はその話をするために、父君母君に代わって参ったのじゃ」
と、千代婆さんは再び風呂敷の中を漁り始めた。
五条さんはその姿を見ながら、
「ま~た始まった」
と、呆れ気味に呟いた。
千代婆さんは風呂敷から写真を数枚取り出して、五条さんにそれらを突き出すようにして見せた。
「こちらは、安倍晴明の血筋を引く○○家の娘じゃ。そして、こちらは楠木正成の子孫である□□家の娘。そしてさらに、こちらはアイヌの呪術連の会長の娘じゃ」
「・・・・・・」
五条さんはどこか面倒くさそうに写真を一瞥してから、
「で?」
と、首を傾げた。
「とぼけるでない、坊よ」
千代婆さんは言った。
「見合いの話が来ておるのだ。いずれも申し分のない呪術師の家系の血と術式を受け継いだ娘であり、彼女ら自身がいずれも準一級の呪術師じゃ。また、先方もこの話を熱望しておる」
そして、千代婆さんは歯のない口をニンマリと空けて笑った。
「『我が一族の血が五条の血脈に交じり一部になることはこの上ない名誉だ』とな・・・」
それを聞いて、
(・・・あ)
私の胸にまるでえぐられるような鈍い痛みが落ちてきた。
五条家という存在の大きさが、非術師の私には正直まだ理解しきれていない。
それでも、当主である五条さんには然るべき相手をという考えは理解出来た。
(呪術師の血筋・・・術式・・・)
例えうぬぼれていたとしても、わかる。
(私には立ち入れない世界の話だ)
私と五条さんは、違う世界の人間なんだ。
本当は、私達は巡り会うことさえなかったのかもしれない。
こんな風に一緒に日常を過ごすことなんて、なかったのかもしれない。
「・・・・・・」
私はそっと目を伏せた。
部屋に入るなり、千代婆さんは風呂敷から惣菜の入ったタッパーを次々と取り出し始めた。
(風呂敷の中身の正体はこれだったのか・・・)
千代婆さんはテーブルにその数々のお惣菜を並べると、ドヤ顔で五条さんの方を振り返った。
「坊が子どもの頃、好んでよく食べてたものばかりですじゃ。特にこの千代の特製おはぎ。よく喜んでくださってたのぉ」
「おー、懐かしいね」
「五条の屋敷を出て以来、きっとロクなものしか食べてないと思ってたくさんこさえてきましたのじゃ」
「んー、でも、こういうのって間に合ってるんだよねー」
「あ?」
「和紗がよく作ってくれるから、こういうの」
「・・・・・・」
その時、千代婆さんのプライドにピシッとヒビが入る音が確かに聴こえた。
だけど、五条さんはのうのうと続けた。
「おはぎも和紗が作るのこし餡だから、もう粒餡には違和感あるなぁ」
「ご、五条さんっ」
私は五条さんを嗜めるように言った。
「美味しそうじゃないですか、私が作ったのより何倍も!さすが五条家最古参のお手伝いさんですね!いただきましょうよ」
「んー。でも僕、今日はイタリアンな気分なんだけどー」
「五条さん!」
その時、私はハッとして千代婆さんの方を振り向いた。
「・・・・・・」
千代婆さんは押し黙っているものの、その周囲を取り巻くオーラは怒りに満ち満ちている。
ゴゴゴゴゴ・・・と効果音が聴こえてきそうだ。
「・・・坊よ」
千代婆さんは低くくぐもった声で言った。
「その娘、坊の内弟子だか召使いだか何か知らぬが、年端も行かぬ娘と二人きりでひとつ屋根の下という状況は感心しませんぞ。何より不相応な身分のくせに、このような小娘が坊の女房気取りでいるのが気に食わん!」
と、千代婆さんは随分な言い方だ。
差し入れをあまり喜ばれなかったことに対する八つ当たりにしか思えない。
すかさず私は反論する。
「別に私は女房気取りなんて・・・!」
「だまらっしゃい!オマエには話しておらん!」
「うっ・・・!?」
だけど千代婆さんに大きな声で一喝されて、思わず黙り込んでしまった。
千代婆さんは五条さんの方へ向き直し、話を続けた。
「坊は呪術界の頂点に君臨する御三家のひとつ、五条家の当主なのじゃ。それにもうすぐ三十路を迎える。五条家の血脈を揺らがぬものにするために、そろそろしっかりと身を固めて頂きたい。今日はその話をするために、父君母君に代わって参ったのじゃ」
と、千代婆さんは再び風呂敷の中を漁り始めた。
五条さんはその姿を見ながら、
「ま~た始まった」
と、呆れ気味に呟いた。
千代婆さんは風呂敷から写真を数枚取り出して、五条さんにそれらを突き出すようにして見せた。
「こちらは、安倍晴明の血筋を引く○○家の娘じゃ。そして、こちらは楠木正成の子孫である□□家の娘。そしてさらに、こちらはアイヌの呪術連の会長の娘じゃ」
「・・・・・・」
五条さんはどこか面倒くさそうに写真を一瞥してから、
「で?」
と、首を傾げた。
「とぼけるでない、坊よ」
千代婆さんは言った。
「見合いの話が来ておるのだ。いずれも申し分のない呪術師の家系の血と術式を受け継いだ娘であり、彼女ら自身がいずれも準一級の呪術師じゃ。また、先方もこの話を熱望しておる」
そして、千代婆さんは歯のない口をニンマリと空けて笑った。
「『我が一族の血が五条の血脈に交じり一部になることはこの上ない名誉だ』とな・・・」
それを聞いて、
(・・・あ)
私の胸にまるでえぐられるような鈍い痛みが落ちてきた。
五条家という存在の大きさが、非術師の私には正直まだ理解しきれていない。
それでも、当主である五条さんには然るべき相手をという考えは理解出来た。
(呪術師の血筋・・・術式・・・)
例えうぬぼれていたとしても、わかる。
(私には立ち入れない世界の話だ)
私と五条さんは、違う世界の人間なんだ。
本当は、私達は巡り会うことさえなかったのかもしれない。
こんな風に一緒に日常を過ごすことなんて、なかったのかもしれない。
「・・・・・・」
私はそっと目を伏せた。