第15話 京都
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そんな横顔を見つめていたら、私の視線に気づいた五条さんが振り向いて、
「ね、散々だったって言ったでしょ」
と、笑った。
私はどんな表情をすればいいのか、どんな言葉を返せばいいのかわからなくて、ただ五条さんをみつめ続けた。
「そんなみつめないでよ。照れちゃうじゃない」
いつものようにおどけてそう言うと、五条さんは私の手を握った。
「・・・・・・」
訊きたいことは、いくつもある。
五条さんの親友。
『強き者が弱きを助け、強きを挫く。そういうものでしょ?』
そう五条さんに諭したという親友。
何故、そんな人がテロなんか起こすようになったのだろう。
その人を自らの手で処刑したって・・・それはつまり。
でも、もう何も訊かずに私は五条さんの手を握り返した。
話はショックだったけれど、五条さんのことは不思議と怖いと思わなかった。
だって、五条さんの手は大きくて温かくて安心する。
初めて触れた時から、そうだった。
こうして握り返すのは初めてで、妙に恥ずかしくて、手が汗ばまないか心配で、緊張して落ち着かない。
「・・・結局、行きたい店半分も行けなかった」
緊張を紛らわせるべく私がそう呟くと、
「また来たらいいよ。今度は最初から一緒にさ」
と、五条さんの手に少し力がこもった。
「今度は春に来たらいいんじゃない?で、桜の名所でお花見しようよ」
「・・・いいですね」
「でしょ?」
そうだ、今度は桜が咲く春の季節に行こう。
そして、全部の行きたい甘味処を巡るんだ。
春になったら───。
「ハッ、ハッ、ハッ・・・」
息をきらして、ホームへの階段を駆け上る。
時間を読み間違えて、京都駅に着いたのが新幹線の出発時間ギリギリになってしまい、走る羽目になってしまった。
階段を登り切ると、
「鶴來さん、こっち!」
陵 先生が待っていて、私の方に手を振った。
「陵先生!」
と、私が言ったと同時に出発のベルが鳴り響く。
私と陵先生は慌てて新幹線に乗り込んだ。
私たちが乗り込んだ直後ドアが閉まり、新幹線はゆっくりと動き始めた。
「陵先生、本当にもう大丈夫なんですか?」
私が尋ねると、陵先生はゆっくりと頷いた。
「うん、大丈夫。生徒たちも弟たちも明日には退院できるそうだよ」
「そうなんですか、よかった・・・」
ホッと胸を撫で下ろしていたら、
「本当に、ごめん」
陵先生が言った。
「はっきりと覚えてないんだけど、結局、僕はまた『みささぎ』を暴走させた。一歩間違えてたら、呪霊だけでなく鶴來さんや弟たちも巻き込んでしまっていたかもしれない・・・」
その言葉を聞いて、昨晩の『みささぎ』が繰り広げる凄惨な場面が脳裏に浮かんだ。
「・・・でも、陵先生がいたから皆んなが助かったんです。『みささぎ』の力で、人を助ける事ができたんです。だから、もう謝らないでください」
私がそう言うと、陵先生はゆっくりと顔を上げて小さく微笑んだ。
「・・・ありがとう」
「私は何も・・・」
「でも、鶴來さんが僕を止めてくれたから弟たちを傷つけずに済んだと思うんだ」
「・・・・・・」
やっぱり、陵先生は夏油さんのことを覚えていないんだ。
それとも、元々気づいていなかった?
でも、もうどっちでもいい。
「いえ・・・。でも、無事で本当によかった」
私さえ夏油さんの存在を黙っていれば、陵先生も守れる。
そして、あのキスも。
五条さんに知られて、軽蔑されたくない。
このまま、忘れられる。
私が、何も言わなければ───。
指定席に向かうと、専門学校の皆んなが既に着席していた。
「モイちゃん」
私はモイちゃんの隣の席に座り込む。
すると、モイちゃんはニヤッと笑って言った。
「あら、お早いお戻りで」
「どこが〜。時間ギリギリで焦っちゃったよ・・・」
「ウチはてっきり戻ってこうへんと思ってたでー」
「・・・からかわないで」
そういえば、と私はキョロキョロと辺りを見回した。
五条さんに無理矢理道案内に連れ出された大野君は、ちゃんと観光できたのかな?
「大野君」
斜め前の座席にいる大野君を見つけて、私は声をかけた。
「あの、五条さんが迷惑かけてごめんね。ちゃんと観光出来た?」
「あ、うん。でも・・・」
と言いながら、大野君はズボンのポケットから財布を出して、そこから三万円を取り出した。
「あの、このお金、五条さんに返しておいてくれないかな」
「え、一体どうしたの」
「五条さんに金をやるから観光は一人で行けって言われて・・・」
「え」
何それ!
呆れて言葉を失っていたら、モイちゃんがケタケタと笑い出した。
「なんや〜、五条さんって結構大人気ないんやなぁ」
「な、何かごめんね!?大野君!」
「いや・・・」
新幹線は速度を上げて、京都を離れて東京へ向かっていく。
遠ざかって行く京都の風景を車窓から眺めながら、私は改めて思った。
(また絶対に来よう・・・!)
───この数ヶ月後。
私は再びこの京都の地を訪れることになる。
だけどその時、私の隣に五条さんがいないなんて、思いもしていなかった。
つづく
「ね、散々だったって言ったでしょ」
と、笑った。
私はどんな表情をすればいいのか、どんな言葉を返せばいいのかわからなくて、ただ五条さんをみつめ続けた。
「そんなみつめないでよ。照れちゃうじゃない」
いつものようにおどけてそう言うと、五条さんは私の手を握った。
「・・・・・・」
訊きたいことは、いくつもある。
五条さんの親友。
『強き者が弱きを助け、強きを挫く。そういうものでしょ?』
そう五条さんに諭したという親友。
何故、そんな人がテロなんか起こすようになったのだろう。
その人を自らの手で処刑したって・・・それはつまり。
でも、もう何も訊かずに私は五条さんの手を握り返した。
話はショックだったけれど、五条さんのことは不思議と怖いと思わなかった。
だって、五条さんの手は大きくて温かくて安心する。
初めて触れた時から、そうだった。
こうして握り返すのは初めてで、妙に恥ずかしくて、手が汗ばまないか心配で、緊張して落ち着かない。
「・・・結局、行きたい店半分も行けなかった」
緊張を紛らわせるべく私がそう呟くと、
「また来たらいいよ。今度は最初から一緒にさ」
と、五条さんの手に少し力がこもった。
「今度は春に来たらいいんじゃない?で、桜の名所でお花見しようよ」
「・・・いいですね」
「でしょ?」
そうだ、今度は桜が咲く春の季節に行こう。
そして、全部の行きたい甘味処を巡るんだ。
春になったら───。
「ハッ、ハッ、ハッ・・・」
息をきらして、ホームへの階段を駆け上る。
時間を読み間違えて、京都駅に着いたのが新幹線の出発時間ギリギリになってしまい、走る羽目になってしまった。
階段を登り切ると、
「鶴來さん、こっち!」
「陵先生!」
と、私が言ったと同時に出発のベルが鳴り響く。
私と陵先生は慌てて新幹線に乗り込んだ。
私たちが乗り込んだ直後ドアが閉まり、新幹線はゆっくりと動き始めた。
「陵先生、本当にもう大丈夫なんですか?」
私が尋ねると、陵先生はゆっくりと頷いた。
「うん、大丈夫。生徒たちも弟たちも明日には退院できるそうだよ」
「そうなんですか、よかった・・・」
ホッと胸を撫で下ろしていたら、
「本当に、ごめん」
陵先生が言った。
「はっきりと覚えてないんだけど、結局、僕はまた『みささぎ』を暴走させた。一歩間違えてたら、呪霊だけでなく鶴來さんや弟たちも巻き込んでしまっていたかもしれない・・・」
その言葉を聞いて、昨晩の『みささぎ』が繰り広げる凄惨な場面が脳裏に浮かんだ。
「・・・でも、陵先生がいたから皆んなが助かったんです。『みささぎ』の力で、人を助ける事ができたんです。だから、もう謝らないでください」
私がそう言うと、陵先生はゆっくりと顔を上げて小さく微笑んだ。
「・・・ありがとう」
「私は何も・・・」
「でも、鶴來さんが僕を止めてくれたから弟たちを傷つけずに済んだと思うんだ」
「・・・・・・」
やっぱり、陵先生は夏油さんのことを覚えていないんだ。
それとも、元々気づいていなかった?
でも、もうどっちでもいい。
「いえ・・・。でも、無事で本当によかった」
私さえ夏油さんの存在を黙っていれば、陵先生も守れる。
そして、あのキスも。
五条さんに知られて、軽蔑されたくない。
このまま、忘れられる。
私が、何も言わなければ───。
指定席に向かうと、専門学校の皆んなが既に着席していた。
「モイちゃん」
私はモイちゃんの隣の席に座り込む。
すると、モイちゃんはニヤッと笑って言った。
「あら、お早いお戻りで」
「どこが〜。時間ギリギリで焦っちゃったよ・・・」
「ウチはてっきり戻ってこうへんと思ってたでー」
「・・・からかわないで」
そういえば、と私はキョロキョロと辺りを見回した。
五条さんに無理矢理道案内に連れ出された大野君は、ちゃんと観光できたのかな?
「大野君」
斜め前の座席にいる大野君を見つけて、私は声をかけた。
「あの、五条さんが迷惑かけてごめんね。ちゃんと観光出来た?」
「あ、うん。でも・・・」
と言いながら、大野君はズボンのポケットから財布を出して、そこから三万円を取り出した。
「あの、このお金、五条さんに返しておいてくれないかな」
「え、一体どうしたの」
「五条さんに金をやるから観光は一人で行けって言われて・・・」
「え」
何それ!
呆れて言葉を失っていたら、モイちゃんがケタケタと笑い出した。
「なんや〜、五条さんって結構大人気ないんやなぁ」
「な、何かごめんね!?大野君!」
「いや・・・」
新幹線は速度を上げて、京都を離れて東京へ向かっていく。
遠ざかって行く京都の風景を車窓から眺めながら、私は改めて思った。
(また絶対に来よう・・・!)
───この数ヶ月後。
私は再びこの京都の地を訪れることになる。
だけどその時、私の隣に五条さんがいないなんて、思いもしていなかった。
つづく
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