第15話 京都
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木洩れ日がキラキラと揺らいで光る。
蝉時雨がひと時も止むことなく鳴り響き続けている。
私は五条さんに、京都で家族と暮らしていた時のことをすべてを話した。
私とお母さんの身に起きたこと。
何故、京都を離れて糠田が森へやって来ることになったのかも。
私がすべて話し終えるまで、五条さんはずっと黙って聞いていた。
すべてを聞き終えて、
「どうしてここに来たの?そんな辛い思い出がある場所なのに」
と、五条さんは口を開いた。
「・・・私、京都で暮らしてた時の事、ほとんど覚えてなかったんです」
私は言った。
「それは、私が幼い時のことだから仕方ない思ってたんだけど、実際に京都の町を歩いていたら次々と思い出して・・・。それでわかったんです。覚えてないんじゃなくて、ずっと忘れようとしてたんだって」
「・・・・・・」
「だって、覚えてても辛くて寂しくなるから。でも、忘れてなんていなかった」
お母さんと並んで座って眺めた鴨川の流れ。
団地の部屋の窓から顔を覗かせて、私とお父さんを呼ぶお母さんの声。
確かに、私たち三人はこの街で家族だった。
「・・・楽しい思い出もあったから」
辛い記憶と幸せな記憶は、数珠繋ぎのように連なっているから。
片方の記憶を取り出せば、一緒になって思い出せる。
「・・・・・・」
私はクスノキの前に立ち、そっと大きな幹に触れた。
クスノキの幹の周囲は、大人が五人ほど両手を広げてやっと囲めるくらいの巨木だ。
ここに来たのは、ここにもお母さんとの思い出があると思ったから。
私と自分の運命を引き換えるようにしてこの世を去ったお母さんの思いが、ここに残されてる気がして。
でも、心の中で呼びかけても、もうお母さんの声は二度と聞こえない。
「・・・でも、やっぱりここは辛い思い出の方が強い」
涙がこぼれそうになって、幹にグッと爪を立てる。
その時、背後から五条さんの手が伸びて来て、そっと私の手に重ねられた。
「ご報告がありまーす」
五条さんが言った。
「和紗のお母さん、はじめまして。僕は五条悟といいます。将来、和紗のお婿さんになりまーす」
「なっ」
私は憮然として振り返った。
その体勢が図らずも壁ドンのようになってしまい、五条さんは笑った。
「お、壁ドン。いや、幹ドン?」
「・・・またそんなこと言って」
「え、それを報告するために僕をここに連れて来たんじゃないの?」
「お母さんのお墓は糠田が森にありますよ・・・」
「でも、和紗のお母さんはここにいるような気がするよ」
「・・・・・・」
「きっと今も、和紗のことを見てる」
と、五条さんが言った後、私はクスノキを見上げた。
風が強く吹いて、枝葉がザワザワと揺れる。
まるで、お母さんが団地の窓から顔を覗かせて手を振ってるみたいに。
「あ」
ふとある事を思い出して呟くと、すかさず五条さんが尋ねてきた。
「どうしたの?」
「おばあちゃんに、五条さんがお婿さんじゃないって否定するのを忘れてた」
「否定すんの?」
「・・・ま、いっか」
「え、それってやっと認めてくれたってこと?」
「違います!きっともうおばあちゃん一家には会う事もないと思うし・・・」
「え、なんで。結婚式招待しないの?和紗側の親戚、誰も招待しないの?」
「しませんよ!っていうか結婚式もしません!」
「・・・ま、いっか。親戚関係は五条家でたくさんいるし。それに悠仁や恵に野薔薇、モイちゃんや百合子ちゃんたちもいるもんね!」
何を勝手に妄想してるのやら。
呆れ果ててしまって、もはや私は何も言えなかった。
(・・・でも)
確かにそうだ。
私にはもう家族と呼べる人がいないのかもしれないけれど、寂しくない。
大切な人たちがたくさんいるから。
私には居場所があるから。
「・・・・・・・」
ふとその時、私と五条さんの手がまだ重なったままなことに気づいた。
「あの、」
と、手を振り解こうとしたら、五条さんの手が指を絡め取るようにして私の手を握った。
そして、腰屈めて視線を私の高さに合わせ目を覗き込む。
「・・・何ですか?」
私の問いかけに答えることなく、五条さんは顔を少し傾けて、ゆっくりと私の顔に近づけた。
蝉時雨がひと時も止むことなく鳴り響き続けている。
私は五条さんに、京都で家族と暮らしていた時のことをすべてを話した。
私とお母さんの身に起きたこと。
何故、京都を離れて糠田が森へやって来ることになったのかも。
私がすべて話し終えるまで、五条さんはずっと黙って聞いていた。
すべてを聞き終えて、
「どうしてここに来たの?そんな辛い思い出がある場所なのに」
と、五条さんは口を開いた。
「・・・私、京都で暮らしてた時の事、ほとんど覚えてなかったんです」
私は言った。
「それは、私が幼い時のことだから仕方ない思ってたんだけど、実際に京都の町を歩いていたら次々と思い出して・・・。それでわかったんです。覚えてないんじゃなくて、ずっと忘れようとしてたんだって」
「・・・・・・」
「だって、覚えてても辛くて寂しくなるから。でも、忘れてなんていなかった」
お母さんと並んで座って眺めた鴨川の流れ。
団地の部屋の窓から顔を覗かせて、私とお父さんを呼ぶお母さんの声。
確かに、私たち三人はこの街で家族だった。
「・・・楽しい思い出もあったから」
辛い記憶と幸せな記憶は、数珠繋ぎのように連なっているから。
片方の記憶を取り出せば、一緒になって思い出せる。
「・・・・・・」
私はクスノキの前に立ち、そっと大きな幹に触れた。
クスノキの幹の周囲は、大人が五人ほど両手を広げてやっと囲めるくらいの巨木だ。
ここに来たのは、ここにもお母さんとの思い出があると思ったから。
私と自分の運命を引き換えるようにしてこの世を去ったお母さんの思いが、ここに残されてる気がして。
でも、心の中で呼びかけても、もうお母さんの声は二度と聞こえない。
「・・・でも、やっぱりここは辛い思い出の方が強い」
涙がこぼれそうになって、幹にグッと爪を立てる。
その時、背後から五条さんの手が伸びて来て、そっと私の手に重ねられた。
「ご報告がありまーす」
五条さんが言った。
「和紗のお母さん、はじめまして。僕は五条悟といいます。将来、和紗のお婿さんになりまーす」
「なっ」
私は憮然として振り返った。
その体勢が図らずも壁ドンのようになってしまい、五条さんは笑った。
「お、壁ドン。いや、幹ドン?」
「・・・またそんなこと言って」
「え、それを報告するために僕をここに連れて来たんじゃないの?」
「お母さんのお墓は糠田が森にありますよ・・・」
「でも、和紗のお母さんはここにいるような気がするよ」
「・・・・・・」
「きっと今も、和紗のことを見てる」
と、五条さんが言った後、私はクスノキを見上げた。
風が強く吹いて、枝葉がザワザワと揺れる。
まるで、お母さんが団地の窓から顔を覗かせて手を振ってるみたいに。
「あ」
ふとある事を思い出して呟くと、すかさず五条さんが尋ねてきた。
「どうしたの?」
「おばあちゃんに、五条さんがお婿さんじゃないって否定するのを忘れてた」
「否定すんの?」
「・・・ま、いっか」
「え、それってやっと認めてくれたってこと?」
「違います!きっともうおばあちゃん一家には会う事もないと思うし・・・」
「え、なんで。結婚式招待しないの?和紗側の親戚、誰も招待しないの?」
「しませんよ!っていうか結婚式もしません!」
「・・・ま、いっか。親戚関係は五条家でたくさんいるし。それに悠仁や恵に野薔薇、モイちゃんや百合子ちゃんたちもいるもんね!」
何を勝手に妄想してるのやら。
呆れ果ててしまって、もはや私は何も言えなかった。
(・・・でも)
確かにそうだ。
私にはもう家族と呼べる人がいないのかもしれないけれど、寂しくない。
大切な人たちがたくさんいるから。
私には居場所があるから。
「・・・・・・・」
ふとその時、私と五条さんの手がまだ重なったままなことに気づいた。
「あの、」
と、手を振り解こうとしたら、五条さんの手が指を絡め取るようにして私の手を握った。
そして、腰屈めて視線を私の高さに合わせ目を覗き込む。
「・・・何ですか?」
私の問いかけに答えることなく、五条さんは顔を少し傾けて、ゆっくりと私の顔に近づけた。