第15話 京都
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「そちらの家族は皆さんお元気なの?」
何も知らないおばあちゃんは何の気無しに尋ねてきた。
「ここで立ち話もなんだし、近くの甘味処に入ってゆっくり話さない?五条さんもご一緒に」
「いや、僕は。それならふたりで・・・」
「ごめんなさい、おばあちゃん」
五条さんの言葉に被せるように、私は言った。
「私たち、もう行かなきゃ。時間が・・・」
するとおばあちゃんは、
「ああ、そうね。ごめんなさいね、足止めさせてしまって」
と、意外とあっさり引き下がった。
そして、どこかホッとした様子だった。
「今度また京都に来るときは、事前に連絡してきなさい。家にも来て・・・家族もきっと会いたがるわ」
「・・・はい」
私は頷いたけれど、本当は社交辞令だってわかってる。
だって、こうして偶然会うまでお互いに連絡を取り合うことなんてしなかった。
おばあちゃんはジッとそんな私の顔を見てしみじみと呟いた。
「・・・咲和によく似てきたわね、本当に」
そうして微笑んで、その目は少し潤んでいるように見えた。
そうして、おばあちゃんと別れた。
咲和は、私のお母さんの名前だ。
私のお父さんとお母さんは、この京都で出会った。
お父さんは糠田が森の外の社会を知りたいと、将来は故郷に戻って『つるぎ庵』を継ぐことを前提に、京都の和菓子店に就職したそうだ。
その就職先の事務員として働いていたのが、お母さんだったそうだ。
そうして出会って、恋に落ちて、結婚して、生まれたのが私というわけだ。
ここまでは、ありふれたよくある家族の話だ。
だけど、そのありふれた家族の状況が一変する出来事が起きた。
私が、ある日突然原因不明の昏睡状態に陥ったのだ。
何日も何日も意識が戻らず眠り続ける日々が続いた。
そんな日々の中、介抱の時間を縫って毎日、お母さんはとある神社で百度参りを続けていた。
お母さんの祈りは、届いた。
私は、意識を取り戻し目を覚ました。
だけど。
だけど、私と入れ替わるように、今度はお母さんが倒れ昏睡状態になってしまったのだ。
お父さんは仕事とお母さんの介抱で家を空ける日々が続き、私はお母さんの実家の祖父母の家に預けられた。
お母さんの実家には祖父母だけでなく、長男・・・つまり私の伯父さん家族が既に同居していた。
祖父母も伯父さん家族も良い人たちで、親戚のよしみや哀れみで私のことを受け入れてくれたものの、既に出来上がっている家族の中に私の居場所はなかった。
昏睡状態のお母さんは、次第に衰弱してい行き、やがて亡くなった。
『和紗が、このラベンダー色のランドセルを背負う姿を見るの、お母さん楽しみだなぁ』
そんなささやかな願いさえ叶えることなく。
『そりゃあ和紗ちゃんのことも等しく可愛いわよ。一人娘が産んだ子どもだもの』
当時、おばあちゃんがお父さんに言い諭した言葉を思い出す。
『だけど、ウチには既に息子たち家族がいるから、和紗ちゃんをウチで育てるというのは難しいわ。ウチも余裕がないの。耕嗣郎さん、今後は御実家に帰ることも検討されてもいいんじゃない?』
それからまもなく、お父さんは私を連れて京都から糠田が森へ戻った。
それ以来、お母さんの実家と連絡を取り合うことはなかった。
「・・・ここです」
百段はあろうかという石段を登り切って、そこに鎮座する大きなクスノキの生い茂る枝葉を傘のようにして建つ社の前に、私と五条さんは辿り着いた。
おばあちゃんと別れた後、私は五条さんに付き合ってもらって、とある神社を訪れていた。
「香志和彌 神社・・・」
五条さんは、境内の片隅に立つ神社の名前が彫られた石碑を見て、そう呟いた。そして、私の方を振り向いた。
「ここってどんな後利益がある神社なの?縁結び?」
「私のお宮参りと七五三参りをした神社です」
「ほお」
「・・・この神社で、私の母は倒れていたそうです」
私がそう言うと、五条さんはハッと息を飲んだ。
何も知らないおばあちゃんは何の気無しに尋ねてきた。
「ここで立ち話もなんだし、近くの甘味処に入ってゆっくり話さない?五条さんもご一緒に」
「いや、僕は。それならふたりで・・・」
「ごめんなさい、おばあちゃん」
五条さんの言葉に被せるように、私は言った。
「私たち、もう行かなきゃ。時間が・・・」
するとおばあちゃんは、
「ああ、そうね。ごめんなさいね、足止めさせてしまって」
と、意外とあっさり引き下がった。
そして、どこかホッとした様子だった。
「今度また京都に来るときは、事前に連絡してきなさい。家にも来て・・・家族もきっと会いたがるわ」
「・・・はい」
私は頷いたけれど、本当は社交辞令だってわかってる。
だって、こうして偶然会うまでお互いに連絡を取り合うことなんてしなかった。
おばあちゃんはジッとそんな私の顔を見てしみじみと呟いた。
「・・・咲和によく似てきたわね、本当に」
そうして微笑んで、その目は少し潤んでいるように見えた。
そうして、おばあちゃんと別れた。
咲和は、私のお母さんの名前だ。
私のお父さんとお母さんは、この京都で出会った。
お父さんは糠田が森の外の社会を知りたいと、将来は故郷に戻って『つるぎ庵』を継ぐことを前提に、京都の和菓子店に就職したそうだ。
その就職先の事務員として働いていたのが、お母さんだったそうだ。
そうして出会って、恋に落ちて、結婚して、生まれたのが私というわけだ。
ここまでは、ありふれたよくある家族の話だ。
だけど、そのありふれた家族の状況が一変する出来事が起きた。
私が、ある日突然原因不明の昏睡状態に陥ったのだ。
何日も何日も意識が戻らず眠り続ける日々が続いた。
そんな日々の中、介抱の時間を縫って毎日、お母さんはとある神社で百度参りを続けていた。
お母さんの祈りは、届いた。
私は、意識を取り戻し目を覚ました。
だけど。
だけど、私と入れ替わるように、今度はお母さんが倒れ昏睡状態になってしまったのだ。
お父さんは仕事とお母さんの介抱で家を空ける日々が続き、私はお母さんの実家の祖父母の家に預けられた。
お母さんの実家には祖父母だけでなく、長男・・・つまり私の伯父さん家族が既に同居していた。
祖父母も伯父さん家族も良い人たちで、親戚のよしみや哀れみで私のことを受け入れてくれたものの、既に出来上がっている家族の中に私の居場所はなかった。
昏睡状態のお母さんは、次第に衰弱してい行き、やがて亡くなった。
『和紗が、このラベンダー色のランドセルを背負う姿を見るの、お母さん楽しみだなぁ』
そんなささやかな願いさえ叶えることなく。
『そりゃあ和紗ちゃんのことも等しく可愛いわよ。一人娘が産んだ子どもだもの』
当時、おばあちゃんがお父さんに言い諭した言葉を思い出す。
『だけど、ウチには既に息子たち家族がいるから、和紗ちゃんをウチで育てるというのは難しいわ。ウチも余裕がないの。耕嗣郎さん、今後は御実家に帰ることも検討されてもいいんじゃない?』
それからまもなく、お父さんは私を連れて京都から糠田が森へ戻った。
それ以来、お母さんの実家と連絡を取り合うことはなかった。
「・・・ここです」
百段はあろうかという石段を登り切って、そこに鎮座する大きなクスノキの生い茂る枝葉を傘のようにして建つ社の前に、私と五条さんは辿り着いた。
おばあちゃんと別れた後、私は五条さんに付き合ってもらって、とある神社を訪れていた。
「
五条さんは、境内の片隅に立つ神社の名前が彫られた石碑を見て、そう呟いた。そして、私の方を振り向いた。
「ここってどんな後利益がある神社なの?縁結び?」
「私のお宮参りと七五三参りをした神社です」
「ほお」
「・・・この神社で、私の母は倒れていたそうです」
私がそう言うと、五条さんはハッと息を飲んだ。