第13話 呪いに取り憑かれた男
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「・・・・・・」
陵 先生は、目を閉じて集中して咀嚼している。
私は固唾を飲んで、その様子を見守る。
しばらくして、陵先生は目を開いて「うん、うん・・・」と独り言のように頷いてから、私に問いかけた。
「よく出来てると言いたいけれど、僕は鶴來さんのおじいさんの『あけづる』を知らないからね。そのうえで指摘させてもらうけど・・・」
「はい」
「鶴來さんは自分が作るのと、おじいさんのと、どう違うと思う?」
「・・・・・・」
私は少し思案しながら言った。
「まず、皮の柔らかさが違います。もっとおじいちゃんのは厚みがあって、それでいて口当たりは柔らかくて」
「なるほど」
陵先生は頷いてから、答えた。
「鶴來さんのは皮が薄いのに、食感が少し重いね。もしかしたら生地を練る時間が長すぎるのかもしれないね」
「・・・練る時間、ですか」
「うん。時間が長引くほど生地の中の空気は抜けて、それで食感は変わるから」
「そっか・・・」
私が抱く違和感と疑問に即座に答えてくれる陵先生は、普段の授業の時よりずっと頼りになる。
指導を受けながら、実際に皮を作ってみる。問題点は幾らか改善されたけど、まだおじいちゃんの物とは程遠い。
先生から次々に提示された改善すべき点をノートに沢山書き込んだ後、私は天井を仰いだ。
「はぁ~・・・完全に再現するまでまだまだかかりそうだなぁ」
そんな私を見て、陵先生は笑った。
「僕が提示したのは、あくまで今朝の気温と湿度の条件下でのことだからね。また季節が変われば、また色々やり方を考えないと」
「はぁ・・・先は遠いなぁ」
「そうだね。僕も同じお菓子を作っても、毎回同じ味と質を出し続けるのは難しいって思う」
陵先生は言った。
「でも、どんな条件下でも常に同じ味と質のものを造り出すのが、職人なんだよね」
「・・・・・・」
私は、改めておじいちゃんの偉大さを知った。
和菓子職人としても、糠田が森を一人で護り続けたことにも。
「・・・ほんとうに呪術だ、これは」
「呪術?」
私のつぶやきに陵先生は驚いて目を丸めた後、ふっと噴き出して笑った。
「呪術って・・・物騒な言い方だね。普通、魔法みたいだって言わない?お菓子作りのことって」
「あ・・・」
「でも、鶴來さんのおじいさんがすごい職人さんだってことはすごく伝わってきたよ」
「・・・・・・」
「こんなに熱心なのは、やっぱりおじいさんの味を残したいから?」
「・・・それもあるんですけど」
私は言った。
話しながら、おちゃらけた五条さんの表情が浮かび上がる。
憎らしいはずなのに、なぜだろう。
「食べさせてあげたい人がいるんです。その人は私の恩人で、その人には沢山助けてもらってばかりで、私がその人に恩返しに出来ることは、おじいちゃんの味の『あけづる』を食べてもらうことぐらいしか、ないから・・・」
心と言葉は、いつもうらはらで。
本人の前では、こんなこと絶対に言えないのに。
「・・・大事な人なんだね」
陵先生は、優しい笑みを浮かべて言った。
「そんなに大事に思ってるなら、おじいさんの味にそこまでこだわる必要ないんじゃないかな。その気持ちがあれば、鶴來さん自身が作る味でも、その人は喜んでくれるんじゃないのかな」
「・・・それじゃ意味はないんです」
だって、五条さんが興味があるのは、私自身じゃない。
「あくまでも、おじいちゃんが造り出した味と同じじゃないと・・・」
「・・・そうなのかな・・・」
「・・・あ、もうこんな時間」
と、私はこの話題を断ち切るように教室の壁掛け時計を見上げて言った。
時刻は17時を過ぎていた。
「先生、ありがとうございました。先生のアドバイスを参考にして、また試行錯誤してみます!」
「あ、うん・・・」
そして、調理台の片付けを始める。
すると、陵先生が尋ねてきた。
「ところで、『あけづる』って名前はどういう意味があるの?」
「あ、えっと・・・」
私は一瞬、答えあぐねた。
まさか、呪玉『明埜乃舞降鶴乃御砡 』の略称だとは言えない。
私は固唾を飲んで、その様子を見守る。
しばらくして、陵先生は目を開いて「うん、うん・・・」と独り言のように頷いてから、私に問いかけた。
「よく出来てると言いたいけれど、僕は鶴來さんのおじいさんの『あけづる』を知らないからね。そのうえで指摘させてもらうけど・・・」
「はい」
「鶴來さんは自分が作るのと、おじいさんのと、どう違うと思う?」
「・・・・・・」
私は少し思案しながら言った。
「まず、皮の柔らかさが違います。もっとおじいちゃんのは厚みがあって、それでいて口当たりは柔らかくて」
「なるほど」
陵先生は頷いてから、答えた。
「鶴來さんのは皮が薄いのに、食感が少し重いね。もしかしたら生地を練る時間が長すぎるのかもしれないね」
「・・・練る時間、ですか」
「うん。時間が長引くほど生地の中の空気は抜けて、それで食感は変わるから」
「そっか・・・」
私が抱く違和感と疑問に即座に答えてくれる陵先生は、普段の授業の時よりずっと頼りになる。
指導を受けながら、実際に皮を作ってみる。問題点は幾らか改善されたけど、まだおじいちゃんの物とは程遠い。
先生から次々に提示された改善すべき点をノートに沢山書き込んだ後、私は天井を仰いだ。
「はぁ~・・・完全に再現するまでまだまだかかりそうだなぁ」
そんな私を見て、陵先生は笑った。
「僕が提示したのは、あくまで今朝の気温と湿度の条件下でのことだからね。また季節が変われば、また色々やり方を考えないと」
「はぁ・・・先は遠いなぁ」
「そうだね。僕も同じお菓子を作っても、毎回同じ味と質を出し続けるのは難しいって思う」
陵先生は言った。
「でも、どんな条件下でも常に同じ味と質のものを造り出すのが、職人なんだよね」
「・・・・・・」
私は、改めておじいちゃんの偉大さを知った。
和菓子職人としても、糠田が森を一人で護り続けたことにも。
「・・・ほんとうに呪術だ、これは」
「呪術?」
私のつぶやきに陵先生は驚いて目を丸めた後、ふっと噴き出して笑った。
「呪術って・・・物騒な言い方だね。普通、魔法みたいだって言わない?お菓子作りのことって」
「あ・・・」
「でも、鶴來さんのおじいさんがすごい職人さんだってことはすごく伝わってきたよ」
「・・・・・・」
「こんなに熱心なのは、やっぱりおじいさんの味を残したいから?」
「・・・それもあるんですけど」
私は言った。
話しながら、おちゃらけた五条さんの表情が浮かび上がる。
憎らしいはずなのに、なぜだろう。
「食べさせてあげたい人がいるんです。その人は私の恩人で、その人には沢山助けてもらってばかりで、私がその人に恩返しに出来ることは、おじいちゃんの味の『あけづる』を食べてもらうことぐらいしか、ないから・・・」
心と言葉は、いつもうらはらで。
本人の前では、こんなこと絶対に言えないのに。
「・・・大事な人なんだね」
陵先生は、優しい笑みを浮かべて言った。
「そんなに大事に思ってるなら、おじいさんの味にそこまでこだわる必要ないんじゃないかな。その気持ちがあれば、鶴來さん自身が作る味でも、その人は喜んでくれるんじゃないのかな」
「・・・それじゃ意味はないんです」
だって、五条さんが興味があるのは、私自身じゃない。
「あくまでも、おじいちゃんが造り出した味と同じじゃないと・・・」
「・・・そうなのかな・・・」
「・・・あ、もうこんな時間」
と、私はこの話題を断ち切るように教室の壁掛け時計を見上げて言った。
時刻は17時を過ぎていた。
「先生、ありがとうございました。先生のアドバイスを参考にして、また試行錯誤してみます!」
「あ、うん・・・」
そして、調理台の片付けを始める。
すると、陵先生が尋ねてきた。
「ところで、『あけづる』って名前はどういう意味があるの?」
「あ、えっと・・・」
私は一瞬、答えあぐねた。
まさか、呪玉『