第13話 呪いに取り憑かれた男
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「そっかー。そりゃそうだよねー」
気まずい沈黙を、五条さんがカラッとした言い方で破った。
「呪術のことは呪術師、和菓子のことは和菓子職人に聞くのが一番だよ」
「・・・・・・」
「ずぶの素人のクセに知ったかぶりでアレコレ口出してゴメンねー」
「・・・いえ、あの・・・」
「ぜひぜひ陵 先生に協力してもらってよ。それで完璧な味の『あけづる』を食べられるなら、僕は大歓迎だよー」
「・・・・・・」
「あ、いっそ陵先生と付き合っちゃえばー?」
「・・・は?」
突拍子もない発言に、私の口から失望の声が出た。
五条さんはそんな私に構うことなく、いいこと思いついたと言わんばかりに続ける。
「で、『つるぎ庵』に婿入りしてもらえばー?で、二人で店を切り盛りしていくの。いいじゃん、理想的じゃない?職人夫婦ってさ。ずぶの素人の僕より、陵先生の方がよっぽどふさわしいじゃない」
「・・・そんなこと、私は望んでません」
私は振り絞るように震える声で言った。
だけど、五条さんは聞こえなかったのか聞こうとしなかったのか、
「んー?何ー?」
と、首を傾げる。
そのとぼけた表情に私はカッとなって、
「・・・っ!」
流し台にあった皿洗い用スポンジを五条さんに向かって投げつけた。
しかし、スポンジは無下限バリアに弾かれて、五条さんに当たることなく床に落ちた。
すると、五条さんは言った。
「おー、怖。物に当たるなんてヒスは嫌われるよ?」
「・・・婿入り婿入りって・・・」
私の苛立ちは余計に収まらない。
「勝手なこと言わないで!私の人生は私が決めます!だから、婿入りがどうとかなんとか五条さんに言われる筋合いありません!それに先生に協力してもらうことにしたのは・・・!」
だけど、その続きは言葉に出来なかった。
私は投げつけたスポンジを拾うと、クルッと流し台に向き直し、ガシガシとお弁当箱を洗ってカゴに干した後、
「あ、和紗」
呼び止める五条さんを振り切って、自分の部屋に逃げ込んだ。
(何よ・・・何よ!何よ!五条さんの馬鹿!!)
苛立ちは収まらず、私は部屋に置いたクッションを投げようとしてむんずと掴み上げた。だけど、
「・・・・・・」
意味のない行為だと気づいて、そっとクッションを掴んだ手を降ろした。
(・・・私はただ)
五条さんに完璧な『あけづる』を食べてもらって、喜んでもらいたいだけなのに。
さっき言えなかった言葉の続き。
どうして、素直に伝えられないの。
明日から早速、陵先生の協力のもと研究が始まる。
やる気満々だったのに、今の私はすっかり気落ちしていた。
翌日の放課後。
下校する皆と逆走して、私はひとり実習室に向かった。
両手には今朝作った『あけづる』と、これまで『あけづる』を作った際に記録してきた製造日記を抱えている。
製造日記には、その日の気温・湿度、材料の分量、水の温度、蒸した時間、食べた感想などを細かく記録している。
実習室に辿り着き、早速陵先生にそれを見せると、
「わあ、これはすごいな」
と、感嘆の声を上げた。
「すごく研究熱心だね」
「振り返ってみると、自分がお菓子作りじゃなくて何かの実験をしてるような気分になります」
「確かに。でも、実際菓子の製造ってそういう実験の側面もあると思うよ」
そう話しながら、陵先生はパラパラと日記のページをめくる。
「材料はすごくシンプルだね。産地はこれで確定なのかな?」
「はい。帳簿と照らし合わせて調べたから間違いないと思います」
「そっか・・・」
と、パタンと日記を閉じて、陵先生は私が作った『あけづる』を手に取った。
「で、これが『あけづる』」
そして、観察するようにしげしげと眺めた後、生地の弾力を確かめるように指先でつつく。それから半分に割って、中の餡子の香りを確かめる。
「いただいてもいいかな?」
「はい。どうぞ」
「いただきます」
と、陵先生は一口『あけづる』を食べた。
気まずい沈黙を、五条さんがカラッとした言い方で破った。
「呪術のことは呪術師、和菓子のことは和菓子職人に聞くのが一番だよ」
「・・・・・・」
「ずぶの素人のクセに知ったかぶりでアレコレ口出してゴメンねー」
「・・・いえ、あの・・・」
「ぜひぜひ
「・・・・・・」
「あ、いっそ陵先生と付き合っちゃえばー?」
「・・・は?」
突拍子もない発言に、私の口から失望の声が出た。
五条さんはそんな私に構うことなく、いいこと思いついたと言わんばかりに続ける。
「で、『つるぎ庵』に婿入りしてもらえばー?で、二人で店を切り盛りしていくの。いいじゃん、理想的じゃない?職人夫婦ってさ。ずぶの素人の僕より、陵先生の方がよっぽどふさわしいじゃない」
「・・・そんなこと、私は望んでません」
私は振り絞るように震える声で言った。
だけど、五条さんは聞こえなかったのか聞こうとしなかったのか、
「んー?何ー?」
と、首を傾げる。
そのとぼけた表情に私はカッとなって、
「・・・っ!」
流し台にあった皿洗い用スポンジを五条さんに向かって投げつけた。
しかし、スポンジは無下限バリアに弾かれて、五条さんに当たることなく床に落ちた。
すると、五条さんは言った。
「おー、怖。物に当たるなんてヒスは嫌われるよ?」
「・・・婿入り婿入りって・・・」
私の苛立ちは余計に収まらない。
「勝手なこと言わないで!私の人生は私が決めます!だから、婿入りがどうとかなんとか五条さんに言われる筋合いありません!それに先生に協力してもらうことにしたのは・・・!」
だけど、その続きは言葉に出来なかった。
私は投げつけたスポンジを拾うと、クルッと流し台に向き直し、ガシガシとお弁当箱を洗ってカゴに干した後、
「あ、和紗」
呼び止める五条さんを振り切って、自分の部屋に逃げ込んだ。
(何よ・・・何よ!何よ!五条さんの馬鹿!!)
苛立ちは収まらず、私は部屋に置いたクッションを投げようとしてむんずと掴み上げた。だけど、
「・・・・・・」
意味のない行為だと気づいて、そっとクッションを掴んだ手を降ろした。
(・・・私はただ)
五条さんに完璧な『あけづる』を食べてもらって、喜んでもらいたいだけなのに。
さっき言えなかった言葉の続き。
どうして、素直に伝えられないの。
明日から早速、陵先生の協力のもと研究が始まる。
やる気満々だったのに、今の私はすっかり気落ちしていた。
翌日の放課後。
下校する皆と逆走して、私はひとり実習室に向かった。
両手には今朝作った『あけづる』と、これまで『あけづる』を作った際に記録してきた製造日記を抱えている。
製造日記には、その日の気温・湿度、材料の分量、水の温度、蒸した時間、食べた感想などを細かく記録している。
実習室に辿り着き、早速陵先生にそれを見せると、
「わあ、これはすごいな」
と、感嘆の声を上げた。
「すごく研究熱心だね」
「振り返ってみると、自分がお菓子作りじゃなくて何かの実験をしてるような気分になります」
「確かに。でも、実際菓子の製造ってそういう実験の側面もあると思うよ」
そう話しながら、陵先生はパラパラと日記のページをめくる。
「材料はすごくシンプルだね。産地はこれで確定なのかな?」
「はい。帳簿と照らし合わせて調べたから間違いないと思います」
「そっか・・・」
と、パタンと日記を閉じて、陵先生は私が作った『あけづる』を手に取った。
「で、これが『あけづる』」
そして、観察するようにしげしげと眺めた後、生地の弾力を確かめるように指先でつつく。それから半分に割って、中の餡子の香りを確かめる。
「いただいてもいいかな?」
「はい。どうぞ」
「いただきます」
と、陵先生は一口『あけづる』を食べた。