第12話 回想、糠田が森
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工房は仕込み途中の餡子やら粉がそのままになっていた。
和紗もそれに気がついて、
「後で片付けなきゃ・・・」
と、疲れた声で呟いて二階へ上がった。
そして、骨壺を仏壇に置いて二人で手を合わせた。
それでもまだ、その小さな壺に戸惑いを覚える。
「・・・・・・」
以前に泊まった時にはしなかった、お香の匂いがする。
神聖物を作る前に、職人は清めのお香を焚くという。
「おじいちゃん、あの日『あけづる』作るつもりだったんですよ」
思った通り、和紗はそう言った。
そして、すすり泣く声が聞こえてきた。
「・・・・・・」
僕はそっと和紗の背後に近づいて、そのまま後ろから抱きしめた。
すると和紗は驚いてしまって、涙も止まってしまったようだ。
「・・・五条さんも泣いたんですか」
「ん?」
唐突に尋ねられて、僕は首を傾げた。
「去年のクリスマスイブ、散々なことあったって」
「・・・・・・」
言われて、当時のことがフラッシュバックする。
夏油傑の遺体は、僕の独断で勝手に処理した。
夏油が『呪霊操術』で取り込んだ呪霊を警戒した上層部に、遺体を引き渡す様に指令されていたが無視した。
すぐに上層部のジジイ共に呼び出されて、こってり絞られた。
その帰りに、硝子と偶然会った。
「なんで引き渡さなかったの」
硝子が言った。
「私に処理をさせないため?」
「・・・・・・」
「変に気つかってんじゃねーよ。そんな柔な女じゃないっつーの」
そう言って、硝子は煙草にライターで火をつけようとする。
「・・・それ、逆さだろ」
「・・・・・・」
僕の言葉に、硝子は手を止めた。
「別に気なんかつかってねぇよ」
そう言って、僕は硝子の前から立ち去った。
・・・確かに上層部に遺体を引き渡せば、医師である硝子がその処理をさせられていただろう。
それを避けたいのもあったけど、それだけじゃなかった。
上層部のいいように扱われたくなかったんだ。
僕のたった一人の親友を。
「・・・うん」
和紗の問いかけに、僕は頷いた。
本当は、泣いてなんかない。
泣いたって、その涙に何の意味もない。
泣いて、アイツを止められたのなら、取り戻せたのなら、最初からそうしてた。
泣いて綺麗に心を洗い流すよりも、怒りで後悔で憎しみで悲しみで塗れた心で、呪うしか術を知らないから。
でも、和紗。
君の涙には意味があるからさ。
泣いて泣いて泣いて泣いたらいいんだ。
それから、和紗を心配した百合子ちゃんが泊りに来てくれた。
和紗の部屋からは、賑やかな笑い声が聞こえてくる。いくらか元気を取り戻したようだ。
僕は安堵して、布団に潜り込んだ。
(さて、ここからが問題だよな)
人々を呪いから護る『あけづる』が失われた。
この家の地下にある『明埜乃舞降鶴乃御砡』の残穢に、もう呪力は戻らない。
この土地に染み付いた呪いは、どうなっていくのだろう。
翌日。ちょっとした事件が起きた。
『つるぎ庵』の常連のケント君という男の子が、園外保育中に行方不明になってしまったのだ。
その話を聞いて、僕と和紗は探しに行くことにした。
和紗は絶対いないと言ったけれど、僕は『額多ヶ守』を探しに行くことにした。
「さて」
と、瑞垣を飛び越えて雑木林の中に入り込んだ。
ケント君を探すことが目的なんだけど、特級仮想怨霊『額多之君』のことも気になる。
ケント君を探すついでに、『額多之君』のことを確認することにした。
(ついでって、そもそも『額多之君』の調査にきたんだよなぁ)
ずいぶんと脱線しているな、と思いながら先を進む。
生い茂った木々の枝先や葉はいっさい陽の光を通さず、辺りは夜のように真っ暗だ。
「おーい、ケントくーん?」
と、呼びかける。
『額多ヶ守』はたいして広くないから、居たら声は聞こえるはずだ。
だけど、返事はない。やっぱり、ここには来ていないってことか。
「ん?」
引き返そうとしたその時だった。
当たりの風景が、かすかにグニャリと歪んだ。
真っ暗な雑木林の風景に、まるで上からセル画が重ねられるように異なる風景が薄らと見える。
「・・・・・・」
僕は、マスクの下の目を凝らした。
雑木林に重ねられる風景。
建物と庭園の様が見える。
しかし歪みはすぐに収まって、元の雑木林の風景に戻った。
和紗もそれに気がついて、
「後で片付けなきゃ・・・」
と、疲れた声で呟いて二階へ上がった。
そして、骨壺を仏壇に置いて二人で手を合わせた。
それでもまだ、その小さな壺に戸惑いを覚える。
「・・・・・・」
以前に泊まった時にはしなかった、お香の匂いがする。
神聖物を作る前に、職人は清めのお香を焚くという。
「おじいちゃん、あの日『あけづる』作るつもりだったんですよ」
思った通り、和紗はそう言った。
そして、すすり泣く声が聞こえてきた。
「・・・・・・」
僕はそっと和紗の背後に近づいて、そのまま後ろから抱きしめた。
すると和紗は驚いてしまって、涙も止まってしまったようだ。
「・・・五条さんも泣いたんですか」
「ん?」
唐突に尋ねられて、僕は首を傾げた。
「去年のクリスマスイブ、散々なことあったって」
「・・・・・・」
言われて、当時のことがフラッシュバックする。
夏油傑の遺体は、僕の独断で勝手に処理した。
夏油が『呪霊操術』で取り込んだ呪霊を警戒した上層部に、遺体を引き渡す様に指令されていたが無視した。
すぐに上層部のジジイ共に呼び出されて、こってり絞られた。
その帰りに、硝子と偶然会った。
「なんで引き渡さなかったの」
硝子が言った。
「私に処理をさせないため?」
「・・・・・・」
「変に気つかってんじゃねーよ。そんな柔な女じゃないっつーの」
そう言って、硝子は煙草にライターで火をつけようとする。
「・・・それ、逆さだろ」
「・・・・・・」
僕の言葉に、硝子は手を止めた。
「別に気なんかつかってねぇよ」
そう言って、僕は硝子の前から立ち去った。
・・・確かに上層部に遺体を引き渡せば、医師である硝子がその処理をさせられていただろう。
それを避けたいのもあったけど、それだけじゃなかった。
上層部のいいように扱われたくなかったんだ。
僕のたった一人の親友を。
「・・・うん」
和紗の問いかけに、僕は頷いた。
本当は、泣いてなんかない。
泣いたって、その涙に何の意味もない。
泣いて、アイツを止められたのなら、取り戻せたのなら、最初からそうしてた。
泣いて綺麗に心を洗い流すよりも、怒りで後悔で憎しみで悲しみで塗れた心で、呪うしか術を知らないから。
でも、和紗。
君の涙には意味があるからさ。
泣いて泣いて泣いて泣いたらいいんだ。
それから、和紗を心配した百合子ちゃんが泊りに来てくれた。
和紗の部屋からは、賑やかな笑い声が聞こえてくる。いくらか元気を取り戻したようだ。
僕は安堵して、布団に潜り込んだ。
(さて、ここからが問題だよな)
人々を呪いから護る『あけづる』が失われた。
この家の地下にある『明埜乃舞降鶴乃御砡』の残穢に、もう呪力は戻らない。
この土地に染み付いた呪いは、どうなっていくのだろう。
翌日。ちょっとした事件が起きた。
『つるぎ庵』の常連のケント君という男の子が、園外保育中に行方不明になってしまったのだ。
その話を聞いて、僕と和紗は探しに行くことにした。
和紗は絶対いないと言ったけれど、僕は『額多ヶ守』を探しに行くことにした。
「さて」
と、瑞垣を飛び越えて雑木林の中に入り込んだ。
ケント君を探すことが目的なんだけど、特級仮想怨霊『額多之君』のことも気になる。
ケント君を探すついでに、『額多之君』のことを確認することにした。
(ついでって、そもそも『額多之君』の調査にきたんだよなぁ)
ずいぶんと脱線しているな、と思いながら先を進む。
生い茂った木々の枝先や葉はいっさい陽の光を通さず、辺りは夜のように真っ暗だ。
「おーい、ケントくーん?」
と、呼びかける。
『額多ヶ守』はたいして広くないから、居たら声は聞こえるはずだ。
だけど、返事はない。やっぱり、ここには来ていないってことか。
「ん?」
引き返そうとしたその時だった。
当たりの風景が、かすかにグニャリと歪んだ。
真っ暗な雑木林の風景に、まるで上からセル画が重ねられるように異なる風景が薄らと見える。
「・・・・・・」
僕は、マスクの下の目を凝らした。
雑木林に重ねられる風景。
建物と庭園の様が見える。
しかし歪みはすぐに収まって、元の雑木林の風景に戻った。