第12話 回想、糠田が森
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鉛色の雲はどんどん上空に広がっていき、チラチラと雪を降らせ始めた。
そんな空に昇ってゆく煙を目印に、斎場へと急ぐ。
その煙は「和紗はここにいる」と知らせているみたいだ。
斎場に辿り着いてすぐに和紗の姿を見つけた。
和紗は広場でひとり佇んでいて、斎場の煙突から空へ立ち上っていく煙を見上げている。
こちらの方には背中を向けていて、僕が来ていることに気づいていない。
「和紗」
僕が呼びかけると、和紗はゆっくりこちらを振り向いた。
「五条さん・・・」
と、和紗は驚くというよりも虚をつかれたような顔をしている。
何で僕?
今になって、そんな疑問が浮かび上がる。
よくよく考えたらおかしな話だ。
泣くわけない、こんな出会ったばかりの人間の前で。
それに、何で僕はこんなところに駆けつけているんだろう。
まず確認することは、他のところにあるんじゃないの?
任務先の人間に、いちいち感情移入してられないんじゃなかったっけ。
そんなことを考えていたら。
「おっと」
和紗がこっちに駆けつけてきて、飛びつくように僕に抱き着いた。
それは予期せぬ行動だったから、受け入れる身構えなんてしてなくて、少し後ろによろけてしまった。
抱き留めた和紗の身体はひどく冷えていた。
「うっ、うぅう~・・・・」
和紗は息を殺す様に僕の胸に顔を埋める。
背中に回した両手にグッと力が入る。
だけど。
「う、うぁ、うわあぁぁぁぁ~~ん!!」
堪えきれず、子どものように泣き始めた。
それは、今まで見てきたしっかり者の和紗からは想像できない姿だった。
大きくなる泣き声と共に、冷えていた身体が少しずつ熱くなっていく。
この時、僕はようやく気が付いた。
何で、僕なのか。
それは、この子はしっかりしてるんじゃなくて、ずっとしっかりしなきゃって思ってきたんだ。
たったひとりの家族のおじいちゃんの前では。
親身になってくれる友達の前では。
この糠田が森では。ずっとずっと。
「よしよし。よく頑張ったね」
そう言って、僕は泣きじゃくる和紗の頭を撫でた。
何で僕は?
その答えは、まだわからないままだけれど。
「教師?五条さんは和菓子職人と全く関係ないお仕事なんですね?」
「お勤め先は東京ですって?」
「それじゃあ、耕造さんの後を継ぐなんて、無理な話ですよねぇ」
「『あけづる』の作り方を伝授されたわけでもないと・・・」
「じゃあ、『つるぎ庵』はやっぱり博さんが継ぐのね」
精進落としの場で、和紗の親戚の面々からあれこれ詮索される。
和紗のそばで付き添うことに難癖をつけられて、黙らせるために「和紗の婿だ」と言ったら、こうなった。
(めんどくせ)
もし僕がおじいちゃんに後継ぎとして指名されていたら、『つるぎ庵』がもたらしてくれる自分たちの立場や利益が危うくなると不安に思ったのだろう。
まだ年若く、後ろ盾もない和紗なら、自分たちの良いように出来る。
だけど、婿(ウソだけど)である僕がいるのはマズイと感じたらしい。
守銭奴に保身馬鹿。
なんかコイツら、上層部のジジィ共と似てるな。
「店のことなら僕が出る幕もないですよー」
僕は言ってやった。
「だって、和紗がいる。和紗が『つるぎ庵』を継げばいい」
すると親戚のジジババ共は一瞬黙り込んだ後、ドッと笑って一蹴した。
「和紗ちゃんが『つるぎ庵』の当主に?まだ若いのに、しかも女の子なのに、無理よぉ」
「継ぐとしても、あと二十年ぐらい先でないと・・・」
おまけに、コイツらの脳みそアンモナイトじゃないかってくらい考えが古臭い。
「・・・・・・」
和紗は反論することなく、黙って茶を注ぎに席を回っていた。
僕も、これ以上は何も言わなかった。
そんな居心地の悪い葬儀の場を終えて、和紗と僕はおじいちゃんを連れて『つるぎ庵』に戻った。
そんな空に昇ってゆく煙を目印に、斎場へと急ぐ。
その煙は「和紗はここにいる」と知らせているみたいだ。
斎場に辿り着いてすぐに和紗の姿を見つけた。
和紗は広場でひとり佇んでいて、斎場の煙突から空へ立ち上っていく煙を見上げている。
こちらの方には背中を向けていて、僕が来ていることに気づいていない。
「和紗」
僕が呼びかけると、和紗はゆっくりこちらを振り向いた。
「五条さん・・・」
と、和紗は驚くというよりも虚をつかれたような顔をしている。
何で僕?
今になって、そんな疑問が浮かび上がる。
よくよく考えたらおかしな話だ。
泣くわけない、こんな出会ったばかりの人間の前で。
それに、何で僕はこんなところに駆けつけているんだろう。
まず確認することは、他のところにあるんじゃないの?
任務先の人間に、いちいち感情移入してられないんじゃなかったっけ。
そんなことを考えていたら。
「おっと」
和紗がこっちに駆けつけてきて、飛びつくように僕に抱き着いた。
それは予期せぬ行動だったから、受け入れる身構えなんてしてなくて、少し後ろによろけてしまった。
抱き留めた和紗の身体はひどく冷えていた。
「うっ、うぅう~・・・・」
和紗は息を殺す様に僕の胸に顔を埋める。
背中に回した両手にグッと力が入る。
だけど。
「う、うぁ、うわあぁぁぁぁ~~ん!!」
堪えきれず、子どものように泣き始めた。
それは、今まで見てきたしっかり者の和紗からは想像できない姿だった。
大きくなる泣き声と共に、冷えていた身体が少しずつ熱くなっていく。
この時、僕はようやく気が付いた。
何で、僕なのか。
それは、この子はしっかりしてるんじゃなくて、ずっとしっかりしなきゃって思ってきたんだ。
たったひとりの家族のおじいちゃんの前では。
親身になってくれる友達の前では。
この糠田が森では。ずっとずっと。
「よしよし。よく頑張ったね」
そう言って、僕は泣きじゃくる和紗の頭を撫でた。
何で僕は?
その答えは、まだわからないままだけれど。
「教師?五条さんは和菓子職人と全く関係ないお仕事なんですね?」
「お勤め先は東京ですって?」
「それじゃあ、耕造さんの後を継ぐなんて、無理な話ですよねぇ」
「『あけづる』の作り方を伝授されたわけでもないと・・・」
「じゃあ、『つるぎ庵』はやっぱり博さんが継ぐのね」
精進落としの場で、和紗の親戚の面々からあれこれ詮索される。
和紗のそばで付き添うことに難癖をつけられて、黙らせるために「和紗の婿だ」と言ったら、こうなった。
(めんどくせ)
もし僕がおじいちゃんに後継ぎとして指名されていたら、『つるぎ庵』がもたらしてくれる自分たちの立場や利益が危うくなると不安に思ったのだろう。
まだ年若く、後ろ盾もない和紗なら、自分たちの良いように出来る。
だけど、婿(ウソだけど)である僕がいるのはマズイと感じたらしい。
守銭奴に保身馬鹿。
なんかコイツら、上層部のジジィ共と似てるな。
「店のことなら僕が出る幕もないですよー」
僕は言ってやった。
「だって、和紗がいる。和紗が『つるぎ庵』を継げばいい」
すると親戚のジジババ共は一瞬黙り込んだ後、ドッと笑って一蹴した。
「和紗ちゃんが『つるぎ庵』の当主に?まだ若いのに、しかも女の子なのに、無理よぉ」
「継ぐとしても、あと二十年ぐらい先でないと・・・」
おまけに、コイツらの脳みそアンモナイトじゃないかってくらい考えが古臭い。
「・・・・・・」
和紗は反論することなく、黙って茶を注ぎに席を回っていた。
僕も、これ以上は何も言わなかった。
そんな居心地の悪い葬儀の場を終えて、和紗と僕はおじいちゃんを連れて『つるぎ庵』に戻った。