第12話 回想、糠田が森
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呪術師の慢性的な人材不足。
それは単純なマンパワーだけでなく、一人ひとりのクオリティの低下のこともさす。
「ったく、この程度の任務さえクリアできる術師もいないのー?」
緊急任務を終えて、朝方自宅マンションへ戻った時だった。
スマホの着信音が鳴った。相手は糠田が森に置いてきた『窓』だった。
何か異変があったら、連絡するように命令していた。
「もしもしー?」
応答すると早速、『窓』は僕に報告を始めた。
『額多ヶ守』、学校、墓場・・・『呪い』の吹き溜まりのみにいた蠅頭が、それら以外の生活圏にまで出現し始めたこと。
そして、人には寄り付かずにいたのが、村人にまとわりつくようになり、安眠妨害や疲労など幾つかの健康被害が出ていること。
「・・・『つるぎ庵』は?」
「えっ」
思わぬ質問に、『窓』は戸惑いの声を上げた。
僕は構わずせっつくように言った。
「『つるぎ庵』っていう和菓子屋がある。そこの店主はどうしてる?確認して」
「は、はい」
と、『窓』はいったん電話を切った。
折り返しを待たずに、僕はすぐに外へと駆け出した。
脳裏に、別れ際に見た和紗のどこか寂しそうな微笑みが浮かんだ。
今、糠田が森に起きている異変のことよりも、和紗のことが気がかりだった。
東京駅から金沢行の新幹線に乗り、金沢からは術式による高速移動でバッサリとショートカットした。
そのため、昼前には糠田が森へ到着した。
そのまま直接『つるぎ庵』へ向かう。だが、開店しておらず戸は閉められたままだった。
休みを知らせる張り紙もなく、突然だったことが伺われた。
「・・・・・・」
とりあえず、誰かに話を聞けないかと人を探して歩き出した。
それからすぐに通りがかった住人に話を聞くことが出来た。
話を聞き終えて、僕は足早に公民館へ向かった。
「五条さん!?」
公民館に着いてすぐ、和紗の友達の百合子ちゃんが僕の姿を見て声を上げた。
「どうしてここに?」
「和紗は?」
百合子ちゃんの問いかけを無視して、僕は尋ねた。
百合子ちゃんは目を瞬かせながらも、
「ついさっき出棺して、和紗ちゃんは斎場に・・・」
と答えながら、百合子ちゃんの目は次第に潤んでいく。
「ごめんなさい。私が泣いても仕方ないのに。でも、あまりにも突然のことで・・・」
「・・・・・・」
昨日の明け方。
いつもどおりに仕込みをしていた時に、おじいちゃんは突然倒れ救急搬送され、そのまま息を引き取ったという。
この公民館で通夜と葬儀がひらかれ、その喪主は和紗が務めていると、通りすがりの住人から聞いた。
「和紗の様子は?」
百合子ちゃんはグスっと鼻を鳴らしながら答えた。
「さっきも立派に喪主の挨拶も済ませて・・・いつものしっかり者の和紗ちゃんだった」
百合子ちゃんから話を聞いて、その様子がありありと頭に浮かんだ。
あの子のことだ。きちんと勤めをやりきったことだろう。
取り乱して憔悴しきっていないか気がかりだったから、少し安心した。
「でも、和紗ちゃん一度も泣いてなかった・・・」
百合子ちゃんは言った。
「そんなのおかしいでしょ?和紗ちゃんが一番泣きたいはずなのに・・・!」
百合子ちゃんの言葉に、僕はハッとした。
「きっと、和紗ちゃん本当は全然大丈夫じゃないんだと思う。だけど、ひとりだと、私たちの前だと、泣けないんだと思う・・・」
「・・・・・・」
「お願い。五条さん、和紗ちゃんのそばに」
百合子ちゃんは言った。
「きっと、五条さんの前なら・・・」
「斎場ってどこにあるの?」
百合子ちゃんの言葉も終わらぬうちに、僕は尋ねた。
何で僕?
そんな疑問は、今は頭に浮かばなかった。
それは単純なマンパワーだけでなく、一人ひとりのクオリティの低下のこともさす。
「ったく、この程度の任務さえクリアできる術師もいないのー?」
緊急任務を終えて、朝方自宅マンションへ戻った時だった。
スマホの着信音が鳴った。相手は糠田が森に置いてきた『窓』だった。
何か異変があったら、連絡するように命令していた。
「もしもしー?」
応答すると早速、『窓』は僕に報告を始めた。
『額多ヶ守』、学校、墓場・・・『呪い』の吹き溜まりのみにいた蠅頭が、それら以外の生活圏にまで出現し始めたこと。
そして、人には寄り付かずにいたのが、村人にまとわりつくようになり、安眠妨害や疲労など幾つかの健康被害が出ていること。
「・・・『つるぎ庵』は?」
「えっ」
思わぬ質問に、『窓』は戸惑いの声を上げた。
僕は構わずせっつくように言った。
「『つるぎ庵』っていう和菓子屋がある。そこの店主はどうしてる?確認して」
「は、はい」
と、『窓』はいったん電話を切った。
折り返しを待たずに、僕はすぐに外へと駆け出した。
脳裏に、別れ際に見た和紗のどこか寂しそうな微笑みが浮かんだ。
今、糠田が森に起きている異変のことよりも、和紗のことが気がかりだった。
東京駅から金沢行の新幹線に乗り、金沢からは術式による高速移動でバッサリとショートカットした。
そのため、昼前には糠田が森へ到着した。
そのまま直接『つるぎ庵』へ向かう。だが、開店しておらず戸は閉められたままだった。
休みを知らせる張り紙もなく、突然だったことが伺われた。
「・・・・・・」
とりあえず、誰かに話を聞けないかと人を探して歩き出した。
それからすぐに通りがかった住人に話を聞くことが出来た。
話を聞き終えて、僕は足早に公民館へ向かった。
「五条さん!?」
公民館に着いてすぐ、和紗の友達の百合子ちゃんが僕の姿を見て声を上げた。
「どうしてここに?」
「和紗は?」
百合子ちゃんの問いかけを無視して、僕は尋ねた。
百合子ちゃんは目を瞬かせながらも、
「ついさっき出棺して、和紗ちゃんは斎場に・・・」
と答えながら、百合子ちゃんの目は次第に潤んでいく。
「ごめんなさい。私が泣いても仕方ないのに。でも、あまりにも突然のことで・・・」
「・・・・・・」
昨日の明け方。
いつもどおりに仕込みをしていた時に、おじいちゃんは突然倒れ救急搬送され、そのまま息を引き取ったという。
この公民館で通夜と葬儀がひらかれ、その喪主は和紗が務めていると、通りすがりの住人から聞いた。
「和紗の様子は?」
百合子ちゃんはグスっと鼻を鳴らしながら答えた。
「さっきも立派に喪主の挨拶も済ませて・・・いつものしっかり者の和紗ちゃんだった」
百合子ちゃんから話を聞いて、その様子がありありと頭に浮かんだ。
あの子のことだ。きちんと勤めをやりきったことだろう。
取り乱して憔悴しきっていないか気がかりだったから、少し安心した。
「でも、和紗ちゃん一度も泣いてなかった・・・」
百合子ちゃんは言った。
「そんなのおかしいでしょ?和紗ちゃんが一番泣きたいはずなのに・・・!」
百合子ちゃんの言葉に、僕はハッとした。
「きっと、和紗ちゃん本当は全然大丈夫じゃないんだと思う。だけど、ひとりだと、私たちの前だと、泣けないんだと思う・・・」
「・・・・・・」
「お願い。五条さん、和紗ちゃんのそばに」
百合子ちゃんは言った。
「きっと、五条さんの前なら・・・」
「斎場ってどこにあるの?」
百合子ちゃんの言葉も終わらぬうちに、僕は尋ねた。
何で僕?
そんな疑問は、今は頭に浮かばなかった。