第12話 回想、糠田が森
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その晩、『つるぎ庵』の二階の住居部分、鶴來家に泊まらせてもらうことにした。
「ったく、博のやろぉ~。『あけづる』をオートなんちゃらで作るだぉ~?ふざけやがってぇ~」
和紗のおじいちゃんは、缶ビールを一気に六本空けてすっかりベロベロになっている。
「おいっ、和紗っ。和紗~、もう一缶ビール持ってこーい」
というおじいちゃんの呼びかけに、
「もうダメ!おじいちゃん、さっきので最後にするって言ったでしょ!」
と、和紗はピシャリと言った。
「これ以上飲んで明日に影響出たらどうするの?お店開けられなくなるよ」
そして、「あ、明日ゴミ出しの日だ」と各部屋のゴミ袋を集めてバタバタしている。
「・・・・・・」
ほんと働き者だなぁ。店の手伝い、学校、店番、家事ってずっと休みなく動きっぱなしじゃないの。
そんな風に感心しながら和紗の後姿に視線を送っていたら、
「よく出来た娘だろう。俺の孫娘は」
と、ふいにおじいちゃんに声をかけられて顔を向き直した。
「よく働く。気も利く。思いやりもある。そして見ての通りなかなかの上玉だ。和紗は俺の自慢の孫娘だ」
と、おじいちゃんは自分の言葉一つ一つに頷きながら話す。
「俺の余生の楽しみは、和紗の花嫁姿を見ることだ。嫁に出すまでは、何があってもくたばるわけにはいかねぇのよ」
「・・・ひょっとして、遠回しに僕に頼んでる?」
「あぁ?」
「僕に和紗を嫁にもらってほしいって」
と、冗談めかして言ったら、おじいちゃんは急に酔いが醒めて真剣な表情で言った。
「ばっかやろう!オメーみたいな得体のしれねぇ目隠し野郎に和紗をやれるかってんだ」
「やだなぁ。冗談だって」
僕は言った。
「でも、そのお楽しみは当分お預けになりそうだね。和紗は嫁に行くよりも、おじいちゃんと『つるぎ庵』をやっていきたいみたいだし」
「・・・・・・」
「それなら嫁に出すより、婿を取った方が・・・」
「『つるぎ庵』は、俺の代で店を畳もうと思ってる」
「・・・・・・」
突然の重大発言に、一瞬言葉を失った。
「・・・いやいやいやいや。それは困るよー。そしたらもう『あけづる』が食べられなくなる・・・」
「倅は・・・和紗の父親は拒んだ。『つるぎ庵』を継ぐことを。この糠田が森で『あけづる』を作り続けることは、人柱になるようなものだと」
「・・・・・・」
「俺は、自分を人柱とは思っていない。ただ、誰かがやらなきゃならんことが自分が出来ることだから精一杯してきただけだ。・・・だが、倅の言わんとしたこともわかる。だから、和紗には違う生き方を見つけてほしい。この『つるぎ庵』に縛り付けたくない」
「でも、和紗は・・・」
「・・・和紗が心残りなのは、父親のことだろう」
「・・・・・・」
「和紗の父親は、和紗を置いてこの糠田が森を出て行った。何の音沙汰もないが、きっとどこかでのうのうと生きておる」
出て行った訳を問いかけようとして飲み込んだ。
問いかけたところで、答えが返ってくると思えなかったからだ。
それに僕が立ち入ることでもない。
「俺は倅とは縁を切った。もはや他人だ。どこで何をしてようが知ったこっちゃない。だが、和紗は違う。俺の前では決して口には出さんが、きっと会いたいと思ってるだろう」
「・・・・・・」
「和紗は、『つるぎ庵』を続けていればきっといつか父親が帰って来ると、心の奥底で信じておる」
『呪い』のようなものだ、とおじいちゃんは呟いた。
「だから『つるぎ庵』は、俺が畳む。そのせいで、この糠田が森が変わってしまっても・・・」
そう言い終わると、おじいちゃんはゆっくりと畳に横たわった。
「・・・喋りすぎた。少し横になる・・・」
そして、そのまま眠ってしまった。
「ったく、博のやろぉ~。『あけづる』をオートなんちゃらで作るだぉ~?ふざけやがってぇ~」
和紗のおじいちゃんは、缶ビールを一気に六本空けてすっかりベロベロになっている。
「おいっ、和紗っ。和紗~、もう一缶ビール持ってこーい」
というおじいちゃんの呼びかけに、
「もうダメ!おじいちゃん、さっきので最後にするって言ったでしょ!」
と、和紗はピシャリと言った。
「これ以上飲んで明日に影響出たらどうするの?お店開けられなくなるよ」
そして、「あ、明日ゴミ出しの日だ」と各部屋のゴミ袋を集めてバタバタしている。
「・・・・・・」
ほんと働き者だなぁ。店の手伝い、学校、店番、家事ってずっと休みなく動きっぱなしじゃないの。
そんな風に感心しながら和紗の後姿に視線を送っていたら、
「よく出来た娘だろう。俺の孫娘は」
と、ふいにおじいちゃんに声をかけられて顔を向き直した。
「よく働く。気も利く。思いやりもある。そして見ての通りなかなかの上玉だ。和紗は俺の自慢の孫娘だ」
と、おじいちゃんは自分の言葉一つ一つに頷きながら話す。
「俺の余生の楽しみは、和紗の花嫁姿を見ることだ。嫁に出すまでは、何があってもくたばるわけにはいかねぇのよ」
「・・・ひょっとして、遠回しに僕に頼んでる?」
「あぁ?」
「僕に和紗を嫁にもらってほしいって」
と、冗談めかして言ったら、おじいちゃんは急に酔いが醒めて真剣な表情で言った。
「ばっかやろう!オメーみたいな得体のしれねぇ目隠し野郎に和紗をやれるかってんだ」
「やだなぁ。冗談だって」
僕は言った。
「でも、そのお楽しみは当分お預けになりそうだね。和紗は嫁に行くよりも、おじいちゃんと『つるぎ庵』をやっていきたいみたいだし」
「・・・・・・」
「それなら嫁に出すより、婿を取った方が・・・」
「『つるぎ庵』は、俺の代で店を畳もうと思ってる」
「・・・・・・」
突然の重大発言に、一瞬言葉を失った。
「・・・いやいやいやいや。それは困るよー。そしたらもう『あけづる』が食べられなくなる・・・」
「倅は・・・和紗の父親は拒んだ。『つるぎ庵』を継ぐことを。この糠田が森で『あけづる』を作り続けることは、人柱になるようなものだと」
「・・・・・・」
「俺は、自分を人柱とは思っていない。ただ、誰かがやらなきゃならんことが自分が出来ることだから精一杯してきただけだ。・・・だが、倅の言わんとしたこともわかる。だから、和紗には違う生き方を見つけてほしい。この『つるぎ庵』に縛り付けたくない」
「でも、和紗は・・・」
「・・・和紗が心残りなのは、父親のことだろう」
「・・・・・・」
「和紗の父親は、和紗を置いてこの糠田が森を出て行った。何の音沙汰もないが、きっとどこかでのうのうと生きておる」
出て行った訳を問いかけようとして飲み込んだ。
問いかけたところで、答えが返ってくると思えなかったからだ。
それに僕が立ち入ることでもない。
「俺は倅とは縁を切った。もはや他人だ。どこで何をしてようが知ったこっちゃない。だが、和紗は違う。俺の前では決して口には出さんが、きっと会いたいと思ってるだろう」
「・・・・・・」
「和紗は、『つるぎ庵』を続けていればきっといつか父親が帰って来ると、心の奥底で信じておる」
『呪い』のようなものだ、とおじいちゃんは呟いた。
「だから『つるぎ庵』は、俺が畳む。そのせいで、この糠田が森が変わってしまっても・・・」
そう言い終わると、おじいちゃんはゆっくりと畳に横たわった。
「・・・喋りすぎた。少し横になる・・・」
そして、そのまま眠ってしまった。