第12話 回想、糠田が森
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それでも、念のため忠告しておく。
「君、『額多ヶ守』で言ってたよね。本当に『いる』って。君は見えてるのかな?」
すると和紗は動揺する顔を見せたが、答えようとしなかった。
「見えてるなら、連中とは目を合わせないほうがいい。見られてるってわかった時点で、襲い掛かってくる連中もいるからね」
それから僕は和紗と別れ、再び『額多ヶ守』に戻った。
「もしもし」
「『額多之君』なんていないけどー?」
再び『額多ヶ守』へ来た後、七海に電話をかけた。
「それよりもこの不自然な蠅頭の数は何~?こっちの方が問題じゃないの?今んとこ実害はないみたいだけど」
「そちらの任務は貴方が自ら引き受けたのでしょう」
「うん」
「なら自力で調査してください。私にきかないでください」
それに、と七海は言葉を続けた。
「参考になりそうな資料は引継ぎの時に渡しましたよね」
「資料?」
「『額多ヶ守』に関する文献のコピーです。渡したでしょう」
「・・・ああ!」
思い出した。A4サイズの茶封筒。確かに渡されたけど。
「新幹線に忘れて来ちゃった☆」
「・・・・・・」
電話の向こうの七海は黙ってるけれど、こめかみに青筋立てているのが目に浮かんだ。
「もっかい送ってくんない?スマホにでいいからさ」
「無理です。こちらもスクショはとってないですし、今は私も別の任務に向かっているので」
「じゃあ、その資料とやらにはどんなことが書いてあったの?」
「・・・人任せがすぎますね」
「そんなこと言わず呪術師同士助け合おうぜぇ」
「・・・はぁ」
と、七海は呆れかえったように溜息をついた。
七海が高専で見つけた糠田が森に関する資料は、薄っぺらい古文書が一冊だけだったという。
その古文書に書かれていたのは、『額多ヶ守』の伝説。
その後、糠田が森に『子どもを生贄に捧げざるを得なかった母親たちの無念』から生まれた積年の呪いが現れたこと。
(それでこの蠅頭か・・・)
そして、その呪いからこの土地 を加護する
『明埜乃舞降鶴乃御砡 』という呪物のこと。
尚、その詳細については書かれておらず一切不明。
(ずいぶん大雑把だこと)
今回の任務、つまるところは。
その一。特級仮想怨霊『額多之君』の受肉と出現の確認。この『額多之君』が糠田が森の住人に害するものであれば、直ちに祓う。
その二。この糠田が森に異常発生する蠅頭の被害状況の確認。しかしその被害状況は、既に和紗の話を聞いた限り、ほぼ皆無と思われる。
(むしろ、SNSに踊らされてやって来る生身の人間の方に振り回されてるって感じ)
そこで、その三。蠅頭の抑止力と思われる呪物『明埜乃舞降鶴乃御砡』の存在の確認。この呪物は相当古いものであるので、現在も蠅頭に有効であるかは疑わしい。おそらくその代替物があるので、その確認。
あるいは、より大きな呪いの存在が魔除けとなっていると思われる。
「さて、『額多之君』」
と、僕は『額多ヶ守』の雑木林を振り返った。
「君はここの守り神なりうるのかな?」
調査の諸々が済んで夕刻、再び『つるぎ庵』に足を運んだ。
この時間になるとさすがに客足も落ち着いたようで、さっきのような長蛇の列はもうなかった。
暖簾をくぐると、地元の子どもらしい男の子に笑顔で話しかける和紗がいた。
「はい、どうぞ」
と、和紗は腰を屈めて男の子に色とりどりの金平糖が入った袋を手渡した。
「どうもありがとう。落とさないように気をつけてね」
「うん!」
と、男の子は元気よく頷くと勢いよく駆け出して店の外へかけ出て行った。
そんな男の子の後姿を見送った後、和紗は僕に気が付いた。その瞬間、さっきまでの笑顔は消えて驚きと少し警戒するような顔つきになった。
「やっ」
僕は片手を上げて挨拶して、和紗のそばへ歩み寄った。
『明埜乃舞降鶴乃御砡』。その代替物となりうるもの。
すぐにわかった。
それは、この『つるぎ庵』でつくられる『あけづる』だ。
「君、『額多ヶ守』で言ってたよね。本当に『いる』って。君は見えてるのかな?」
すると和紗は動揺する顔を見せたが、答えようとしなかった。
「見えてるなら、連中とは目を合わせないほうがいい。見られてるってわかった時点で、襲い掛かってくる連中もいるからね」
それから僕は和紗と別れ、再び『額多ヶ守』に戻った。
「もしもし」
「『額多之君』なんていないけどー?」
再び『額多ヶ守』へ来た後、七海に電話をかけた。
「それよりもこの不自然な蠅頭の数は何~?こっちの方が問題じゃないの?今んとこ実害はないみたいだけど」
「そちらの任務は貴方が自ら引き受けたのでしょう」
「うん」
「なら自力で調査してください。私にきかないでください」
それに、と七海は言葉を続けた。
「参考になりそうな資料は引継ぎの時に渡しましたよね」
「資料?」
「『額多ヶ守』に関する文献のコピーです。渡したでしょう」
「・・・ああ!」
思い出した。A4サイズの茶封筒。確かに渡されたけど。
「新幹線に忘れて来ちゃった☆」
「・・・・・・」
電話の向こうの七海は黙ってるけれど、こめかみに青筋立てているのが目に浮かんだ。
「もっかい送ってくんない?スマホにでいいからさ」
「無理です。こちらもスクショはとってないですし、今は私も別の任務に向かっているので」
「じゃあ、その資料とやらにはどんなことが書いてあったの?」
「・・・人任せがすぎますね」
「そんなこと言わず呪術師同士助け合おうぜぇ」
「・・・はぁ」
と、七海は呆れかえったように溜息をついた。
七海が高専で見つけた糠田が森に関する資料は、薄っぺらい古文書が一冊だけだったという。
その古文書に書かれていたのは、『額多ヶ守』の伝説。
その後、糠田が森に『子どもを生贄に捧げざるを得なかった母親たちの無念』から生まれた積年の呪いが現れたこと。
(それでこの蠅頭か・・・)
そして、その呪いから
『
尚、その詳細については書かれておらず一切不明。
(ずいぶん大雑把だこと)
今回の任務、つまるところは。
その一。特級仮想怨霊『額多之君』の受肉と出現の確認。この『額多之君』が糠田が森の住人に害するものであれば、直ちに祓う。
その二。この糠田が森に異常発生する蠅頭の被害状況の確認。しかしその被害状況は、既に和紗の話を聞いた限り、ほぼ皆無と思われる。
(むしろ、SNSに踊らされてやって来る生身の人間の方に振り回されてるって感じ)
そこで、その三。蠅頭の抑止力と思われる呪物『明埜乃舞降鶴乃御砡』の存在の確認。この呪物は相当古いものであるので、現在も蠅頭に有効であるかは疑わしい。おそらくその代替物があるので、その確認。
あるいは、より大きな呪いの存在が魔除けとなっていると思われる。
「さて、『額多之君』」
と、僕は『額多ヶ守』の雑木林を振り返った。
「君はここの守り神なりうるのかな?」
調査の諸々が済んで夕刻、再び『つるぎ庵』に足を運んだ。
この時間になるとさすがに客足も落ち着いたようで、さっきのような長蛇の列はもうなかった。
暖簾をくぐると、地元の子どもらしい男の子に笑顔で話しかける和紗がいた。
「はい、どうぞ」
と、和紗は腰を屈めて男の子に色とりどりの金平糖が入った袋を手渡した。
「どうもありがとう。落とさないように気をつけてね」
「うん!」
と、男の子は元気よく頷くと勢いよく駆け出して店の外へかけ出て行った。
そんな男の子の後姿を見送った後、和紗は僕に気が付いた。その瞬間、さっきまでの笑顔は消えて驚きと少し警戒するような顔つきになった。
「やっ」
僕は片手を上げて挨拶して、和紗のそばへ歩み寄った。
『明埜乃舞降鶴乃御砡』。その代替物となりうるもの。
すぐにわかった。
それは、この『つるぎ庵』でつくられる『あけづる』だ。