第12話 回想、糠田が森
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ショックで一瞬フリーズしていていると、
「店先の張り紙とホームページでもお知らせしているのですが」
と、その売り子は言った。
なんだか確認しなかったこっちの落ち度だと言われたような気がした。
いや、確かにそうだと言われればそうなんだけどさ。
それでも、どこか割り切れない。
しかし、このまま手ぶらで帰るわけにはいかない(任務があるから帰らないけど)。
気を改めて、予約すると言ったら『あけづる』の受け渡しはなんと一年後になるという。
ショックで再びフリーズしていたら、売り子は「職人ひとりで作っていること」「販売は月2回に限定している」など事情を語り始めた。
店側には店側の事情ってものがあるのだろう。
それは、わかる。
が、期待に胸を膨らませていた分、こちらの落胆は大きい。
そして、食べ物の恨みは何よりも恐ろしいものだ。
僕はすっかり平常心を失っていた。
「もっと企業努力しようよ。需要と供給が全然釣り合ってないよ。そうやって勿体つけて、希少価値釣り上げて、購買意欲を掻き立てて、儲けたいんだろうけどさ。そういう殿様商売って、どうかと思うよ〜」
と、ついキレてこんなことを口走っていた。
すると、売り子は口を真一文字に結んで、グッとこらえるような顔をした。
泣くかな?と思っていたら、
「お言葉ですが」
彼女はこっちの顔をキッと見据えて言った。
「『あけづる』は当店の創業以来、門外不出、一子相伝の作り方で当主が精魂込めて作っています。殿様商売だなんて、決してそんな驕った考えはしていません」
そうやって売り子とにらみ合っていたら、『つるぎ庵』の当主だというジイチャンが出てきて、ついには共同経営者(物産展で会ったオッサンだ)も出てきて僕はバックヤードに連れていかれた。
すっかり質の悪いクレーマー扱いだ(実際そんなカンジになっちゃったけど)。
共同経営者のオッサンに何度も頭を下げられて、お詫びの菓子折りをたんまりと持たされて、僕は『つるぎ庵』を後にした。
「さて、と」
『あけづる』を購入するという大きな目的は果たせなかったが、任務がまだある。
『つるぎ庵』から国道沿いの道を歩いていくと、間もなくして目的地に着いた。
様々な種類の木々が極限までに延びて絡み合い、鬱蒼と生い茂る雑木林。
その周辺を劣化で崩れかけた瑞垣が取り囲んでいる。
のどかな田舎の風景で、ポツンとそこだけが異様な空気を漂わせて浮いている。
───禁足地『額多ヶ守』。
平安時代の有力貴族の娘で才色兼備な『額多之君』が愛する夫に裏切られ、激情の果てに夫たちを呪殺し、都を追われこの土地に送られ、失意の日々を過ごした邸宅跡。
そして、『額多之君』は自らの呪いで呪霊と化し、祓われるまでの数百年、この土地に住む人々を呪いと恐怖で支配したという。
現地に住む人間とマニアックなオカルト好きしか知らない民間伝承だったが、近年SNSで急速に拡散され注目されたことで特級仮想怨霊として登録している『額多之君』が、受肉する危険性が急激に増したという。
任務は、特級仮想怨霊の受肉、またその呪いによる影響の有無を確認すること。
(思ったより小さいんだな)
『額多ヶ守』の周辺を歩きながら中の様子を伺う。
真昼間というのに、雑木林の中は夜闇のように真っ暗だ。
「・・・・・・・」
目隠しを外して、雑木林の中に目を凝らす。
『額多之君』のものとおぼしき大きな呪力は見受けられない。
(受肉の可能性は今のところなさそうだ)
と、目隠しを元に戻す。
しかし・・・。
「どうなってんのかね、これ」
『額多ヶ守』周辺には蠅頭があちこち徘徊していた。
「キ``キュルルルル・・・・」
蠅頭は木陰に隠れながら、遠巻きにこちらの様子を伺っている。
呪いは、人の負の感情から生まれる。
こんなド田舎とはいえ、人間が存在する限り、そこに呪いは存在するだろう。
(蠅頭くらいの呪いが存在するのは不思議じゃない。だけど・・・ちょっと数が多くない?)
やはり、仮想怨霊の影響か。
そんなことを考えて歩き続けていたら、いつの間にか『額多ヶ守』を一周して最初の場所に戻ってきてきた。
「ん?」
するとそこに、さっきの『つるぎ庵』の売り子がいた。
さらにその手には、なんと『あけづる』があった。
「店先の張り紙とホームページでもお知らせしているのですが」
と、その売り子は言った。
なんだか確認しなかったこっちの落ち度だと言われたような気がした。
いや、確かにそうだと言われればそうなんだけどさ。
それでも、どこか割り切れない。
しかし、このまま手ぶらで帰るわけにはいかない(任務があるから帰らないけど)。
気を改めて、予約すると言ったら『あけづる』の受け渡しはなんと一年後になるという。
ショックで再びフリーズしていたら、売り子は「職人ひとりで作っていること」「販売は月2回に限定している」など事情を語り始めた。
店側には店側の事情ってものがあるのだろう。
それは、わかる。
が、期待に胸を膨らませていた分、こちらの落胆は大きい。
そして、食べ物の恨みは何よりも恐ろしいものだ。
僕はすっかり平常心を失っていた。
「もっと企業努力しようよ。需要と供給が全然釣り合ってないよ。そうやって勿体つけて、希少価値釣り上げて、購買意欲を掻き立てて、儲けたいんだろうけどさ。そういう殿様商売って、どうかと思うよ〜」
と、ついキレてこんなことを口走っていた。
すると、売り子は口を真一文字に結んで、グッとこらえるような顔をした。
泣くかな?と思っていたら、
「お言葉ですが」
彼女はこっちの顔をキッと見据えて言った。
「『あけづる』は当店の創業以来、門外不出、一子相伝の作り方で当主が精魂込めて作っています。殿様商売だなんて、決してそんな驕った考えはしていません」
そうやって売り子とにらみ合っていたら、『つるぎ庵』の当主だというジイチャンが出てきて、ついには共同経営者(物産展で会ったオッサンだ)も出てきて僕はバックヤードに連れていかれた。
すっかり質の悪いクレーマー扱いだ(実際そんなカンジになっちゃったけど)。
共同経営者のオッサンに何度も頭を下げられて、お詫びの菓子折りをたんまりと持たされて、僕は『つるぎ庵』を後にした。
「さて、と」
『あけづる』を購入するという大きな目的は果たせなかったが、任務がまだある。
『つるぎ庵』から国道沿いの道を歩いていくと、間もなくして目的地に着いた。
様々な種類の木々が極限までに延びて絡み合い、鬱蒼と生い茂る雑木林。
その周辺を劣化で崩れかけた瑞垣が取り囲んでいる。
のどかな田舎の風景で、ポツンとそこだけが異様な空気を漂わせて浮いている。
───禁足地『額多ヶ守』。
平安時代の有力貴族の娘で才色兼備な『額多之君』が愛する夫に裏切られ、激情の果てに夫たちを呪殺し、都を追われこの土地に送られ、失意の日々を過ごした邸宅跡。
そして、『額多之君』は自らの呪いで呪霊と化し、祓われるまでの数百年、この土地に住む人々を呪いと恐怖で支配したという。
現地に住む人間とマニアックなオカルト好きしか知らない民間伝承だったが、近年SNSで急速に拡散され注目されたことで特級仮想怨霊として登録している『額多之君』が、受肉する危険性が急激に増したという。
任務は、特級仮想怨霊の受肉、またその呪いによる影響の有無を確認すること。
(思ったより小さいんだな)
『額多ヶ守』の周辺を歩きながら中の様子を伺う。
真昼間というのに、雑木林の中は夜闇のように真っ暗だ。
「・・・・・・・」
目隠しを外して、雑木林の中に目を凝らす。
『額多之君』のものとおぼしき大きな呪力は見受けられない。
(受肉の可能性は今のところなさそうだ)
と、目隠しを元に戻す。
しかし・・・。
「どうなってんのかね、これ」
『額多ヶ守』周辺には蠅頭があちこち徘徊していた。
「キ``キュルルルル・・・・」
蠅頭は木陰に隠れながら、遠巻きにこちらの様子を伺っている。
呪いは、人の負の感情から生まれる。
こんなド田舎とはいえ、人間が存在する限り、そこに呪いは存在するだろう。
(蠅頭くらいの呪いが存在するのは不思議じゃない。だけど・・・ちょっと数が多くない?)
やはり、仮想怨霊の影響か。
そんなことを考えて歩き続けていたら、いつの間にか『額多ヶ守』を一周して最初の場所に戻ってきてきた。
「ん?」
するとそこに、さっきの『つるぎ庵』の売り子がいた。
さらにその手には、なんと『あけづる』があった。