第12話 回想、糠田が森
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(・・・呪力・・・?)
それは、本当に本当に微かで。
おそらく呪術師でも僕以外だったなら、きっと見過ごしていただろう。
それほどの微量だけど、この『あけづる』には呪力込められている。
(しかも、これは『反転術式』による正のエネルギー)
イートインコーナーに目を遣り、『あけづる』を頬張る客の様子を伺う。
その様子に異変はない。食べても害はないってことだ。
わかってはいたけれど、実際の様子を見て確信した。
「・・・・・・」
自分もその場で『あけづる』を一口頬張った。
すると。
(あ・・・)
何の味覚も感じないはずだった。
だけど、柔らかな甘さが舌の上から伝って、体中に広がっていくのを感じる。
まるで、乾ききった土に注がれた水がゆっくりとゆっくりと染み渡っていくように。
反転術式なら間に合っている。
そのはずなのに、この『あけづる』に込められた呪力は、行き届かないところまでエネルギーを運び、癒してくれているみたいだ。
(っていうか、めちゃくちゃ美味い!)
そう。呪力うんぬん以前に、『あけづる』は単純にめちゃくちゃ美味かった。
あっという間に食べ終わってしまい、もうひとつ買おうと再び店先に並んだ。
だけど、
「申し訳ございません!只今『あけづる』完売いたしました!」
と、否応なく列を打ち切られてしまった。
「ちょっと」
呼び込みをしていたスーツ姿のオッサンにすぐさま声をかける。
「本当にもうないの?この『あけづる』ってヤツ」
「は、はい。ありがたいことに予定数完売いたしまして・・・」
「マジで?じゃあ明日になればまた販売するの?」
「いえ、当店が出店するのは本日で最終でございます」
「そう。それじゃあ」
言いながら、僕は懐からクレジットカードを取り出し、オッサンの目の前に突き出した。
「今すぐ僕のために作ってよ」
「ブ、ブラックカード・・・!」
「そっ。だから金ならいくらかかってもいいよ」
「いや、しかし、それは致しかねます!」
「なんで?」
「あいにく当主がこの場に不在だからです」
「アンタが当主じゃないの?」
「私?私は『つるぎ庵』の共同経営者で営業担当の宇良木と申し・・・」
「その当主はどこに?」
どうでもいいオッサンの言葉を遮り、僕は尋ねた。
すると、オッサンは答えた。
「当主は『つるぎ庵』に・・・店がある糠田が森におります」
糠田が森。
そこは石川県にある山間部の小さな小さな村落だそうだ。
Googlemapで調べてみても、周囲には何にもなく、ポツリとその地名が表示されている。
(こりゃあ今度の有給休暇の行き先は決定だな)
糠田が森へ『あけづる』を買えるだけ買い占めて、その後は金沢で観光して温泉でしっぽり。
うん、これで間違いない。
・・・しかし、呪術師は人手不足が常のブラック業界。
有給休暇の申請どころか、日取りのめどさえ立たない。
年末年始も実家の行事諸々に駆り出されて休みなく働いた。
(ほーんと、ブラックここに極まれりだな)
正月も明けて、直に始まる三学期に向けての教員会議のため高専に向かった。
「七海ぃ、元気?」
会議室へ向かう途中の廊下で、後輩の七海と出くわした。
久しぶりだったのですこぶるにこやかな笑顔をふりまいたというのに、七海はニコリともせず、
「五条さん、お疲れ様です。失礼します」
と、僕の横を通り過ぎていく。
「ちょいちょいちょいちょい。ちょっと待ってよ」
と声をかけると、七海は立ち止まりクルリと振り返った。
「何ですか。何か用ですか?」
「久々に先輩に会ったってのにずいぶんとそっけないんじゃない?」
「それは失礼しました。これから出張なもので」
「出張?どこまで?」
それは、本当に本当に微かで。
おそらく呪術師でも僕以外だったなら、きっと見過ごしていただろう。
それほどの微量だけど、この『あけづる』には呪力込められている。
(しかも、これは『反転術式』による正のエネルギー)
イートインコーナーに目を遣り、『あけづる』を頬張る客の様子を伺う。
その様子に異変はない。食べても害はないってことだ。
わかってはいたけれど、実際の様子を見て確信した。
「・・・・・・」
自分もその場で『あけづる』を一口頬張った。
すると。
(あ・・・)
何の味覚も感じないはずだった。
だけど、柔らかな甘さが舌の上から伝って、体中に広がっていくのを感じる。
まるで、乾ききった土に注がれた水がゆっくりとゆっくりと染み渡っていくように。
反転術式なら間に合っている。
そのはずなのに、この『あけづる』に込められた呪力は、行き届かないところまでエネルギーを運び、癒してくれているみたいだ。
(っていうか、めちゃくちゃ美味い!)
そう。呪力うんぬん以前に、『あけづる』は単純にめちゃくちゃ美味かった。
あっという間に食べ終わってしまい、もうひとつ買おうと再び店先に並んだ。
だけど、
「申し訳ございません!只今『あけづる』完売いたしました!」
と、否応なく列を打ち切られてしまった。
「ちょっと」
呼び込みをしていたスーツ姿のオッサンにすぐさま声をかける。
「本当にもうないの?この『あけづる』ってヤツ」
「は、はい。ありがたいことに予定数完売いたしまして・・・」
「マジで?じゃあ明日になればまた販売するの?」
「いえ、当店が出店するのは本日で最終でございます」
「そう。それじゃあ」
言いながら、僕は懐からクレジットカードを取り出し、オッサンの目の前に突き出した。
「今すぐ僕のために作ってよ」
「ブ、ブラックカード・・・!」
「そっ。だから金ならいくらかかってもいいよ」
「いや、しかし、それは致しかねます!」
「なんで?」
「あいにく当主がこの場に不在だからです」
「アンタが当主じゃないの?」
「私?私は『つるぎ庵』の共同経営者で営業担当の宇良木と申し・・・」
「その当主はどこに?」
どうでもいいオッサンの言葉を遮り、僕は尋ねた。
すると、オッサンは答えた。
「当主は『つるぎ庵』に・・・店がある糠田が森におります」
糠田が森。
そこは石川県にある山間部の小さな小さな村落だそうだ。
Googlemapで調べてみても、周囲には何にもなく、ポツリとその地名が表示されている。
(こりゃあ今度の有給休暇の行き先は決定だな)
糠田が森へ『あけづる』を買えるだけ買い占めて、その後は金沢で観光して温泉でしっぽり。
うん、これで間違いない。
・・・しかし、呪術師は人手不足が常のブラック業界。
有給休暇の申請どころか、日取りのめどさえ立たない。
年末年始も実家の行事諸々に駆り出されて休みなく働いた。
(ほーんと、ブラックここに極まれりだな)
正月も明けて、直に始まる三学期に向けての教員会議のため高専に向かった。
「七海ぃ、元気?」
会議室へ向かう途中の廊下で、後輩の七海と出くわした。
久しぶりだったのですこぶるにこやかな笑顔をふりまいたというのに、七海はニコリともせず、
「五条さん、お疲れ様です。失礼します」
と、僕の横を通り過ぎていく。
「ちょいちょいちょいちょい。ちょっと待ってよ」
と声をかけると、七海は立ち止まりクルリと振り返った。
「何ですか。何か用ですか?」
「久々に先輩に会ったってのにずいぶんとそっけないんじゃない?」
「それは失礼しました。これから出張なもので」
「出張?どこまで?」