第36話 告白
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『ずっと、俺のそばにいてくれ』
そう言って私を抱き締めたあの人は、寂しがりやの少年のようだった。
あれは、私の願望を映した姿。それとも、記憶の欠片に埋もれた本当の姿。
どちらでも構わない。
ただ、今度は私があなたを抱き締めるの。
この現実の世界にいるあなたを。
例えかつての日常には二度と戻れない、混沌とした世界だとしても。
「・・・伏黒君」
私を抱き締める伏黒君との間に手を入れて軽く押して身体を離した。
「ありがとう。伏黒君が呼びかけてくれなかったら、私は奇子の領域から抜け出すことはできなかった」
「・・・・・・」
「本当にありがとう」
伏黒君は私の表情を確かめるように見つめた後、
「何があったんです」
と言った。
「どうして京都へ。何があるんですか」
「・・・っ」
私は一瞬、言葉を詰まらせた。
だけど、一人で抱え込むことはもう出来なかった。
「・・・・・・助けて」
私は絞り出した声で話した。
『死滅回游』に、お父さんと紗樹ちゃんが巻き込まれていること。
私が羂索によって術式を仕込まれた
お母さんが、私が羂索から受けた
私はお母さんが命と共に持ち去った術式を取り戻そうとしていること。
そのカギが、京都の『香志和彌神社』にあることを───。
「・・・・・・」
話を聞き終えて、伏黒君は愕然とした顔で唇を噛み締めた。そして、
「・・・津美紀もだ」
ゆっくりと唇を解いて言った。
「津美紀も『死滅回游』に巻き込まれている」
今度は私が愕然とする。
「・・・そんな」
「津美紀が受けた呪いも、羂索によるマーキングのせいだった」
「・・・・・・」
「津美紀を術師同士の殺し合いに巻き込むなんてさせない」
「どうしたら・・・」
「天元様に会って策を尋ねる」
「天元・・・」
私はハッと息を飲んだ。
『いいか。天元様は妾で、妾は天元様なのだ!!』
奇子の領域内で見た過去の記憶。
『星漿体』護衛の任務。
それで知った、呪術界における結界の礎である存在───天元。
伏黒君は私が天元のことを知っているとは思いもしていない。私に説明するかどうか少し迷った後、
「・・・とにかく高専へ戻りましょう」
とだけ言った。
「・・・何をしても無駄よ」
声がして、私と伏黒君は振り返る。
するとそこには、失神していたはずの奇子がふらつきながら立ち上がっていた。
しかし次の瞬間。
ズブンッ・・・
奇子は足元の影の中に沈み込んでしまった。
「何すんのよ!」
なんとか顔だけを覗かせて奇子が伏黒君に向かって叫ぶ。
「オマエはこのまま高専に連れて行く」
伏黒君が言った。
「オマエは羂索と手を組んでいた呪霊の一味だろう。羂索の目的、これからの動向・・・オマエが知っていること全て洗いざらい吐いてもらう」
すると奇子はフッと目を伏せて、
「無駄よ。私は何も知らない。別に元々仲間なんかじゃないしね。
と言った後、
「・・・ただ、予感がするの。これから起こるのは途轍もなく恐ろしくおぞましく愉快なことだってことよ。それは、東京だけに留まらない。糠田が森も・・・日本中、ううん、世界に拡がって行く。私はそれを見届ける。それまで私はここで休ませてもらうことにするわ」
と不適な笑みを浮かべたまま影の中へ沈み込んでしまった。
「・・・・・・」
私と伏黒君はしばらくの間、沈黙して立ち尽くしていた。
奇子の言うことは、何の根拠もない、こけおどし同然の言葉だ。
わかっていても拭えない不安が私達に立ち込めていた。
「・・・行きましょう」
重い空気を断つように、伏黒君が歩き出す。
私もそれに続く。
しかし一歩を踏み出した瞬間、
「!?」
足から急に力が抜けて、私は崩れ落ちるようにその場に倒れ込んだ。
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