第31話 懐玉ー壱ー
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呪術高専生の日常はマルチタスクだ。
授業は一般教養から呪術まで多岐にわたり、もちろん各教科ごとにテストもある。
その上、現在は9月の京都姉妹校交流会に向けた特訓もある。
そして今は呪術師にとっての繁忙期。任務がない週はない。
とはいえ、それは私以外のことで。
「いててて・・・」
「ほら、ジッとして」
この日、灰原君が任務中に怪我を負って戻ってきた。
とある県内にある樹齢数百年の霊木を、地方自治体が推進する再開発の為に切り倒したことで呪いが発生。
その祓除の任務に七海さんと灰原君が赴いたのだった。
その霊木の呪霊の攻撃を受けて、灰原君は右腕に怪我を負ったのだ。
「ほら、これで治ったよ」
治療を終えて、硝子さんが言った。
「でも、念のためしばらくはギブスで固定するよ」
「えぇ~っ!?」
「骨が粉々になってたんだ。反転術式だけで治すにも限度があるよ」
「交流会までには治りますか?」
「アンタが無茶せず安静にしてればね」
「そうですか。よかった~」
と、灰原君は胸を撫でおろした。
「全然よくない」
間を置かず、七海さんが打ち消すように言った。
「オマエは無茶が過ぎる。闇雲に突進するのはよせ。もう少しで呪霊に噛み砕かれて丸呑みされるところだったんだぞ」
その話を聞いて、私は「ヒエッ」と青ざめる。
だけど、当の灰原君はあっけらかんとしている。
「大丈夫だよ。それにあの時は僕が行ってなければ、一般人に被害が及んでいたかもしれないじゃないか」
「先にオマエがやられては、もっと被害が出たかもしれなかったんだぞ」
「大丈夫だよ。七海もいるんだし」
と、灰原君がニコニコしながら話すと、七海さんは呆れたように「ハァ~」と深い溜息を吐いたきり黙り込んでしまった。
「・・・私も一緒に任務に行けばよかったね」
と私が言うと、皆がこちらを一斉に振り向いた。
私は言葉を続けた。
「そうしたら、その場で灰原君のこともすぐ治せたのにね」
「危険な最前線に反転術式の使い手を出す訳にはいきませんよ」
七海さんが言った。
それでも私は納得できない。
「でも、高専には硝子がいたらいいんじゃない?何も二人で待機してなくても」
「任務に赴いている術師は我々だけじゃありません。何人もいるんです。それに、呪霊の被害に遭った非術師も。彼等がいつ運び込まれるかは予測できません。ひとつでも多くの命を救う確率を上げるために、家入さんと鶴來さんは高専で待機していた方が良い」
「・・・・・・」
「最後の砦なんですよ、貴女方は」
そう七海さんは言うけれど。
一番の危険に晒されているのは、最前線で戦う術師なのに。
彼らの傍にいることが、命を救う確率をあげる一番の方法だと思うのに。
「・・・無茶しないでね」
とだけ灰原君に告げて、私は言葉を飲み込んだ。
「そういやなかなか帰ってこないねー」
食堂で夕飯を食べていると、ふと思い出したように硝子さんは言った。
硝子さんは今しがた思い出したという風だけれど、私は今日一日ずっと気にしていたことだった。
五条さんと夏油さんのふたりは早朝に任務へ向かった。
簡単な任務だと聞いていたけれど、日が暮れて夜の入りになった今になってもまだ帰ってこない。
「・・・どうせまた勝手にどこか遊びに行ってるんでしょ」
と私が言うと、硝子さんはキョトンとしてこう言った。
「違う違う。あのバカ共じゃなくて歌姫先輩と冥さんのことだよ」
「え」
「知らなかった?廃墟の洋館に肝試しに行った一般人が次々に行方不明になってる案件。その調査に歌姫先輩と冥さんが行ってるって。もう丸2日連絡がないって」
「そうなの?大丈夫なのかな・・・」
「まぁ、冥さんがいるから大丈夫だとは思うけど」
「それでも心配だよ・・・」
まさか歌姫さんと冥さんがそんなことになってたなんて。
何も知らなかった自分がなんだか薄情のように思える。
そんなことを考えていたら、
「もーらいっ」
と、硝子さんが私の皿から最後の一個のから揚げをヒョイっと取って口に放り込んだ。
それで私はハッと我に返る。
見ると、硝子さんはイタズラな笑みを浮かべている。
きっと、私をなだめてくれているのだろう。
「もーっ。せっかく残しておいたのに」
「フッフッフッ」
本当は食べられたって構わないのだけれど、私は怒ったフリをした。
授業は一般教養から呪術まで多岐にわたり、もちろん各教科ごとにテストもある。
その上、現在は9月の京都姉妹校交流会に向けた特訓もある。
そして今は呪術師にとっての繁忙期。任務がない週はない。
とはいえ、それは私以外のことで。
「いててて・・・」
「ほら、ジッとして」
この日、灰原君が任務中に怪我を負って戻ってきた。
とある県内にある樹齢数百年の霊木を、地方自治体が推進する再開発の為に切り倒したことで呪いが発生。
その祓除の任務に七海さんと灰原君が赴いたのだった。
その霊木の呪霊の攻撃を受けて、灰原君は右腕に怪我を負ったのだ。
「ほら、これで治ったよ」
治療を終えて、硝子さんが言った。
「でも、念のためしばらくはギブスで固定するよ」
「えぇ~っ!?」
「骨が粉々になってたんだ。反転術式だけで治すにも限度があるよ」
「交流会までには治りますか?」
「アンタが無茶せず安静にしてればね」
「そうですか。よかった~」
と、灰原君は胸を撫でおろした。
「全然よくない」
間を置かず、七海さんが打ち消すように言った。
「オマエは無茶が過ぎる。闇雲に突進するのはよせ。もう少しで呪霊に噛み砕かれて丸呑みされるところだったんだぞ」
その話を聞いて、私は「ヒエッ」と青ざめる。
だけど、当の灰原君はあっけらかんとしている。
「大丈夫だよ。それにあの時は僕が行ってなければ、一般人に被害が及んでいたかもしれないじゃないか」
「先にオマエがやられては、もっと被害が出たかもしれなかったんだぞ」
「大丈夫だよ。七海もいるんだし」
と、灰原君がニコニコしながら話すと、七海さんは呆れたように「ハァ~」と深い溜息を吐いたきり黙り込んでしまった。
「・・・私も一緒に任務に行けばよかったね」
と私が言うと、皆がこちらを一斉に振り向いた。
私は言葉を続けた。
「そうしたら、その場で灰原君のこともすぐ治せたのにね」
「危険な最前線に反転術式の使い手を出す訳にはいきませんよ」
七海さんが言った。
それでも私は納得できない。
「でも、高専には硝子がいたらいいんじゃない?何も二人で待機してなくても」
「任務に赴いている術師は我々だけじゃありません。何人もいるんです。それに、呪霊の被害に遭った非術師も。彼等がいつ運び込まれるかは予測できません。ひとつでも多くの命を救う確率を上げるために、家入さんと鶴來さんは高専で待機していた方が良い」
「・・・・・・」
「最後の砦なんですよ、貴女方は」
そう七海さんは言うけれど。
一番の危険に晒されているのは、最前線で戦う術師なのに。
彼らの傍にいることが、命を救う確率をあげる一番の方法だと思うのに。
「・・・無茶しないでね」
とだけ灰原君に告げて、私は言葉を飲み込んだ。
「そういやなかなか帰ってこないねー」
食堂で夕飯を食べていると、ふと思い出したように硝子さんは言った。
硝子さんは今しがた思い出したという風だけれど、私は今日一日ずっと気にしていたことだった。
五条さんと夏油さんのふたりは早朝に任務へ向かった。
簡単な任務だと聞いていたけれど、日が暮れて夜の入りになった今になってもまだ帰ってこない。
「・・・どうせまた勝手にどこか遊びに行ってるんでしょ」
と私が言うと、硝子さんはキョトンとしてこう言った。
「違う違う。あのバカ共じゃなくて歌姫先輩と冥さんのことだよ」
「え」
「知らなかった?廃墟の洋館に肝試しに行った一般人が次々に行方不明になってる案件。その調査に歌姫先輩と冥さんが行ってるって。もう丸2日連絡がないって」
「そうなの?大丈夫なのかな・・・」
「まぁ、冥さんがいるから大丈夫だとは思うけど」
「それでも心配だよ・・・」
まさか歌姫さんと冥さんがそんなことになってたなんて。
何も知らなかった自分がなんだか薄情のように思える。
そんなことを考えていたら、
「もーらいっ」
と、硝子さんが私の皿から最後の一個のから揚げをヒョイっと取って口に放り込んだ。
それで私はハッと我に返る。
見ると、硝子さんはイタズラな笑みを浮かべている。
きっと、私をなだめてくれているのだろう。
「もーっ。せっかく残しておいたのに」
「フッフッフッ」
本当は食べられたって構わないのだけれど、私は怒ったフリをした。
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