第27話 新世界
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ズサッ・・・ズサッ・・・
「久しいね、和紗」
袈裟の袖の布ずれの音を響かせながら、彼が私に近づいて来る。
そして、私に微笑みかける。
「私のことを覚えていてくれてたんだね」
夏油傑。
五条さんの親友。
五条さんが殺めたはずの、親友。
「覚えているとも」
そう答えたのは、総監部の左瞼の傷の男だ。
「『最悪の呪詛師』夏油傑。近年呪術界の悪夢。この悪夢も、今この手で断ち切る・・!」
そう話しながら、懐から4本のクナイを取り出し指の間に挟む。
そしてそれらに呪力を流し込むと、
「!」
夏油に向かって投げつけた。
しかし、夏油は袖を翻してそれらを難なく跳ね除けた。
「つまらないな」
夏油は言った。
「何百年前から変わらない戦法。全く進化のない・・・実に退屈だよ。高専の連中は」
そして、そばに侍らせた芋虫の呪霊に合図を送る。
すると、芋虫の呪霊はガパッと大きく口を開けて、猛然と左瞼の傷の男に襲いかかる。
「くっ・・・」
左瞼の傷の男は食われまいと後ろに飛び退く。
避けてはいるが、紙一重だ。
その度に芋虫の呪霊がガチガチと宙を喰い千切る音が響く。
そうしてついに窓際に追い詰められると、
ガシャン・・・!
窓ガラスを割り、そのまま飛び降りて逃げ去って行った。
その際、割れた窓ガラスから強い風が吹き込む。
「・・・っ!」
吹き込む風に目をしかめていると、
「これで、邪魔はいなくなったね」
と言いながら、夏油は芋虫の呪霊を撫でた。
すると、芋虫の呪霊は粘土のようにグニャリと姿を変えられ、そのまま割れたガラスを塞ぐのに使われた。
「・・・・・・」
風が止まり、私は改めて夏油と向き合った。
夏油も私に視線を留めると、
「どうしてここを知ってる、と訊かないんだね」
と言った。
「・・・奇子でしょう」
と私が言うと、夏油は「その通り」と微笑んだ。
「そう。奇子の術式だ」
「・・・・・・」
「『魂の皺』を読む。ただそれだけ。最初は何の役にも立たないと思っていたが、なかなかどうして」
「・・・・・・」
「有益な力だ」
「・・・・・・」
「お陰で、君の事を深く知ることが出来た」
「・・・私の・・・」
「さて。どうして私がここに来たのかというと・・・」
「そんなことどうでもいい」
夏油の言葉を遮り、私は叫んだ。
「返して!五条さんを返して!!」
しかし夏油は動じることなく、悠然と笑みを浮かべ続けている。
そして袂の中を探りながら、
「君が求めているのは、これかな」
と、立方体の箱のようなものを取り出した。
その箱についた不気味な目玉がギュルリと剥いて、視線がぶつかる。
『獄門疆』。
それがそうだと認識するより早く、私はそれを奪おうと夏油に飛びかかった。
しかし夏油はひらりと身をかわすと、空いている左手で私の腕を掴んでひねり上げた。
「・・・っっ」
腕の痛みに臆することなく、私は夏油を睨みつけ言葉を繰り返す。
「返して・・・!私のことはどうしたっていい。何だってする・・・!だから・・・」
「何でもする?」
そう言いながら、夏油は私を自分の身体の方へ抱き寄せた。
そして、ぐっと顔を近づけて囁く。
「それじゃあ、この前のキスの続きでもするかい?」
「・・・・・・」
私は受け入れるでもなく拒むでもなく、じっと夏油を睨みつけるように見返した。
すると夏油はプッと噴き出して、
「冗談だよ。君は魅力的だと思うが、私はそういったことに関心がなくてね」
と、私を突き放して『獄門疆』を袂に戻した。
私はよろけながらそのままぺたりと床に座り込んだ。
「そう心配しなくても、彼を殺すことはしない。現に殺せないと踏んだから、こうして封印することにしたんだ。いずれ封印も解く。ただ、それは今じゃない」
「・・・・・・」
「数百年後の新しい世界でだ」
私の関心は、今すぐそこにある『獄門疆』のことだけ。
それなのに、その言葉が強く引っかかった。
「新しい世界・・・?」
「そう」
夏油は深く頷きながら言った。
「そのことを聞かせたくて、私は君に会いに来たんだ」
1/12ページ